文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL144

2014/06/30

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL 144
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■ 幻覚   ■■■■■■■                                                               
             

 得意先を周り終えた誠は小さな公園脇のコンビニに車を止め、昼食用にサンドイ

ッチとタバコを買った。公園には青いアジサイの花房が揺れていた。

 ふと見ると公園のベンチにどこか懐かしい服装をした初老の女性の座っているの

が見えた。誠は見るとはなしにタバコをふかしながら、その女性を見ていた。女性

はじっと一点を見つめて動かなかった。家に居られない事情でもあるのだろうか。

誠はそんな事を思った。しかし考えてみれば贅沢な時間を彼女は送っているのだと

も思った。なぜなら、自分は朝から夜遅くまであくせく働き、のんびり出来る時間

など無かったからだ。会社でも家の中でも、最近の禁煙ブームが、愛煙家の誠には

ゆっくり気の休める場所さえ奪われていた。幸い家庭の中はしっかり者の妻がてき

ぱきと家事をこなし、二人の子供もどうにか中学生になったが、マイホームを建て

た時の借金のために、まだまだ頑張らねばならなかった。

「俺、いつまでゆとりのない生活をしなけりゃいけないんだろ」

誠はしみじみ思った。

 思えば誠の母親は誠がまだ小学生の時に亡くなり兄弟のなかった誠は独りぼっちの

寂しさから就職して二年目に結婚したのだが、父は結婚した翌年に他界していた。

考えてみればいつも何かに追いかけられているような忙しい十数年だった。

 携帯電話の着メロが流れた。先ほど挨拶を済ませてきた出先の課長から、もう一つ

依頼したいことが出来たとかで呼び出された。誠は急いで車に戻った。

 用件は多少複雑で二時間ほど時間がかかったがどうにか目鼻がつき、気がつくとま

たあのコンビニ脇の公園に来ていた。昼食を取り損ねていた事を思い出し、先ほど

買ったサンドイッチを手にベンチに座った。

「そうだ。ここはさっき女の人が座っていた所だ」

誠は口を動かしながら辺りを見回した。ブランコの向こう側にあるベンチに人が座

っていた。何故か誠はどきりとした。よく見るとそれは二時間前に見たあの女性だ

った。どこかで見たことのある人ではあるが、誠には思い出せないでいた。どこの

だれだろう。そんなことを思いながらブランコの支柱に視線を隠しながら女性を見

つめた

やがて女性の手元からふわりとハンカチらしい物が落ちた。気付かないらしくまだ

身動き一つしない。誠は残りのサンドイッチを頬張ると女性に近づき、

「これ、落ちましたけど」囁くように言いながら拾いあげ、女性の前に差し出した。

「有り難う御座います」女性はまだ虚ろな目をしていた。

「どこか体の加減でも悪いんですか」

誠は何故か丁寧な言葉で聞いた。女性はふうっとため息をつき、

「いいえ、どうして?」反対に質問された。

「長くここにおいでのようだから。もし具合でも悪いのかと思いまして。でも、余

計なお節介だったようですね。商売柄つい。すいません」

すると女性は急に明るい顔になり、

「お節介だなんてとんでもない。実は私、昔大病をしましてね、まだ子供は小さか

った頃ですけど」

「そうですか。それで子供さんはもう大きいんですか」

「ええ、結婚して子供も二人いるんです。でも、まだ私は孫を見たことがないんです」

「そりゃ息子さん、ひどいな。息子さんはどこにお住まいですか」

女性がにこりと笑った。そして彼女が口にした住所は、何と現在誠達の住む住所だっ

たのだ。

「それって、私の家じゃないですか」

そう言ったとたん女性の姿は掻き消え、梅雨晴れに解き放たれた一陣の風が吹き抜け

ていった。そこには砂埃に覆われたベンチがあるだけだった。

「あの人の顔。そうだ、あれは母さんだ。あの人は母さんの幻だったのかも知れない」

誠はそう思った。
   
 そう言えば毎日の忙しさにかまけ、墓参りに行ったことも無かったし、子供達におば

あさんの話をしたこともほとんど無かった。だから孫の顔を知らないと言ったのだろう。

 それにしても何故幻を見たのだろう。誠は不思議に思った。学生時代心理学の教授か

ら聞いた言葉を思い出した。

『幻覚は忙殺からの逃避である』

 余裕の無い最近の荒れた心が、記憶の底で薄れかけた母親に救いを求めたのかも知れ

ない。そう思うと公園の片隅のベンチが何故か無性に慕わしいものに思えるのだった。
 
 
   
  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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