文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL174

2019/06/24

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   

              VOL 174
   
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お待たせ致しました。
今月号のリーフノベルです。 

リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
短編読み切り小説です。
幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

    
     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載
リーフノベルを東金市情報誌「ときめき」に連載中
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  ■☆■☆■☆■☆  リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆



  ■■■■■■■■■■  男って単純ね  ■■■■■■■■■■       
                              
  
  「亭主の操縦なんて簡単よ」

  結婚して五年目の理恵が言った。聞いていた香奈は結婚したばかりだ。夫同士が

  同じ職場の同僚だったことから、理恵と香奈はよく長話をするのだった。

  「最近佑次さん、ワンマンになったように感じるの。操縦って、どうすればいいの」

  里奈は身を乗り出して聞いた。

  「簡単よ。褒(ほ)めてやればいいの。男って子供みたいで意外と単純なのよ」

  「子供?」

  「そう子供。例えばね」

  そう言って自分の経験を得意げに話しだした。

  「自分で買って来たネクタイを、センスが良いって褒めたりとか、車の運転が上手

  だとか、食器洗いが丁寧だとか色々あるわ。こんなこともあったわ。たまたま作っ

  てくれたチャーハンを、私が作るより美味しいって褒めたら何度も作ってくれるよ

  うになったのよ。それと子供のあやし方が上手だと言ったらね、一日中子供を見て

  いてくれる様になったりしたの」

  「理恵さんのご主人もともと料理上手なんでしょ」

  「とんでもない。最初のチャーハンなんかべとべとで猫だって食べない代物だった

  わ。子供のあやし方だって危なっかしかったんだから。でもね不思議なことに褒め

  てやるとだんだん旨(う)くなるのよ」

  「でもうちの佑次さん、家では何もしない人だから褒めようがないな。やることと

  言ったら毎晩ビールを飲むことくらい」

  「それじゃあさ、佑次さん美味しそうにビール飲むわねって言ってみたらどう」

  「そんなこと言ったら頭に乗ってもう一本て言いかねないもん」

  「だからさ、きちっと一本で切り上げるんだから意志が強いわね、とか言ったりす

  るのよ」

  「そうか、そう言えばいいんだ」

  「そう。男はみんな単純だから」

  それを聞いた香奈は自分も夫を褒めてみようと思いたった。家に帰ると何を褒めれば

  良いか探してみた。だがなかなか見つからない。そうこうしているうちに夕方になり

  夫が勤めから帰ってきた。

  「お帰りなさい」

  と声をかけたものの、何か褒める事はないか夫を見つめた。

  「なんだ。どうかしたのかい」

  佑次が聞いた。

  「あなた、えらいわ」

  とっさに適当に褒めてみた。

  「何がさ」

  不思議そうな顔をした。香奈は言葉をつまらせながら、

  「だって、あなた、人を見る目があるから」何とか繕った。

  「人を見る目?なんだそれ」

  「だって」

  「だってなんだよ」

  香奈は一瞬考え、
  「だって結婚相手に私を選んだじゃない」

  香奈は旨く褒めたと内心思った。だが、

  「何言ってんだ。それを言うならむしろお前の方が男を見る目があったって言いた

  いね。そんな冗談なんか言ってないで早くめしにしてくれ」

  香奈は褒め言葉になっていなかったことに気づき苦笑した。次の日の夕方、風呂か

  ら上がってきた佑次の前にビールを差し出した。

  「おっ、気が利くねえ。君も一緒にどうだい」

  佑次に誘われ二人で一本飲み終えると、酒に弱い香奈は少しふらついた。それを見

  た佑次は晩ご飯の片付けを手伝った。この時だとばかりに、

  「片付けが上手ね。私よりずっと丁寧だし」

  そう言って褒めてみた。佑次は怪訝そうな顔をした。

  数日経った花金の五時すぎ、佑次は久し振りに理恵の夫と二人で駅前の居酒屋に

  入った。

  「ユウさん、新婚の味はどうだい」理恵の夫が聞いた。

  「最近香奈の奴、変なんだ。やたらに褒めようとしている。後ろめたいことでもし

  てるんじゃないかって疑っちゃうよ」佑次は答えた。

  「うちの奴に吹き込まれたんじゃないのかな」

  「吹き込まれたって、何を?」

  「うちのはさ、褒めれば亭主は喜んで何でもすると思ってるらしい。見え透いてる

  ぞって言ったら傷つくだろうから、馬鹿の振りをして子供みたいに喜んでやってるけ

  どさ。最近俺はあいつの褒め言葉は『ありがとう』の代わりだと思うことにしてるん

  だ」

  「そうか、喜んでやればいいのか。女って単純だなあ」

  「それで亭主を操縦してると思ってるんだから、考えてみれば女って馬鹿だなあ。

  子供だよ」

  二人は顔を見合わせると苦笑いしながらジョッキーを持ち上げたのだった。



     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
  
   雨が降っている。梅雨入りして数週間が経った。私は家の中でただぼうっとテレビを
 見ている。我が家の十五歳の犬は朝から寝ている。ふと生きるとは何か、そんな事を考
 えた。
 生き物の楽しげな部分に視点を当て、その生物が楽しげに生きているかのように思う
 人は多いようだ。今見ていたテレビでも、鳥が楽しげに自由に大空を飛んでいる、など
 として楽しげなBGMを流している。本当に小鳥は楽しいのだろうか。大風や今日のよ
 うな雨の日にはおそらく、びしょ濡れになりながら天候が回復するのをひたすら待って
 いるに違いない。空腹になったからと言って、我が家の犬のように誰かが食べものを与
 えてくれるわけでもない。天敵に襲われてもただただ必死に逃げるしかない。小鳥が大
 空を飛んでいるのは決して自由を謳歌しているのではなく、少ない食べ物を探し歩いて
 いるか、天敵から身を隠す必死な逃走の最中かも知れないのだ。繁殖期には異性を探し、
 雄同士の激しい競争にも打ち勝たねばならない。つまり、傍目には楽しげに見える生物
 の営みは、実は生き抜く努力の最中なのだ。その点、人間や人間に飼われているペット
 などは生き物としての根底が自然からずれてきたといえる。しかるに「楽しくなければ
 人生ではない」などという言葉も多くの人が納得している。この言葉を見ても人間は他
 の生き物とは違い、生きること事態が他の動物とは違ってしまった。『衣食足りて礼節
 を知る』そんな言葉が成り立つほどに人間は生き物らしくなくなったのだといえる。
 だからと言って他の生き物が生を謳歌しているように思うのは人間の大きな錯覚ではな
 いだろうか。とかく生きるとは大変な事なのだと今更ながら思う私である。
 鬱陶しい雨にそんな事を考えさせられた。(2019.6.24) 

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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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