文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL136

2012/10/08

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL 136
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■  勤務評定  ■■■■■■■             
                                                                                

  治夫が、ガラス容器の製造会社を父親から譲り受けて、はや二十年ほどが経つ。

 引き継いだ頃はバブルの絶頂期で、たいした努力なしでも次々に注文があり、父

 が残した従業員十五人の工場は、いつの間にか三十人の規模になっていた。とこ

 ろがバブルがはじけ、中国が安い労働力で大量生産するようになると、治夫の工

 場は急に仕事が減った。やがて三十人の従業員を抱える事がむずかしくなりリス

 トラを考えざるを得なくなった。治夫は最も頼りにしている専務の河谷に相談を

 した。河谷は父の代から経理を担当している男で、治夫には遠縁に当たる男でも

 あった。治夫の相談に河谷は言った。

 「従業員を半分くらいにしなくちゃ、もう無理でしょう」

 「そうなんだが誰に辞めて貰うか、決められないんだ」

 「そりゃ私のとやかく言う所じゃないですよ。これはやはり社長のハルちゃんが

 鬼になって英断しなけりゃね。何時までも優しい社長じゃ通らないよ」

 「別に優しい社長だと思われようとしてるんじゃないけど、誰もみんな家庭があ

 って、小さな子供を抱えている人も多い。それを考えると決められないんだ」

 「辛いとこですね」

 「人ごとみたいに言わないでくれよ」沈黙が流れた。事務所の壁に掛けられていた

 時計が、午後九時のチャイムを鳴らした。

 「もう一時間もこうしてるのか」

 「腹が減りましたね」

 「そう言えば頼んでおいたカツ丼まだ来ないな。断って食いに出ようか」治夫が

 電話の受話器に手を伸ばした時だった。「お待ちい」近くの食堂からカツ丼が届

 いた。岡持から丼を出すと店員は黙って出て行った。

 「愛想のねえ奴だ。あんな奴だったらすぐ首にしてやるんだけどなあ」治夫が言

 うと、それを受けて河谷が、

 「そうだ。勤務評定をつけて成績の悪い奴からリストラするのはどうだい」

 丼のふたを開けながら言った。

 「勤務評定?誰がつけるんだ。おれ、公平につける自信がないよ」

 そう言うとまた二人は沈黙し、ただカツ丼を頬張った。しばらくして河谷が言った。

 「従業員同士で評価させたらどうだろう。我々には見えない細かな所もあぶり出

 せるんじゃないか?」

 「従業員同士?。ああ、案外いいかもしれない。こちらが恨まれる率も少なくな

 るし」二人はにんまり笑った。

  翌日の朝礼で早速、リストラを踏まえての従業員相互の勤務評定実施を勧告し

 た。

 「この用紙に互いの勤務状況を書いて、週末に提出するように」

 従業員達からざわめきが起こった。

  数週間すると、社長や専務の目には見えていなかった従業員達の仕事ぶりや生

 活態度までが細かく報告されたのである。

 「これならリストラの対象も絞りやすいなあ。いいアイディアでしたね社長」

 そんな話をしている所へ工場長の高城は入って来て言った。

 「社長。専務も聞いて下さい。あの従業員同士の勤務評定は最悪です。これじゃ

 スパイ国家の密告社会同然です。密告されないように従業員同士賄賂まがいの贈

 り物をしたり、グループを作って敵味方同士になったり、結果的に生産ラインは

 いつもの半分しか動いていません。こんな状態が続くなら人間不信にも繋がりま

 す、早晩この会社はつぶれます。すぐこんな事を辞めて、リストラするならまず

 私からにしてください」

 治夫は急いで帳簿を見た。なるほど茶色の薬瓶十万個の予定が七万個しかできて

 いない。高城は更に続けた。

 「欠点を探す勤務評定ではなくて、良い所を探す評定にしてみていただけません

 か。それを試した後で私をリストラして下さい」

 高城の案を採用したのは言うまでもなかった。

  果たして三週間後の事だった。従業員は良い所を見せようと頑張ったのか、生

 産は普段の二倍近くになり、従業員どうしも和気藹々と明るい職場に変わってい

 った。従業員の談話室から飛び出したひょんなアイディアで、新しい製品の開発

 に繋がることにもなった。会社が上向きかけたのを感じた治夫は、リストラを考

 える事を少し先延ばしすることにしたのだった。

 
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     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
 
 
10月になり、あの猛暑をもう忘れかけている。夏の夜は暑さで寝付けず、妻の
嫌がるエアコンをそっとつけたりしたのが嘘のようだ。今では足を投げ出して寝
ると冷えを感じ、夏が恋しくさえ思う。何とも人間は熱しやすく冷めやすい、我
が侭な動物だろう。その点我が家の愛犬『コムギ』は淡々とした毎日を送ってい
る。暑いとも言わず寒いとも言わず、朝の散歩だけを催促する以外は一日寝てい
る。時折起きては庭先の向こうの裏通りを行くイヌ連れの通行人に「ここは俺の
庭だぞ」と言わんばかりに吠えるが、その他は何の仕事もない。家人が掃除機を
掛けると、すごすごとマッサージチェアに飛び乗って非難し、掃除機のモーター
音がしなくなりまで降りてこない。「涼しくなってコムギも楽になったね」と妻
が言った。コムギも夏には閉口していたのだろうか。他人の辛さなど理解しない
私である。考えてみると我が侭なのは私だけなのかも知れない。そう言えば飼育
しているスズムシの声もまばらになった。雄が雌の食われて数もめっきり減った。
夏の終わりのスズムシの大競演が懐かしい。

人さりて あとはスズムシ  さんざめく       ( 12,10,4)


  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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