文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL130

2012/01/20

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL 130
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■ 着ぐるみ ■■■■■■■             
                                                            
                           

   俺は最近人間でいることが空しくなった。決まった時間に起き、毎日同じ機械

  部品を組み立てる。帰ってくれば寝るだけで、まさしく食って寝てくそをするだ

  けの日々だ。これが霊長と言われる生き物の生き方なのだろうか。そう思うと尚

  更人生に意味がないような気がしてきた。

   そんなある休日、俺はぶらりと外へ出、駅前にやってくると、そこには白熊の

  着ぐるみが風船を配っていた。良くできた着ぐるみでまるで本物の熊だ。その姿

  を見ていた俺は着ぐるみの中の人間が愛おしく思えてきた。風船がなくなると着

  ぐるみは歩きだした。歩き方がいかにも熊らしく愉快になり、後をつけてみた。

   やがて熊は一軒の家に入った。俺はふと、どんな人間が入っているのか見てみ

  たくなり家の中を覗いた。家の中は見たことがあるように思えた。白熊が家に入

  ると子供の声がし、出てきたのは子熊の着ぐるみ二体だった。小さい方はまだ赤

  子のようだ。子供にまであんな物を着せては脱水症状を起こすではないか。これ

  は幼児虐待だ。俺はそんなことを思った。白熊が言った。

  「お母ちゃんはもうひと仕事あるから、おやつ食べたらもう少し待っているんだ

  よ」女の声だった。小熊に菓子を差し出し、赤子らしい子には乳を含ませた。

  着ぐるみの胸のあたりに穴でも開けてあるのだろうが、乳をやるときくらい脱い

  だらどうだ。俺はお節介にも庭先に回り、

  「暑いでしょう。赤ちゃん抱いていてやりますから着ぐるみ、脱ぎなさい」手を

  出すと菓子を食べていた子が俺の腕に抱きついて来て叫んだ。

  「お父ちゃんだ」すると白熊が言った。

  「もういいんですか。気が晴れたの」奇妙なことを言って俺の目を見た。その目

  を見て俺はどきりとした。なぜなら白熊の目はガラス玉ではなく、生きた本物の

  熊の目だったからだ。よく見ると子供達も本物の目だった。これは精巧なメイキ

  ャップだ。おれはそう自分に言い聞かせた。すると、

  「もうひと仕事して来るまで、子供達を見ててね。そうしたら夕飯にするから」

  白熊は言った。「それより子供等の着ぐるみ脱がせてやったらどうだい」そう言

  うと、

  「子供に変なことを吹き込まないでよ。熊をやめて何をするのよ、あんたじゃある

  まいし」少しきつい言い方をした。玄関先で白熊は、

  「今日の晩ご飯はご馳走よ」そう言って家を出た。

   俺は子守の仕方など分からずただ一緒に座っていた。

   夕方になり、母熊が帰ってきた。

  「まだいるね」彼女の声がした。

  「お母ちゃん、今日はご馳走って本当」子供の声が弾んでいた。

  「逃げられなかったかい」

  「大丈夫。見張ってたもの」そんな会話が聞こえた。はたと俺は気がついた。俺

  を今日の晩飯に食うつもりだったのだ。俺は慌てて玄関に飛び出した。

  「すぐご飯だから食べていきなよ」彼女は俺の腕を掴んだ。小熊が駆け寄り、

  「お父ちゃん、もう家にいてよ」と泣き出した。俺はいつからこいつらの親にな

  ったのだろう。玄関先で靴を履きながらそこにあった鏡を見ると、なんと俺も埃

  にまみれた黒熊だった。

  「熊であることを忘れたいって言うからそうさせたんじゃないか。本当に熊だっ

  たことを忘れちまったのかい」そう言いながら白熊は鮭を運んできた。

  「鮭はお父ちゃんの好物でしょ。また明日から頑張ろうよ」俺は子供に手を引か

  れながら台所に行った。その途中で俺は思い出したのだ。俺は熊であることに意

  味が感じられず、人間になりたいと女房に言ったのだ。すると女房は、

  「気が済むまで人間をやって来い」と言い、家を出してくれたのだった。だがそ

  の人間にも生きる意味が感じられなくなっていたこの頃だった。

  「それであんた、生きる意味とかっていうやつが分かったの」と聞かれた。

  「いや、人間でも熊でも生きることにはあんまり意味はないようだ」そう俺は答え

  た。

  「それじゃ子育てに意味を感じて頑張ろうね」女房の白熊が俺の手を取って言っ

  た。白熊が俺よりも数段立派な生き物に見え、涙が止めどなく流れるのだった。




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     ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
  
 新しい年を迎えてのマガジン発行となりました。本年も宜しくお願い致します。
 私は現在さる専門学校である演習授業を担当しており、その演習の中には花壇
の制作がある。昨年の六月にコスモスを植え、それなりに花壇を飾ったのだが、
学生は花壇がどうなったかなどさほど気にもとめていないのだ。雑草が出ていよ
うが土が乾いていようが、ほとんど気にしない。担当を決めて散水当番を割り振
れば、ざっと水を掛け、五分ほどで終わらせる。私がじっくり水を駆ければ四十
分は優に係る所なのだ。もっと呆れたのは、コスモスを撤去する作業の時だ。学
生達は枯れたコスモスを一本ずつ摘むようにして抜きその一本ずつをゴミ袋にそ
っと入れるのだ。「そんなやり方では日が暮れるぞ。こうやるんだ」とばかりに
私は五六本わしづかみにして引き抜き、それを両手でバリバリとへし折って袋に
詰め込むと、学生達は「わあ、ワイルド」と冷やかし半分に言うのだ。こいつ等
が実際に花壇を作る事が出来るのだろうか。そう思った私は寒い物を感じた。と
同時に、私が学生時代、やはり除草の実習があり、嫌々手を動かした昔をフト思
い出した。無駄口を叩いている我々学生を尻目に実習の先生がせっせと手を動か
す姿が、今の自分の姿に似ているような気がした。この子達も、その時が来れば
出来るのかな。そんな事を思った。      (2012・1・.20)


  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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