文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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ピスタチオ

2008/07/27

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL100
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
                              

           
       ■■■■■■■   ピスタチオ ■■■■■■■                             


   私は老いて足腰の弱った母を連れ、母の好きな盆栽の展覧会『国風会』の会

  場に出かけたのだった。

   樹齢何百年ともつかぬ黒松や楡ケヤキの古木に圧倒されながら会場を一巡り

  すると、母は疲れたと言いコーナーの椅子に腰掛けた。少し離れた所に喫煙所

  があり、私はそこで煙草に火を付けた。正直なところ私は盆栽には興味はなか

  った。だが上野のとある美術館で開催されるこの盆栽展を一度見たいという

  母の願いを、親孝行のつもりで案内したのだ。母は満足しているだろうかと思

  い振り返ると、そこに座っていたはずの母の姿がなかった。私ははっとして辺

  りを見回したが、客の少ない会場には母らしい人の姿は見えず、盆栽だけが六

  義園の庭を思わせて広がっていた。こんな所で母を迷子にするわけには行かな

  い。私は煙草の火を消し足早に出口に向かって歩き出した。

  「もう行くかい」

  母はコーナーのソファーから声を掛けてきた。今までそこに は居なかったの

  に。そう思ったがその時はたまたま死角に入って見えなかっただけだと理解し

  た。だが昼食の時も駅の改札口でも、母は幾度か私の視野から一瞬消えたのだ。

  やがて私は自分の目に異常が生じたのかも知れないと思い始 めた。それを確

  かめるために、母のおぼつかない足を助けるような形で、母の袖を軽く握って

  歩いた。

   さほど待ち時間もなく帰りの特急に乗った私は母を窓際に座らせ、車内で物

  を食べることの好きな母に車内販売でピスタチオと茶を買った。私は缶ビール

  を買った。昼間姿の消えたことなど忘れかけた頃だった。二本目の缶ビールを

  開けようとした時母の姿がまた消えたのだ。特急電車の窓は開かない。通路に

  出るには狭い私の前を越えて行かねばならない。どこかへ行ったのなら気付か

  ないはずがない。それでもと思い立ち上がると、

  「お前も食べるかい」

  母が皺だらけの細い指でピスタチオを差し出した。

  「母さん、どこに行ってたの」

  私は自分の目のせいであろうことを忘れ攻める ように言った。だが母は意に

  解する様子もなく、

  「お前が一年生になる年の春だったねえ。上野の動物園でバンビを貰ってゆく

  んだと言って泣いたっけ。ちょっと目を離したすきに虎の檻の前で手を入れよ

  うとしていて、あの時は肝がつぶれたよ」

  そう言って茶をすすった。これまでに何度も聞かされた話であり、私自身うっ

  すらその光景は覚えている。

  「腕白だったみたいだね。遅ればせながら今日は五十年前のお礼だよ」

  小声で言うと母はまた忽然と私の目の前で消えたのだ。古電球が一瞬閃光を放

  って消えるように、母は消えてしまったのだ。とうとう私の目は壊れてしまっ

  た。しかし母を何とか家に連れて帰らねばならない。そう思い両手で頬を叩き、

  目をこすり

  「母さん大丈夫ですからね。次に電車が止まったら降りますから」

  見えない焦りを気取られないよう冷静を装いながら残ったビールを飲み干した。

  すると母は次第に姿を現した。

   駅に降り立つと、

  「住み慣れた町はいいねえ」

  そう言いながら孫の為に買った土産の紙包みを抱え家に向かった。我が家まで

  一キロメートル足らずの道のりを行く間に、母は何度も消え、消えては現れた。

  そして鉄の門扉を開けた時、母の姿は完全に消えてしまった。大声で呼び手探

  りをすれば母の暖かい体にどうにか触れた。陽が傾き残照が母の庭の盆栽に照

  り、力強い根張りの皐『大杯』の幹を虚しく照らした。騒ぎを聞きつけ妻が出

  てきた。

  「お婆ちゃんは?」妻が聞いた。妻にも母は見えなかった。

  「俺の目のせいじゃないんだ。消えちゃったんだ」私の言葉を妻は信じなかった。

  「私はここだよ」

  どこからか声がし玄関先に座る姿が現れた。その日を境に母は私達の目の前で現

  れては消え、消えては現れ、次第に消えている時間を長くしていった。

   母が介護施設に入所したのはそれから1年後のことであった。

 
  
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  ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●

 リーフノベルの発行回数が100回を迎えた。嬉しい思いです。
読者の皆様に心から感謝申し上げます。これからも、良い作品を皆様に届けたいと
願っています。
 このヨシロウズルームのコーナーも同じく百回を数えることとなった。その時々
のいわば日記のようなエッセイのような形で思いつくままに書いてきたが、どこか
で誰かが読んでくれているのだと思いながら、その人に語りかけるように、今の自
分の心境や出来事を報告するような気持ちで書いてきた。広い洞窟の入り口で、誰
もいないかもしれない奥に向かって大声で話しているような、そんな虚しさを感じ
ることもなくはないが、誰か一人くらいは楽しみに待っていてくれる気がしている。
もし洞窟に誰かいたら、声を出してくれたら嬉しいのだが。
ところで、先日去る会社が夏のイベントとして納涼大会を開催した。その一角に
『親子で楽しむ竹細工教室』が開催され、私はその講師として招かれた。風車や竹
トンボ、でんでん太鼓やウグイス笛など八種類ほどの竹細工や紙細工を用意したが、
結局直径三十!)ほどで12枚羽根の大きな風車と、くるくるトンボ、これは空に飛
ばすトンボではなく、色紙などで飾ったトンボがくるくると回り続ける昔の玩具だ
が、この2種類の制作に絞り、集まった小学校低学年の子供達を対象に繰り広げた。
子供達は真剣に取り組み、できあがると征服感に満ちた嬉しそうな顔をし、風を
受けて回る風車には満面の笑みで親を見上げる。私はその姿を見るのが楽しく、予
定の二時間が四時間になってしまったが少しも疲れを感じなかった。準備はかなり
時間が掛かり面倒だったが、こんな機会があったらまた講師として出かけても良い
と思ったものだった。
夏休みも始まったばかりだが、私には今年の夏の思い出がすでにできあがった思
いである。(2008 .7.27)


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                        ☆  お知らせ ☆

  ★★ 30数年詩を書き続けた作者渾身の作、
    詩集「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜 が
      2003年3月30日付け読売新聞朝刊に大きく紹介されました。
     
   ★ 高安義郎著「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜
     (ごま書房刊) 定価1,200円(税込み)
         2002年11月27日全国の書店から発売されました。
     表紙絵 日本画家 若木山(作品 酣春) 帯文 新川和江 
      
     ★ 下記の書店からインターネットでも購入が出来ます。御覧下さい。
                   
 (紀伊国屋書店)

  http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi? W-NIPS=9976400284 
       
 (YAHOO BOOKS)                 
 http://books.yahoo.co.jp/bin/detail?id=31059989                     
         
  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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