文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL169

2018/08/07

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   

    VOL 169
   
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お待たせ致しました。
今月号のリーフノベルです。 

リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
短編読み切り小説です。
幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

    
     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載
リーフノベルを東金市情報誌「ときめき」に連載中
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  ■☆■☆■☆■☆  リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆



■■■■■■■ 河童の亮太 ■■■■■■■       


 亮太が降り立った駅は漁村だった。駅を出て歩いていると

『漁師見習い募集』

 そんな貼り紙が目に入った。張り紙には『さかな、食べ放題』と書いてある。

亮太は魚には目がなかった。なぜなら、実は亮太は河童だったのだ。

その河童がどうして人間の世界に居るのかには深い訳がある。

 亮太の暮らしていた河童の村は東北の大きな泉川という中州にあったが人間

の手による自然破壊が進み、暮らしづらくなったのだ。河童達は住み慣れ

た川を離れて行った。中には『ムジナ村』という貧しい隣村に移り住んだり、

遠い異国に旅立つ者もいた。

 河童は人間に化けることくらい造作もない。背中にくっついている甲羅(こうら)

は、実は亀のそれとは異なり取り外せるし、頭の皿はただの禿であって、

ヘアーピースを乗せれば人間と見分けがつかない。口のとがった河童の絵を

よく見かけるが、あれはたまたま怒った時の顔をどこぞの絵師が大げさに

描いたのにすぎない。

 やがて泉川流域の河童村から河童達は居なくなり、残ったのは亮太親子

だけになった。

「おれはこの川の親方として生きてきた。今更よその土地では生きたくない」

それが父親の口癖だった。父親の頑固なまでの信念が亮太には崇高なものに

思え、自分もできれば父親と同じように泉川に住み続けたいと考えた。

 やがて父親は二百歳でこの世を去った。河童族にしては少し早死にだった。 

環境の悪さが死期を早めたのだろう。独りになった亮太は、しばらく父の墓

を守って暮らしたが、十五歳になった年の冬、とうとう食べるものがなくな

り人間の住む町に出てきたのだ。

 出て来た当初、人間社会でどう生きればよいか分からなかった。言葉は幼児

程度にしか理解できない。腹が減り、動けないで居ると警官に補導された。

河童の十五歳は人間の五〜六歳くらいにしか見えない。

「君は幾つ?名前は?」いろいろ質問されたが答えようがなく、

「わからない。」を繰り返していると、施設に預けられ、そこで 十数年暮

らしたのだった。人間の食べ物を食べ、寝起きを一緒にすると人間と同じ

ように歳をとった。

 やがて高校を卒業し独り立ちして十年が経ち、人間の暮らしも捨てた物

ではないと思い始めた頃だった。一人の女の子と知り合いになった。

亮太には初めての恋だった。

 だがその恋をどう育てれば良いものか見当もつかず、婚活の本を読んだ

り仲間に聞いたりしてみたが、不安は募る一方だった。『生きること』と

はどうすることか。結婚し生まれた子供はどう育てれば良いのか。

良い人生とはどんなものか。また生きがいにしてきた河童の誇りをどう守

れば良いのか。何より自分が河童であることが、生活にどう影響するのだ

ろうか。

 そんな迷いのせいか、二年ほど続いた彼女との交際も次第に冷め、彼女

は別れ話をほのめかし始めた。ある時、彼女は

「これ読んで」

そう言って一通の手紙を渡たされた。別れの手紙だと亮太は察した。

 亮太は仕事も辞め、ふらりと旅に出た。

 列車の中で彼女からの手紙を広げた。

「私、あなたの秘密知ってます。あなたは本当は河童でしょ。秘密なら私に

もあります。私の先祖はムジナ村出身で、私はムジナです。人間は勝手に自

然をゆがめているけど、そんな生きづらい世界でも二人なら何とか生きられ

る。生きるためなら私どこへだって行ける。生き続けることが私たちムジナ

族の誇り。河童族もそうでしょ」

 読み終えた亮太は列車を飛び降りた。降りた所が房州のさる駅であり

そこで『漁師募集』の貼り紙を見つけたのだ。亮太は貼り紙の前で彼女の

携帯に電話をした。

「俺、この町で漁師になろうと思う。河童で良かったらこの町に来ないか。

河童もムジナも、一生懸命生きることが生き物の誇りだって気づいたんだ」

するといきなり誰かが亮太の背中をつついた。それは、そっと亮太の旅の

後を追って来た彼女だった。

「やっと気がついたのね、河童の亮太君」彼女は笑顔で言った。

 それから数年後、結婚して生まれた子が、これを書いている私なのである。


    ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●

  
 先日、幼稚園の先生をされているある方から携帯の写真画面を見せられ、
「これは悪い虫でしょうか」と聞かれた。画面にはまるまる太った緑色の、
一見不気味な青虫が写っていた。明らかに蝶の幼虫だ。蝶の幼虫は皆よく
似ており即答を避けた私はどんな木にいたかを聞いた。
するとレモンの木だという。柑橘系の葉を食べるのはアゲハチョウの幼虫だ。
普通のアゲハと言う意味で「ナミアゲハ」とも言われているものだ。
この幼虫がレモンの木に無数にいるというのだ。
それにしても悪い虫かとはどういう意味なのだろうか。答えに窮しながら
「レモンの木にしてみれば、葉が丸坊主にされますから悪い虫でしょうけど、
やがて羽化すればきれいな蝶になって子供達は喜ぶでしょうけど。」と言うと、
「いえ、ですから子供が鱗粉でかせるとか、毒があるとかという意味です。」
という「それならばだいじょうぶです。毒蛾のような害もないし、
刺されることはありません」と言うと、
「それではそっとしておけば蝶になるんですね」とうれしそうな顔をされた。
そこで私は、食べ物が無くなれば夜のうちに食探しに、
どこかに行ってしまいますから、網をかけて餌を与えた方がいいですよ。」
そんなアドバイスをした。彼女はうれしそうに帰って行った。
果たして無事に何匹が羽化できるだろうか。
葉がなくなると鳥に狙われやすくなることをアドバイスするのを忘れていた
のが少し気に掛かっている私である。 ( 2019 .8 .7 )



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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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