文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

全て表示する >

木の葉の小説『リーフノベル』VOL116

2010/01/21

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
                                 
       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL 116
   
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
================================================================
                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

====================================
                                          
    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
        
   
       ■■■■■■■  革の財布   ■■■■■■■                                         
                                  
          

    嘉一の財布は不思議な財布だ。四年前に死んだ嘉一のおじいさんが、

  「やたらに開けなければ、いいことがある」

  と言って手渡してくれた財布である。

  それは古びて所々黒い色がはげ落ち、とても良いことの起こりそうな代物には見

  えず、引き出しの奥にしまい込んでいた。

   ある日のこと。革製品を蘇らせるという宣伝文句に乗り、嘉一は値の張る革磨

  きのクリームを購入した。嘉一には衝動買いの癖があったのだ。テレビショッピ

  ングに始まり通信販売のカタログやインターネットのオークションなど、見てい

  るうちに矢も立てもたまらなくなりいつの間にか受話器を握っているのだ。月に

  五〜六万円、時には十万円を超える無駄遣いをするのも珍しくなく、嘉一の預金

  通帳はいつもマイナスで、ボーナス時にどうにか穴埋めをするしまつだった。

  クリームが届くとソファーや靴やジャンパーを磨き、使わなくなって物置に押

  し込めてあった鞄を出してきては磨いた。古すぎる革は宣伝の謳(うた)い文句

  ほど光らなかった。

  『また誇大広告か』

  そんなことを呟きながら、ふとおじいさんの財布を思い出した。磨いてみて驚い

  た。財布は黒光りし、型こそ古いが紳士然とした風格がにじんでいる。嘉一がそ

  の財布を使うようになったのはそれからのことだった。使い始めて最初の給料日

  のことだった。銀行から六万円おろし、一円も入っていない財布に入れた。そし

  てテレビ番組『日曜大工の薦め』に触発されドリルや曲尺、のこぎりなどを買い、

  ノミやカンナまで購入した。レジでは

  「丁度三万八千七百五十円になります」

  と言われた。内心

  『何が丁度だ。丁度と言うのは三万とか四万円ぴったりの時の言葉だろう』

  そんなことを思いながら会計を済ませた。

   家に帰りレジ係の言葉が気になって財布を開いた。財布には丁度二万円しか入

  っていなかった。急いでレシートを広げ、釣り銭を計算して財布の中身と照合し

  た。すると今度は一万九千九百円しかない。不思議に思い財布を開けて数え直す

  と、また百円少なくなっているのだ。金が増える昔話は聞いたことがあるが、金

  が減る財布など聞いたことがない。そんな馬鹿なことはないと思いながらも、そ

  の不思議を確かめようと再び残金を数えた。

  「一万九千八百円」声を出して確認し、財布に戻してすぐに開き、数え直した。

  なんと今度も百円減っていた。

  『間違いなく減っている。この財布は不思議な財布だ。では開けなかったらどう

  なるんだ。試す価値はある』

  そう思うと数日財布の口を開けないでみた。

   財布を開けない嘉一の生活は苦痛だった。タバコも買えず雑誌も買えず、仲間

  と焼鳥屋ののれんもくぐれなかった。そんな我慢をして一週間たってみると、な

  んと財布には二万円入っていたのだ。

  『この財布は金が増える財布かも知れない』

  嘉一は思った。

   それからというもの、嘉一は生活費用に一万円だけ抜き取り、次の給料日まで

  財布を開けないことにした。そのうち俺の財布は万札ではち切れるかも知れない。

  そう思うと楽しくなり、衝動買いをしたくなる度に財布を眺めてこらえた。

   一月が経ち財布を開いた。だが財布の隠しポケットから出てきた金の全額は一

  万一千二百五十円だった。銀行で通帳記入をしてみると先月の給料が半分ほど残

  り、その上に今月分が加算されていた。給料の額以上の数字が記載されている通

  帳を見るのは初めてだった。やがてボーナスも加算された。金が残ることに興味

  がわくと、衝動買いをしてたまった品物が目障りになりだしインターネットで売

  り出してみた。すると飛ぶように売れ、足の踏み場の無かった部屋はがらんとし

  た。

   その体験を話した職場の仲間の一人に、おじいさんの財布に興味を抱いた女性

  がいた。金を使わないつきあいを経てその女性と婚約したのは、おじいさんの三

  周忌の法要が間近になったころであった。

  「財布を開けなければ、いいことがある」

  おじいさんの言った言葉が、嘉一にはようやく理解するのであった。
 

  
=======================================


  ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●
  

   最近雪を見ていない。雪と言えば子供の頃なぜかとても好きだった。美しいとか
 清らかだとか、そんな思いで好いていたとは思えない。なぜあれほど雪の日は心
 が弾んだのだろうか。大人になり、いつの間にか雪が迷惑なものになっていた。
 出勤する朝の残雪は車を動かすにも細心の注意が必要で、公共の乗り物も遅れた
 り運休になったりで迷惑この上なかった。特に定年までの十年間は管理職だった
 こともあり、学校を休校にするか授業開始を遅らせるか判断するのに困惑し、雪
 の降る夕方などは翌日の見極めのために一晩中憂鬱だったものだ。ところがであ
 る。定年を過ぎ、勤めも学校経営には直接関係のない講師の立場になると、雪が
 再び楽しいものに変わっていた。ところがその雪が去年から見られないのだ。
 皮肉なものである。今にして思うのだが、楽しさとは責任のない人間にこそある
 安らぎなのかも知れない。    (2010.1.21)

=======================================
                    
                        ☆  お知らせ ☆

  ★★ 30数年詩を書き続けた作者渾身の作、
    詩集「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜 が
      2003年3月30日付け読売新聞朝刊に大きく紹介されました。
     
   ★ 高安義郎著「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜
     (ごま書房刊) 定価1,200円(税込み)
         2002年11月27日全国の書店から発売されました。
     表紙絵 日本画家 若木山(作品 酣春) 帯文 新川和江 
      
     ★ 下記の書店からインターネットでも購入が出来ます。御覧下さい。
                   
 (紀伊国屋書店)

  http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi? W-NIPS=9976400284 
       
 (YAHOO BOOKS)                 
 http://books.yahoo.co.jp/bin/detail?id=31059989                     
         
  
======================================
http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
には、他の作品も掲載しております。
またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
まずは御気軽にお問い合わせ下さい。
みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
komugi@lily.odn.ne.jp

======================================

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。