文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL122

2010/11/05

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL 122
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■   資格証書  ■■■■■■■                      
                                                     
   「なんだ、西田は車意外の免許はないのか」

  そう言われて西田はむっとしながら、

  「それじゃお前は」

  聞くと北川はおもむろに一枚のカードを出し、

  「これ、料理教室の修了証。俺は家庭料理ができるという証拠だ。六十を過ぎ

  ても俺は上昇上志向だ。ほら、これはクリーニング職人の経験証明」

  北川の自慢そうな顔がまぶしかった。西田はこのことを妻に話すと、

  「あなたも退職したんですから料理くらい出来るといいわね」

  と言った。だがどうしても料理教室の門を叩く気にはなれなかった。

   それから何度か北川の家を訪ねることがあったが、北川がキッチンに立って

  いる姿は見ることは無かった。

  「料理はつくらないのか」

  「女房がいない時だけだ。それよりも今俺は忙しいんだ」

  「お前の店、そんなに忙しいのか」

  「いや、店がじゃない」

  北川は昔からの酒屋だが忙しい程繁盛しているわけではない。北川は手当たり

  次第に資格試験を受けて忙しかったのだ。劇物毒物扱い者の資格を初め、重機

  の運転免許や漢字認定試験二級まで取得していた。

  「こんなに免許や認定書を取得して何にするんだ」西田が聞くと、

  「これを持っていれば何でもできるってことの証明だろう。親から貰ったこの

  酒屋もいつつぶれるか分かりゃしない。酒の安売りストアーも林立している昨

  今だ。そんな時はこれがものを言うのさ。それに許可書や認定書があれば、人

  間のグレイドが上がるってものだ」

  そう言われてみると、北川が一段大きな人間のように思えてきた。

  「これ俺の名刺」北川に手渡されたそこには『文芸同人 北川佐一』と記され

  ていた。

  「文芸って何を書いてるんだ」西田はいぶかしげに聞いた。

  「詩だよ。流行歌を書いている仲間もいるさ。今に俺もヒット曲の一つも書い

  て大金持ちになるぞ」

  北川がますます自分には遠い存在に思えてきた。

   それからも北川は危険物取り扱い者やボイラーマンの資格やらを取得し、書

  道にも珠算にも手を染めていた。

  「いま介護の資格を取ってるんだ」

  北川は資格を取ることが生き甲斐になっているようだった。家業は妻に任せっ

  きりになっていた。

   その妻がある時ビールのケースを運びながら倉庫の段差につまずき、骨盤の

  骨を折ってしまった。北川は介護資格の挑戦はしばらく諦めなければならなく

  なった。店番にくわえ一日おきに入院している妻を見舞い、家事をしなければ

  ならないからだ。それよりも、すぐ近くに嫁いでいる娘の子供の幼稚園の送り

  迎えもしなければならない。これまでそれら全てを妻が文句を言わずにこなし

  ていたのかと思うと、妻がひどく立派に思われた。

  「お父さんお願い。今日、コトブキ退社する仲間の送別会があるの。万里を夜

  まで預かってね」

  娘が電話で言ってきた。北川は怒鳴った。

  「俺は幼稚園の保母の資格は無い。面倒など見られん。亭主に頼め亭主に」

  「だめよパパだって同じ会社だもん。一緒に送別会だから」

  「二人が出ることないだろ。それにお前のお腹には二人目ができてるんだろ」

   そんなやりとりのあと、結局その夜は娘が会には出ないことになったが、そ

  れから数日後、娘の亭主が一月間海外出張することになった。悪いことに娘は

  切迫流産の兆候があるとのことで数日入院することになったのだ。そんな窮地

  に陥った北川は西田に相談した。

  「孫の為の飯など作れんし、洗濯機の使い方も分からん。保育の資格もないか

  ら孫だってまともに見られん。だからお前に店の手伝いを頼みたいんだが」

  「でもおれ、販売経験の証明書は無いぞ」

  からかうように言ったが、退職後のんびりした生活にも飽きていた西田は、半

  ば楽しいものを感じて北田の店を手伝うことにした。北田の家に数日通ってみ

  るとあることに気付いた。北田は、食事は全て総菜屋で買った物で間に合わせ、

  洗濯物はティーシャツまでクリーニング屋に持って行くのだ。

  「北川、お前は料理の免許も洗濯の資格もあるのじゃないのか?」

  すると北川は言った。

  「本当にできる奴は免許などいらないのさ。免許は自信のない奴が欲しがるも

  のさ」そう寂しそうに言った。


 
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  ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
  
   今年の夏は猛暑だったが、この暑さに一番閉口していたのは我が家では娘のは
  ずである。だが娘は一言も暑いとか苦しいとかと、愚痴をこぼさなかった。黙
  って涼しい所を探しては静かにしていた。
  「黙っていられるとかえってつらくてねえ。だからこの子のためにエアコンは
  つけっぱなしだよ」
 そう、友人に話したことがあった。すると友人は、
  「省エネに協力しなくちゃ」と冷たい口調で言った。仕方がないので私は自分
  一人の時はなるべくエアコンを切り、暑さに耐えた。それを見た友人は不思議
  そうな顔をし、「本末転倒だな」と言う。
  「この娘は黙って耐えているんだ。いじらしいじゃないか」と言い返すと、
  「この子、感情がないからさ。それに口が利けないから黙っているだけで、別
  に耐えている訳じゃない」と冷たい言いぐさだ。
  この子が口を利けないのは生まれつきだから仕方がないとして、この子が暑い
  と言わないのは、愚痴を言っても解決しないことを知っているからに違いない
  のだ。口が利けたら、
  「私は大丈夫だよお父さん。我慢できるよ」と優しく言うに相違ない。彼女は
  それだけ物事をわきまえている子なのだ。
   私は時折思うのである。この子が口を利けたら、どんなに楽しいだろうかと。
  すると妻は言った。
  「人間の娘だったら毎日文句を言われていますよ。犬だから可愛いままなのよ」
  と素っ気ない。本当にそうだろうか。 (2011.10.31)
                   
  

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                        ☆  お知らせ ☆

  ★★ 30数年詩を書き続けた作者渾身の作、
    詩集「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜 が
      2003年3月30日付け読売新聞朝刊に大きく紹介されました。
     
   ★ 高安義郎著「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜
     (ごま書房刊) 定価1,200円(税込み)
         2002年11月27日全国の書店から発売されました。
     表紙絵 日本画家 若木山(作品 酣春) 帯文 新川和江 
      
     ★ 下記の書店からインターネットでも購入が出来ます。御覧下さい。
                   
 (紀伊国屋書店)

  http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi? W-NIPS=9976400284 
       
 (YAHOO BOOKS)                 
 http://books.yahoo.co.jp/bin/detail?id=31059989                     
         
  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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