文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL142

2013/12/29

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL 142
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■ピラニア   ■■■■■■■ 
                                                                 
              

   啓二が県の職員になり、五年目に配属されたのはさる会館だった。そこは利用

  者が多く、毎日のように調査会やら会議やらがある。その度に会場の設置などで

  忙しい。忙しいのは良いのだが啓二の心を最もかき乱すのは、利用者からのクレ

  ームだった。その会館には独特の規則があり、例えば部屋の椅子を他に持ち込ん

  ではいけないことや、湯茶室を使用する際は事務室に申し出ることなどである。

  慣れた利用者はよいのだが、初めての人は勝手に椅子を動かしたり黙って湯茶室

  を使用したりする。その度に規則ですからと注意をするが、

  「そんなこと何処にも書いてないだろ。『市民の便宜を優先します』という看板

  は、あれは嘘か」腹立たしそうに食ってかかるのである。催し物の案内チラシを

  作れば、時間が不正確だの部屋番号がないなどといったクレームもある。そんな

  中に特別クレームを言う初老の男がいた。手続きの必要な文書を勝手に持ち出し、

  「手続きが必要だとどこにも書いない」と詰め寄ったり、文献に栞を入れたまま

  にしないよう注意すれば、

  「栞を挟んではいけと何処に書いてあるんだ。書いてないのだからそっちの落ち

  度だ」と、何十枚もの栞を挟んだままで帰るのだ。このクレーマーを職員はピラ

  ニアとあだ名した。啓二はこんなクレーマーに煩わしさを感じていた。そこでな

  るべくクレームを無くすため、出来るだけ多くの注意書きを書いては張り出した。

   そんな煩わしい職場で唯一啓二の心を和ませたのはロビーに置かれた一つの水

  槽だった。何年か前の館長が熱帯魚好きで、古くからそこにある。水槽には三匹

  のエンジェルフィッシュがゆったりと泳いでいた。啓二は昼休みや時間が空いた

  時など、水槽をながめては心を紛らすのだった。

   ところがある日どうしたわけかこのエンジェルフィッシュが三匹とも死んでし

  まったのだ。すると先輩の事務官が言った。

  「歳だと思うよ。長く生きてたから」そう言って水槽を片付けるよう啓二に言っ

  た。啓二は水槽がなくなるのは寂しく思えた。

  「別の魚を飼っていいですか。僕が面倒を見ますから」

  「いいんじゃないの。これを飼っていた館長ももとは自分のペットだったんだ」

  それを聞いて啓二は喜んだ。さっそくその日退庁後にペットショップへ行き、ど

  んな魚にするか物色した。あれこれ迷った末に選んだのはピラニアだった。いつ

  もクレームを付ける男に口元が似ている気がしたのだ。

  「威張っていても水槽の中だけじゃないか。井の中の何とやらだ。よし、俺がお

  前を飼ってやる」ほとんど衝動的にピラニアを買い、早速次の日水を新しくした

  水槽に放したのだった。それからというもの啓二は利用客に文句を言われるとピ

  ラニアを睨みつけ、

  「アホかお前は。水槽の外じゃ生きられないくせに」と小声でなじった。する

  と胸の中がすっきりするのだった。

   ピラニアを飼い始めてから三月ほどが過ぎたある時、啓二はふと気づいた。ピ

  ラニアは人肉をも食うという。誰かがいたずらをして怪我でもしたら、

  「注意書きが無かったからだ」と攻められるに違いない。そこで啓二は遅ればせ

  ながら、『危険!ピラニアの水そうには絶対に手を入れないで下さい』そんな張

  り紙を水槽に取り付けた。これで怪我をする人は出ないだろうと思った。ところ

  がその日の夕暮れ時である。ロビーの方から悲鳴が聞こえてきたのだ。駆けつけ

  てみるとあの初老の男が指から血を流していたのだ。

  「どうしました.ピラニアに噛まれたんですか」啓二は聞いた。

  「そうだよ。ここは張り紙が多すぎる。だいたい、手を入れるなと書けば入れた

  くなるのが人情だろ」そう言って張り紙を指さした。誰が呼んだのかやがて救急

  車が文書館の前に停まった。心配顔の啓二の耳元で先輩が小声で言った。

  「なまじ張り紙があったから手を入れたんだろうな。でも張り紙があるんだから

  こちらの落ち度じゃないさ。ピラニアにはピラニアをか。お前もやるな」そう言

  って先輩は鼻で笑うのだった。

 
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     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
 
 
 発行が遅くなりましたことお詫びいたします。
    
 今年も暮れようとしている。いや、すでに暮れたと言って良いのではないか。
この一年を振り返れば、様々なことがあった。考えてみれば今年ほど多くの出
来事のあった年も珍しいのかもしれない。ところが今思うと一年はあっという間
の時間であったようにも思える。一年という時間は子供には長く大人、特に私の
ような老人には短く感じられると言うが、常に新しい経験と驚きとその記憶の蓄
積のために子供には一年が長いのだろう。だがいろいろあった私の今年ではあっ
たが、やはり一年は短かった。今年の出来事は私にとって新しい経験ではなかっ
たということだろうか。
あと数日でやってくる新しい年は、どんなに短く感じられようとも、何もない
平穏な一年であってほしいと願っている。 2013、12)
  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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