文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL137

2013/01/07

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜  高安義郎

                      VOL 137    
                      
                                 
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■  夢の列車  ■■■■■■■ 
                                                          


 ここ数日体調が思わしくなく、浩二は検査入院をした。付き添ってきた妻が言

 った。

「俺は不死身だなんて自慢しているけど、もう八十なんですから」

 妻に言 われるまでもなく、ことによると自分には死期が迫っているのではない
 
 かと内心思った。だが浩二には不安はなかった。

  浩二は若い頃画家になろうと 思っていた。だが家族を養うために務めた小さな

 社に勤め、時間を見つけては描き続けてきた作品はとうとう大きな展覧会で評

 価されることはなかった。一人息子も今では独立し二人の子の親となった。

 多少 の蓄えと年金で老後の生活に不安は無い。 

  浩二はベッドに横たわり天井のシミを見つめながら、ふと

『俺の人生って何だ ったのだろう』と思った。

 「太田さん二階の検査室にどうぞ」

 看護師が顔を覗かせて言った。

 CTスキャンや胃カメラ、また大腸検査と次々に苦痛な検査が進み、すべてが終わ

 ったのは二日目の昼過ぎだった。窓の外は初夏の日差しがまぶしい。近くの公園

 から子供の声が聞こえる。付き添いの妻を側に座らせ浩二はうとうととし出した。

   その昼寝の中で浩二は夢を見た。

   暗い部屋でうずくまっているとどこからか列車の近づく音がし、気がつくと急

 に辺りは明るくなり、

 「ご乗車おめでとう」と、祝福の声に包まれた。自分はいつの間にか列車に乗っ

 ていたのだ。次の瞬間、車内の通路を何人もの人がせわしげに通り過ぎる。

 「皆さんどこへ?」浩二が聞くと、

「良い席を探すんですよ。前の方の車両には一人で丸々一両陣取っている人がい

 るんです。どうせ一回しか乗らない列車なんだから贅沢をして景色を眺めなけり

 ゃ損ですからね。お宅はずっとこんな狭い所で我慢するんですか」

 そう言われて浩二はやおら立ち上がり、座り心地の良さそうな座席を探して歩き

 出した。

   途中で『車内案内』のパンフレットを見つけた。開いてみるとスイートルーム

 らしいきらびやかな個室や娯楽室の写真が目に入った。自分の居た二等の席とは

 比べものにならない。だが値段を見るととても手の出る席ではない。その他の席

 は多少広さの違いはあるがどれも同じ様な席である。同じなら血眼になって探す

 ことはないだろうと浩二は思った。パンフレットの隅を見ると、

 『滑るステップにご注意下さい。ゴミの集積所に落ちたら元の席には戻れません』

 と注意書きがあった。何のことかいぶかしかった。

   そこへいきなり、

 「満足できる席、見つかりましたか」一人の男性が声をかけてきた。

 「平凡な席ばかりで」そう答えると、

 「なかなか見つかりませんねえ。私はもう少し頑張ってみます」

 そう言って歩き出し振り向き様に、

 「列車の屋根からは絶景が見えるそうですよ。でも屋根ははみ出し者の行く所

 ですから」

 と言った。絶景と聞き、浩二は絵を描く為に見たいと思った。その時、

 「屋根なんか考えずここにいましょ」妻の声がした。

 「だって絶景だそうだぞ」

 「景色ならこれまでもいろいろ見てきたじゃないです か」

 妻の言葉に浩二は、自分は今までじっくり景色を見たことのないことに気付

 いた。

 「おまえはどんな景色を見たんだ」と聞くと、

 「子供坂と若葉の森。無一文谷に願い川。小さな叶い海岸も見たわ。今思えば

 どれも楽しい景色でしたよ」

 と言うのである。聞いたことのある名の山や川だが、

 「あんまり覚えていない」と呟くと、

 「せっかくの列車の旅なのに、もったいないことをしましたね」

 と笑った。そし て更に、

 「もうじき私たちの降りる駅らしいわ。あなた、もう一度乗り直しますか」

 と妻が聞いた。
 
 「お前はどうする」聞き返すと、

 「私はこの席から見えた景色を十分楽しんできましたから、乗り換える気はあ
 
 りません」と言う。

 「じゃあ俺もやめるよ」

 そう言った瞬間浩二の目が覚めた。 同じようにうたた寝をしていた妻が顔を上

 げ、

 「今年の秋こそ、ゆっくり紅葉狩りにでも行きましょうか」

 と言った。同じ夢を見ていたのだろうか。そう思った浩二は不思議なものを感

 じながら天上のシミを しみじみ見つめるのだった。




 
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     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
 
 
   新しい年が始まった。今年こそはと思って始まった昨年が昨日のように思え
 る。一年があまりにも早い。子供の頃は一週間後の夏休みがなかなかやってこ
 ず、いじいじしたのを覚えているが、最近はひと月が子供の頃の一週間くらい
 にしか感じない。
 ある学者が、子供は多くの生活経験を蓄積するため記憶の量が時間に裏打ちさ
 れて長く感ずるが、歳をとると毎日が同じような生活の繰り返しのため、似たよ
 うな記憶はどんどん消去される。その為時間も共に消えるからだろうという。
 そうかも知れない。してみるとある意味私は毎日を記憶に留めない惰性で生き
 ていることになる。
 今年こそは記憶に留まるような生活を心がけるとしよう。おや?去年と同じこ
 とを言っているみたい。
 進歩のない自分が悲しいやらおかしいやら。これこそ正月らしい初笑いかもし
 れない。        (2013.1.6)

  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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