文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL131

2012/02/27

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL 131
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■ 冷めたコーヒー ■■■■■■■             
                                                            
                           

  實が定年退職を迎えた日、妻と結婚間近の娘がささやかなホームパーティーを

 開いてくれた。實は家族の気持ちが嬉しかった。うれしさのあまり老後の小遣い

 にしようと長年貯めていた社内預金を半分下ろし、

 「もう働くのは金輪際いやだが、これまで気持ちよく働かせてくれた礼だ」

 そう言って妻と娘に数十万円ずつ渡した。妻は辞退したが、

 「指輪でも買えばいいじゃん」娘の言葉に妻も結局は受け取った。

  その後實には毎日が休日となり、一月がゆったりと過ぎた。だが、昼間誰もい

 ない家に引き籠もっていると自分は次第に消えていくような錯覚にとらわれた。

  そんな頃家族の言葉が妙に気になりだしたのだ。

 「今日はまだ部屋の掃除をしていないのよ」

 「時間がなかったから夕飯は何もないわよ」

 そんな妻の言葉は、考えてみれば實が現職だった時にもごく普通に耳にしていた

 言葉だが、今の實には当てつけのように聞こえたのだ。

 「お父さん、趣味はないの?ボランティアでもやったらどう」

 娘のアドバイスさえ『家にいるな』と言っているように聞こえた。思い過ごしに

 すぎない。家族が自分を邪魔に思うはずがないではないか。實は自分に言い聞か

 せた。ところが妻がパートから帰ってくると、急にあれこれ指図をするような声

 が響き、しかも語尾が強くなり畳みかけてくるように感じたのだ。友人に出した

 葉書が住所間違いで帰って来た時だった。

 「また間違えてる。パソコンの住所録を書き換えてないでしょ」

 妻の声は非難がましく響いた。言外に『用が無いんだからそれくらいやっておき

 なさいよ』そう言っているように聞こえた。車の中の汚れをひどく非難されたこと

 もあった。

 「夕飯はどうするんだい」實が声を掛けたときだった。

 「晩ご飯の支度くらいしてくれたっていいでしょ」

 その声は實をどなりつけているように聞こえた。自分はこれまで家族に威張ったこ

 とはない。家族の為に自分の趣味を削って面白くもない仕事を三十八年間勤め上げ

 たのだ。退職してしまえばこれまでの努力は評価されないのか。そう思うと自分が

 急に哀れに思えた。

  春も過ぎようとしているのに心には寒い風が吹いていた。自分には安らぐ場所

 がないのだ。そう思うと實は家にいるのがいやになってきた。とはいえ遊びに行

 く金銭的余裕もない。老後の小遣いにと少しずつ貯めていた金も、一時の安っぽ

 い感傷で半分も家族に分け与えてしまったのだ。自分の愚かさが恨めしくなった。

  そんな折、實と同じく退職した大塚が訪ねてきた。實は大塚を近くの喫茶店に

 連れ出した。大塚は熱いコーヒーを見つめながら懐かしそうに会社時代の昔話を

 始めた。しばらくすると目を落とし沈んだ声で言った。

 「俺なあ、家では居場所がねえんだよ。最近、いつ死んだっていい気がしてきた

 よ」

 實は自分の心が見透かされているような気がした。

 「奥さんの態度が冷たくなったのか」實が聞いた。

 「そう思ってな、ある時女房に聞いたんだ」

 「そしたら?」

 「女房は、あんたのひがみだろって言うんだ」

 呟くように言った。沈黙が続いた。

 湯気が立たなくなったコーヒーカップを見つめながら、

 「働かなくなった男はひがみっぽくなっているんだろうか」

 「でも女房だったらそこのところ気を遣ってくれてもいいと思うんだよ。なのに

 最近家族の夕飯の茶碗洗わされてるんだ」大塚が言った。

 「俺も洗ってるよ。流れる水を見てると俺が排水溝に流されるみたいに感じること

 もある」實は言った。

 「やっぱり男は働いていなければいけねえな。何でもいいから働いている時が花

 だなあ」

 實の言葉に大塚は何度もうなずいた。

  二人は冷めたコーヒーをすすった。

 「冷めたコーヒーって俺達みたいで、苦いだけだな」

 「まったくだ。流しに捨てられないうちにもう一度熱くなるか」

 實が言うと大塚は一瞬目を輝かせ、

 「よし探そう」そう言ってコーヒーのお代わりを頼み、二人は

 湯気の立ち上るカップで乾杯すると、連れだって職探しに歩き始めたのだった。


 
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     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
  
 まだまだ寒い。毎朝の犬の散歩もつい億劫になる。だが我が家の犬と来たら、
寒さのことなど意に解せず、朝食を取る私の横にぴたりと座り、少しでも私の視
線を感じ取ると、「行くんでしょ」とでも言わんばかりに尾をふり、玄関まで走り
出ては又迎えに来る。そんな姿を見れば「今日は休みだ」とはとても言えない。
だが朝から雨が降っていれば出るに出られない。犬には雨だからということは
わからないから、私の一挙手一投足に反応して尾を振る。根負けして私は、多少
の雨ならば犬にレインコートを着せて出かけるのだ。雨に濡れるとドライヤーで
乾かさなければ後で嫌な匂いを発するようになる。ところが我が家の犬はドライ
ヤーが大嫌いなのである。嫌いなドライヤーをやらなくてもよいように、なるべ
く雨の時は散歩をしないようにするのだが、犬は出たがることしきりなのだ。
よく子供に注意をするとき『お前のためだから』と親は言うが、子供も犬も何
故自分の為なのか分からない。挙げ句の果てに子供は注意ばかりする親を憎んだ
りする。
こんな愚痴を書いていたら、今度これをテーマにリーフノベルを書こうと思い
立った。
親の心子知らず。主人の心ペット知らず、という話である。(2012、2・26)


  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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