文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL175

2019/08/09

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   

              VOL 175
   
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お待たせ致しました。
今月号のリーフノベルです。 

リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
短編読み切り小説です。
幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

    
     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載
リーフノベルを東金市情報誌「ときめき」に連載中
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  ■☆■☆■☆■☆  リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆



  ■■■■■■■■■■  おなご先生 ■■■■■■■■■■       
                              
 
   原山玄治は小学校の先生になった。きっかけは一人のおなご先生だった。

   おなご先生と会ったのは玄治が小学校五年生の時だった。玄治は終戦直後父

  を亡くし、老いた祖母の住む母の実家である漁村に越してきた。母親は近くに

  あった干物の加工所で働いた。

   玄治は村の小学校に通うようになったが、なかなか仲間ができなかった。中

  学生と間違えられるほど背だけは高かったが色白でいかにもひ弱そうに見え

  『青びょうたん』のあだ名をつけられた。村の子供達は日焼けした赤黒い顔で、

  どこぞの原住民のようだった。そんな中に加工所のせがれで泰三という六年生

  のボスがおり、泰三を中心にした数人の悪ガキ達がいた。

   そのボスがある時、

  「おめっちの母ちゃん、俺んちの所では働いてんだろ。だからおめえは俺の子

  分になれ」

  そんな事を言って近づいてきたのだ。玄治は、泰三に逆らえば母親が働けなく

  なるのではと思った。とはいえ、子分になりますとも言わなかった。だがそれ

  からというもの泰三はことある度に子分を使って玄治を呼びだした。

   泰三達との遊びは楽しいこともあった。夏には一日中海で泳ぎ、貝を採った

  り大きな網で魚を捕ったりした。玄治はいつの間にか泳ぎが達者になった。海

  中に一分以上も潜れるようにもなった。だが停留している漁船の下をくぐるの

  は恐ろしかった。大人達からは、『船の下をくぐっちゃいけん』とよく言われ

  たが、なぜいけないのか玄治には分からなかった。

 泰三達と遊ぶ中でいやなことがあった。泰三達は遊び疲れ、腹が減ると近く

  の畑に入り込み、トマトやマクワウリ、時にはスイカなどを盗みに行くのだ。

  盗みが嫌で玄治はこっそり家に帰るのだが、いつであったか海から上がり、休

  んでいると漁船の下をくぐれなかったからスイカを盗ってこいと命令された。

  盗んだ事に罪悪感を感じながらも、スイカは火照った体にはこの上ない甘露だ

  った。

   玄治の最も嫌だったのは、時には中学生が数人加わり、雑貨店や駄菓子屋か

  ら万引きをすることだった。それだけは絶対にやるまいと思い、中学生が来る

  とこっそり輪から抜け出て隠れたりした。ところがある時玄治がいなくなった

  ことに気づいた中学生は、泰三に玄治を探させたのだ。渋々やってきた玄治に

  中学生は盗んだ駄菓子の幾つかを無理矢理におしつけてきた。玄治は震えなが

  らチュウインガムを手にした。その時だった。怪しんで付けてきた店のおばさ

  んに見つかったのだ。中学生達は一目散に逃げ去った。玄治はおばさんに襟首

  を押さえられ、学校に連れてこられた。手にはチュウインガムが握られていた。

  「この前盗んだのも背が大きかったから、この子だったんだよ。警察につきだ

  した方がいいんだけど」

  おばさんは玄治を教頭に引き渡すと帰って行った。

  「おまえ万引きしたんか。おとなしそうな顔をして意外に悪だなあ。この前学

  校裏の畑のじいさんが押し込んできて、スイカやトマトをしょっちゅう盗んで

  行く子がいると言っていたが、それもお前だろ」

  教頭は恐ろしい顔で玄治をにらんだ。確かにたった一度だけスイカを盗ったこ

  とがある。だが何度もやっているのは泰三達だ。とは言え『それは泰三が』と

  は言えなかった。母親が加工所を辞めさせられかねないからだ。黙っていると

  教頭の鉄拳が飛んできた。玄治は地面に倒れ込んだ。頬が腫れ上がったが涙は

  出なかった。

  「強情な奴だ。今日はこれで勘弁するが、今度やったら少年院だぞ」

  教頭はいなくなった。そこへ駆け込んできた人がいた。担任のおなご先生だっ

  た。おなご先生は玄治を抱きしめながら言った。

  「玄ちゃんはそんな子じゃないって知ってるもん。でももうあんな仲間と遊ぶ

  のはやめよ。今度誘われたら先生に呼ばれてるからって言って私の所におい

  で」

  先生の胸もとからは甘い香りが漂った。玄治は先生の胸の中で声を上げて泣い

  た。

  『俺、おなご先生のような先生になろう』

  教師をめざしたのは、まさにこの時であった。


     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●

   梅雨晴れのほとんどない水浸しの梅雨が終わったかと思うと,今度は猛暑が
 続いている。夏は確かに暑い方がいいとは思うが,エアコンのない外に出られ
 ないのはさすがに辛い。締め切った家の中でさんざめくセミの声を聞いている
 しかないのかも知れない。
 セミの声と言えば、最近聞き慣れない鳴き声を聞くようになった。私は子供の
 頃から聞き親しんできた鳴き声は,ジワージワーと天ぷらを揚げるような声で
 なくアブラゼミと、お盆過ぎに聞くニーニーゼミの声。そして夏の終わりに
『ツクツクホーシ ツクツクホーシ チョコインヨウ チョコインヨ ジー』
 と鳴くヒグラシゼミの声だ。ところがこの二三年前から聞いたことのない鳴き
 声を聞くようになったそれは,シャーシャーシャーとせわしげになくのだ。
 妻が言うにはそれは山奥で鳴くクマゼミの声だと言う。山奥のクマゼミがどう
 して平地にまで来るようになったのだろう。やはり温暖化が原因なのだろうか。
 人間はたかだか百年しか生きられないため,数万年を単位として変動する自然
 の変化を感じられず,自然は永久に変わらないものと思い込んでしまう傾向が
 ある。だからクマゼミの声が聞けるようになったことくらいは、自然の歴史か
 ら見たら変化の内には入らないのかも知れない。もっとも、そんなわずかな変
 化に恐怖感を潜ませた物言いをするのが人間の人間たる所なのかも知れない。
 そんな事を考えながらシャーシャーと生きていきたいものである。
                                                      (2019.8,9) 
    

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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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