文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL177

2019/09/18

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   

              VOL 177
   
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お待たせ致しました。
今月号のリーフノベルです。 

リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
短編読み切り小説です。
幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

    
     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載
リーフノベルを東金市情報誌「ときめき」に連載中
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  ■☆■☆■☆■☆  リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆



  ■■■■■■■■■■   めし   ■■■■■■■■■       
                                         
                                        
   「泣いてばかりいては一人立ちできんぞ」

 泣き虫だった私を、父はよくそう言って叱咤(しった)した。また、

 「父さんはいつまでもお前に『めし』を食わしてはやれんのだぞ」とも言った。

 小さかった私は、自分は一人で立っているし、自分でご飯を食べているのに変な

 ことを言うものだと思ったものだ。

  私が父の言う『めし』の意味を理解したのは、小学校も高学年になってからの

 ことだった。理解はしたものの、それが父の言うほど難しいこととは思えなかっ

 た。

  家の近くに小さな藁屋根(わらやね)の小屋があり、そこに一人の老人が暮ら

 していたが、小さな畑から取れたものを食べ、近くの川や池から鰻や雷魚を捕っ

 て来ては、いつも良い匂いをさせていた。老人は子供が好きで、私に竹とんぼや

 杉鉄砲を作ってくれた。

  ある時老人は、茹(ゆ)でて真っ赤になったザリガニをうまそうに食べていた。

 老人の目は極上の料理でも食べているような満足そうな目をしていた。私はなぜ

 かその老人に羨(うらや)ましさに似た物を感じるのだった。家に帰りザリガニ

 を食べたいと母に言うと、

 「あんな物普通の人は食べないのよ」

 と言われ、老人は仙人なのかも知れないと思ったりし、父の言葉はますます大袈

 裟なものに思えてくるのだった。

  ザリガニを旨(うま)そうに頬張る老人の顔を私は今も忘れることができない。

 私は親に言われるまま大学に進学し、やがて高校で教鞭を取るようになった。教

 員五年目に結婚し子供も二人生まれ、同じ教員だった妻とともにさほど苦もなく

 『めし』を食った。そして子供たちには、

 「お前たちもやがて自力で『ご飯』を食べねばならない」

 と父の受け売りを言ってきた。

  今年で教員生活三十年目になるが、何百人となく送り出した卒業生にも、はな

 むけの言葉として同じような言葉を送ってきたものだった。

  さる夕暮れ帰宅しようとしていると担任をしている一人の生徒の父親が私を訪

 ねて学校にやって来た。そして子供を退学させたいと言うのだ。あまりにも急な

 ことに驚いた私は理由を聞いた。すると息子と二人で働くのだと言うのだ。その

 親は問わず語りに身の上話を始めた。

  彼はさる商社に就職したが宮仕えが性に合わず脱サラをし事業を手がけたとい

 う。だがどの事業も失敗し、その度に借金はふくれ上がったという。債権者から

 逃れ、夜逃げをしたこともあったらしい。

 「食う物が何もない時もありましてね、無人精米所でこぼれている米をかき集め

 たこともありました。でもね先生、今始めた仕事がやっと軌道に乗り、少し手を

 広げたんで息子と二人でやりたいんです。あいつも一緒にやりたいって言うもの

 ですから」学校の勉強など眼中にない口ぶりだった。

 「こんな事を言っちゃあ先生には悪いが、サラリ−マンというのはバタリ−の中

 の鶏と同じですよ。バタリ−に入り込む為には多少頑張らにゃあならんが、入っ

 ちまえば後は目の前の蠅(ハエ)を追ってりゃあいい。自分でメシを稼ぐってい

 うことはそんなもんじゃない。実際の話、自力で生きるってことは生半可な事じ

 ゃないですよ。でもね、自分で稼いだメシはどんな粗末なもんでも一番旨いです

 よ」そう言い残して帰って行った。

  翌日生徒は退学届けを持ってきた。

「二年になったばかりじゃないか。お父さんにも言ったが学費の減免処置や奨学

 金の制度もあるんだが」と言うと、

 「お金のことじゃないんです、おやじと一緒に食っていくんです。勉強も好きだ

 けど勉強は生きてる感じがしないっす。おやじを見てると生きてるって感じるん

 です。おやじが動けなくなったら俺一人でもやります。病気のおふくろも当分退

 院できそうもないし」

 目には今まで見せたことのない輝きがあり、昔見たザリガニを食べていた老人の

 目を思い出させた。私は『めし』の本当の意味を教えられたような気がした。同

 時にこれまで自分は親のしつらえた食卓に座っていただけのような気がしてきた。

 なぜかふと、仙人になる修行に旅立つ親子を見送るような、そんな思いに駆られ

 たのだった。


     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○● 
 
  待望の夕顔が咲いた。五月のある暖かな日に種を蒔いたものだ。 いつかもこの
 場に書いたことがあるが、夕顔の種は固くヤスリで傷つけなくては発芽しない。
 傷が大きすぎれば双葉は無残な形になるし、傷が浅ければ丈夫な表皮が破れずに
 やがて腐る。したがって夕顔の芽が出ると安堵と共に優越感に似たものを感じる
 のである。
  今年は八十個ほどの種を蒔き四十数個が発芽した。発芽率は丁度50%だ。こ
 れが商売なら負け組なのだろうが、家庭の庭では大成功だと自負している。芽が
 出てから一月くらいの間に本場は二十枚ほどになるはずだが、今年の梅雨は長雨
 が続き寒い日も続いた。約束で苗は近所や仲間に配り、我が家に残った十本ほど
 はなかなか育たずはらはらさせられた。
  8月になり、近所では花を開き始めた所もある中、何故か我が家の夕顔は花芽
 が付かなかった。内心焼きもきしなくもなかった。ところが9月も半ばになり、
 三日程前から花が咲き始め、夕べは一鉢に25個も純白の花を付けた。一杯に
 広げた手の大きさの花が、他の鉢の花と合計すると50個も咲いたのだ。待た
 された分だけ咲いた花は立派に見える。さてはて明日は幾つ咲くだろう。
 これを書きながら自分の単純さに、ふとあきれてはいるが、誰も知らない心の
 内だ。自分で自分を笑うとしよう。  (2019/9/17)



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またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。 
まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
 
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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