文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL135

2012/08/31

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL 135
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■ ケテの家出 ■■■■■■■             
                                                                                
     

   盆の客も帰り一段落した翌日、盆棚を解体し客達が散らかしていった跡を清志

  夫婦はせっせと片付けていた。立秋とは名ばかりでその日も朝から蒸すように暑

  かった。

  「おい、酒瓶が転がって酒がこぼれているぞ。拭いといてくれ」清志の声がした。

  忙しく動いていると足下がおろそかになるものだ。誰かが台所で酒瓶をころがし

  てしまったのだ。

  「私、今手が離せないですよ」妻が言った。妻の声は清志には聞こえなかった。

  「この忙しいのにコイツは何もしないで寝ていやがる。お前も家族だろ」重い段

  ボールを運びながら清志は言った。

  「俺は手伝ってるぞ」中学二年の一人息子哲也が言った。

  「お前のことじゃないこいつだよ」清志があごで指し示したその先にはケテが寝

  ていた。ケテというのは、五年ほど前から飼っている小型犬である。

  「犬に文句言ったってしょうがないだろ」哲也が言った。

  「いいのよね。ケテは居るだけでいいんだものね」通りがかった妻が言った。

   その日の夕暮れ時のことだった。

  「ケテが居ないわね。おやつの時間にも居なかったみたいだけど」

  「外に出たんじゃないのか」

  「いいえ。あの子は散歩の時以外は外に出ないから」確かにケテは、自分から家

  の外に出たことがない。生まれて間もない子犬を哲也が拾ってきた時からずっと

  家の中で飼い、用便はすべて決められた場所で済ませてきた。三年ほど前から散

  歩に連れ出すようになり、排便は外でするようになったが、小用は決められたシ

  ートですますのだ。どんなに玄関が開け放たれ、廊下の向こうを仲の良い犬が通

  ろうとも決して外へ飛び出すことはなかった。そんなケテがその日に限って家の

  中には居なかったのだ。

  「二階にいるんじゃないのか」清志は気にもとめず、あと一日になった夏休みを

  惜しむかのようにテレビを見ていた。

   陽が落ち、午後から友達の所へ行っていた哲也が帰ってくると、

  「ケテおいで。いいものあげるよ」声を掛けた。

  「それが何処にもいないのよ。外に出ちゃったのかしら」

  「あいつは外には出ないさ」

  「だって、何処にもいないのよ。さっき二階のケテの部屋を覗いたとき居たよう

  に見えたけど、後でもう一度見たとき勘違いだったってわかったのよ。だからも

  う半日いないことになるわ」

  「でも、あいつ外では生きていけないよ」哲也は心配そうな顔で言った。

  「父さん、まさか棄てていないよね」

  「誰がそんなことするもんか」

  「だって昼間、家族じゃないとか、そんなことを言ってたじゃないか」

  「馬鹿、あれは冗談じゃないか。第一犬に人間の言葉が分かるわけないだろ」

  「だけど父さんは家族じゃないって本気の顔だった」
  
  「だから冗談だって言ってるだろ」

  「嫌われているか雰囲気を感じ取ったのさ。だから家出したんだ」

  「馬鹿を言うな」

  「そうよ。お父さんは本当はケテがかわいいのよ」そんな騒ぎをしている所へチ

  ャイムを鳴らす人がいた。

  「警察の者ですが、泥棒を捕まえたお手柄犬なんですが、これはお宅の犬ではな

  いでしょうか」と言うのである。

  「泥棒を追って外に出たんだ」清志は玄関へ駆けて行った。だがお手柄犬は隣の

  「ネロ」だった。

  「探しに行ってみようか」

  「こんなに暗くなってからじゃだめだ。それより今日中にケテのポスターを作っ

  て、明日スーパーや獣医さんの所に貼って貰おう」哲也と清志はケテの顔写真を

  デジカメから選び出し、夜遅くまで文面をあれこれと考えた。

   十一時近くになってのことだった。妻が布団を敷こうと押し入れを開けると、

  そこにケテが寝ていたのである。

  「あら、こんな所に居たわ。まあ、お酒臭い」哲也と清志は二階に駆け上がった。

  起き出し身震いをするケテを見つめながら、

  「こぼれた酒、お前が拭いたんじゃないのか」

  「あらお父さんじゃなかったんですか」「それにしてもコイツが家出するわけな

  いと思っていたよ」そう言いながら清志はケテの首を抱きしめ、

  「お前はこの家にいるだけでいいんだからな」小声で言った。






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     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
 
 夏も過ぎようとしている。楽しんだ夏は短く苦しんだ夏は長い。そんな事を考
えながら今年の夏を振り返ってみた。スズムシの飼育箱を作り、秋に頼まれてい
る工作教室の準備をし、九月の授業の整理もした。盆には倅共が孫を連れて来て、
私の時間と小遣いを惜しみなく荒らしていった。たった二日ではあったが帰って
後は足腰が痛んだ。
 そう言えば草刈り機を買ったのもこの夏だった。い、我が家の裏の空き地の草
を三度刈り、息子の家の塀際の草も刈った。エンジン音が腹に響いて、目の前の
草がばたばたなぎ倒されてゆく。若い頃に味わったオートバイの小気味よい爆音
を思い出し、草刈りが愉しい物になった。
 気がつくともう夏休みは五日も無い。「何が五日だよ。四十日も休んだのに。
俺なんかたったの五日だったぞ」弟が電話でこぼしていた。休みは何日あろうが、
その過ごし方で意義は決まる。
弟の五日は長く、私の五日は一瞬のような気がした。  ( 2012/8/25)

 




  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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