文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL94

2007/12/23

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL94
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   komugi@lily.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    日本詩人クラブ会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
                              

           
       ■■■■■■■ 障子の向こう ■■■■■■■ 
                                   
               
    
  「そこにいるのは誰かいね?」

  九十近くになった母は、誰もいない障子の同こう側にむかってよく声をかける。

  その度に私は

  「誰もいませんよ。気にしなくっていいんだからね」

  静かに答える。

  「また、喜一でも来たんかと思ったよ」

  眩きながら母は藤椅子に座り直すのだ。

   私には五人の兄がいた。喜一は長兄で昭和二十年の空襲で死んだ。十才だった。

  二番目の兄幸雄は裏庭の奥に続く崖下でよく遊んでいたというが、ある時不意に

  崩れて来た土砂に埋まり六才の時に死んだ。三男は赤痢にかかり、戦時中のこと

  でろくな手当ても受けられず、やせ細って死んだらしい。三男が死んだ時、四男

  の隆次は二才で、母の胸には生まれたばかりの五番目の兄、剛が抱かれていたの

  だ。二人の子を同時に亡くしたショックで母の乳が止まり、父は農耕牛や山羊か

  ら乳を搾っては、謙がる剛に飲ませたという。

   戦後になって私は生まれた。私の生まれた年は喜一兄が死んだ翌々年だった。

  よりによって母は六人もの男の子を産んだのだ。父は召集令状を一度も送られず

  に終戦を迎えた。分家とは言え、そこそこの百姓をしていた我が家は、戦後の食

  糧難の苦しさをさほど味合わずに過ぎた。むろん私はそんな時代の記憶など微塵

  もない。

   私にもの心がついた頃兄は二人いた。私は三人兄弟だとばかり思っていたのだ。

  四才年上の隆次兄は学校の成績が良く父の自慢であった。ストレートで私大の医

  学部に進み、東京のアパートに移り住んだ。

  すぐ上の兄、剛は勉強が謙いだった。 二言目には隆次兄と比較され、半ばぐ

 れかけていた。高校時代はカンニングをしたりタバコを吸ったりで、母は何度学

 校に呼び出されたかわからない。その兄が高校三年の時であった。仲間の自動二

 輪車を借りて乗り回しブロック塀に激突する事故を起こしたのだ。意識不明が続

 き三日目に目を覚ましたものの、その晩容態が急変し亡くなった。

  「私の子供はみんな死んでしまう。この家には恐ろしい因縁でもあるに違いない」

  半狂乱になって泣いた母の姿を、私は今も覚えている。

   とうとう残ったのは私と四番目の隆次だけになった。私が曲がりなりにも大学

  に入った頃、隆次兄は父に勘当された。と言っても大したことではないのだ。大

  学時代に恋人ができ、国家試験もまだ受からないうちに子供ができたのだ。彼女

  の家は町医者で、しかも彼女は一人娘だった。向こうでは絶好の人質ができたよ

  うなつもりになり、是非養子に来てくれと言ってきた。父は訳もなく怒った。何

  をそれほど怒る理由があるのか私には分からなかった。我が家を継いでも百姓を

  するわけでもなし、勘当するほど何に父は怒ったのだろうか。不可解でならなか

 った。私にも子供ができ、その子が大学を卒業する年になった今になって、やっ

  と父の気持ちが分かるような気がして来た。

   今日も母は障子の向こうに目をやっては、

  「おや、幸雄だね。足を洗ってくるんだよ」

  と声をかける。

  「風ですよ」私が言うと

  「どちら様か存じませんがご親切様ですね」

  と軽く会釈するのだ。道をバイクが行くと、

  「また剛が出て行ったよ。あぶないねえ。少しは隆次が勉強を見てやればいいん

  だよ」

  と眩く。母の頭の中には、喜一も幸雄も治男も 隆次も、そして剛も皆生きている

 ようだ。だが私の名を呼ぶことはほとんどない。

   先年父が亡くなり、私も農業者年金をもらう歳になった。そんなことを意に解す

  ることもなく、幸せそうに母は、今日も障子の向こうに声をかける。


 
  
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  ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●

  定年退職した年が暮れようとしている。一切の公職を退くことの開放感はこの上
なく心を豊かにしてくれる。台風が来ても大雪が降っても、休校にするか授業を何
時限で切り上げるか気をもまなくて済むのだ。そう言えば、この三月まで毎夕のよ
うに痛んでいた胃が、今では全く嘘のように爽快なのだ。病は気からと言うが、
まさしく病は日々の煩わしさから入り込むようだ。
 来年の正月は定年退職後初めての正月だ。しかもこの暮れに妻の弟夫婦に誘われ、
正月を能登で迎える。私の両親が健在の時は毎年我が家で新年会が開かれ、二十人
から三十人の兄弟夫婦や甥姪達が集まった。兄弟が集まるのは楽しいが、接待する
のは大変な苦労だ。(費用も馬鹿にならない。)このうち十人ほどが泊まってゆく
のだから、妻は大変だったと思う。この苦労を知り、ねぎらってくれる者もいたが、
当然のような顔をしている者もいた。おまけに酒の上での言い方が気に入らぬから
と、私に喧嘩を売る罰当たりもいた。だが両親も他界し、今年は三月に父の十三回
忌、十二月に母の三回忌の法要を済ませた。正月を家の外で迎えるのは、私は生ま
れて初めての経験である。異郷で聞く他国の除夜の鐘はどんな響きだろう。他国で
食べる年越し蕎麦の味はどんなだろう。今から楽しみである。
異郷にて 送る仕合わせ 大晦日 
元旦の 遠きにぎわい 聞く異郷          (2007.12.23)


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                        ☆  お知らせ ☆

  ★★ 30数年詩を書き続けた作者渾身の作、
    詩集「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜 が
      2003年3月30日付け読売新聞朝刊に大きく紹介されました。
     
   ★ 高安義郎著「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜
     (ごま書房刊) 定価1,200円(税込み)
         2002年11月27日全国の書店から発売されました。
     表紙絵 日本画家 若木山(作品 酣春) 帯文 新川和江 
      
     ★ 下記の書店からインターネットでも購入が出来ます。御覧下さい。
                   
 (紀伊国屋書店)

  http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi? W-NIPS=9976400284 
       
 (YAHOO BOOKS)                 
 http://books.yahoo.co.jp/bin/detail?id=31059989                     
         
  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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