文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』 VOL85

2006/12/03

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL85
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   aap60600@hkg.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    日本詩人クラブ会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
             
          ■■■■■■■    マニュアル病 ■■■■■■■ 
                              
                
   
   幸一は虎ノ門にあるB庁に勤務し二年目になる。この四月、隣の部署

  に若い臨時の女性職員が入ってきた。彼女は幸一の部署の臨時職員であ

  る佐和子の友達でよく部屋にも顔を出した。名前を智子と言った。智子

  は佐和子と違い他人への気遺いのできる女性で、幸一の好みのタイプだ。

  だが三か月たった今でも幸一は彼女に声を掛けられずにいた。

   幸一はエリート官僚の道をまっしぐらに突き進んできた青年で、子供

  の頃から目指す学校は当然のこと、仕事にも遊びにもその難易度をすべ

  て偏差値で考えた。偏差値が高ければ参考書を買い込み、内容を熟読し

  たあとシミュレーションし、行動は全て完全なものにしようと考えてい

  た。「書物はすべからく理にかなった方法を示唆してくれる」それがこ

  れまで生きてきた幸一の信念だった。

   智子に話しかける難易度は高い。偏差値は六十を超えるだろうと考え

  た。さっそく本屋に参考書を求め勉強にかかった。本屋では奥の棚に

  『女性心理学』の本を見つけた。まずこの本からだ。これを読めば恋愛

  学の偏差値六十はクリヤーできる。そんなことを考えながら外を見た。

  歩道には高校生らしい男女が楽しそうに話しながら通る。はたして彼ら

  はこのような心理学を学び終えているのだろうか。とても彼らが読破し

  ているとは思えない。ではこの本をマスターすれぱ偏差値七十は固いか

  もしれない。ふと父の口癖を思い出した。

  「経験から得る知識は独善に陥りやすく、常に遠回りする」

  しかりである。彼らは本能的な経験に任せ、浅い会話を楽しんでいるだ

  けだろう。それでは本当の楽しさを相手に与えられるものではない。頁

  を送りながら幸一は自分の考えに納得して頷(うなず)いた。

   本を読みながら官僚の王道とも言うべきT大受験に必死になった昔

  を思い出した。

   五冊目の本を読み終えた翌日、自信を持って受験に臨むような安心感

  で登庁した。その日の十二時、いよいよ試験の瞬間である。いつものよ

  うに智子が佐和子の所にやって来ると何気なく窓のブラインドを開け

  た。

  「香炉峰の雪は御簾を掲げて見ると言いましたよね」幸一はすかさず言

  った。相手の行動に注意を払いその動作から連想される話題を自然に引
 
  き出す。これは『話し上手が差を作る』という本にあったアドバイスだ。

  智子が微笑んだ。幸一は内心しめた、と思った。だが小さな部屋には、

  ぎこちない緊張が漂(ただよ)った。すかさず佐和子が言った。

  「なあにそれ? 学校の古典の時間思い出しちゃった。やあだ、つまん

  ない。それより智子回転寿司にする?」

  幸一の心を踏みにじるような言葉を残して出て行った。静寂を破り、同

  僚の高橋が顔をしかめながら

  「お前なあ、あんな話したんじゃ嫌われるぞ。もっと軽い話題ない ?

  お前を見てると歯痒(はがゆ)くていらいらする」

  と言った。すると幸一は

  「ここに、相手の行動に関する話題をと書いてある」

  本を差し出しながら言った。

  お前馬鹿か。マニュアル病ってやつだ。本など何になる」

  高橋は本を投げ返した。

  「いや本は絶対だよ。総て正しいことが書いてある」

  言い返した。

  「それじゃ聞くが正しい生き方を書いた本があるのかい」

  そう言い捨てた。幸一は佐和子の態度を思い起こし、偏差値の査定に誤

  りがあったかもしれないと考えた。同時に、本をばかにする高橋の態度

  を哀れんだ。高橋に恋人ができ、どう接したら良いかを聞きに来るまで

  待ってやろう。その時本の大切さを話してやろうと考えた。

   二週間ほどしたある日、佐和子が幸一に言った。

  「知ってた?智子ったら高橋さんと婚約したんだって」

  幸一は唖然(あぜん)とした。学生時代、隠れて勉強する仲間がいたこ

  とを思い出した。高橋はどんな本を隠し読んでいたのだろう。幸一は教

  えを乞うように

  「どんな本を参考にしたの」

  高橋に聞いた。高橋はしばらく黙っていたが

  「君は赤ん坊の時も乳の飲み方を勉強したのかい。まあ、一生勉強し続

  けなよ」

  呆れたように首をすくめた。



  ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●

   たまたま散歩をしていると、小さな神社の境内に沢山の銀杏が落ちて
  いるのを見つけた。拾う気は無かったが、足元にビニール袋も落ちてい
  た。いかにも拾って行けとでも言っているように思え、靴底で踏んでは
  中身をとりだし袋に入れた。五十個ほど拾ったが袋には存在感が希薄だ
  った。更に五十個拾った。終わりにしようと思ったが、まだまだ足元に
  は無数にある。結局百五十個ほど拾い我が家の庭先でこれを洗った。ゴ
  ム手袋もせず直接手であらった為、手の薄皮が溶けて指紋が薄くなって
  しまった。銀杏はことによると強アルカリなのかも知れない、とその時
  思った。
   数日してこの銀杏を料理に使うことがあった。皮むきを妻に頼まれた。
  銀杏の甘皮は実にこびりついているため大変剥きにくい。剥き終わって
  も茶色い細かい皮が点々とつき、なかなかきれいにはとれない。そこで、
  この際簡単な剥き方を考案しようと意気込んだ。
  まずペンチで堅い殻を割って外し、甘皮のついた実は電子レンジで加熱
  する。加熱後熱い内に剥いてみた。あいかわらず皮はなかなか剥けなか
  った。そこで加熱後の銀杏をぬるま湯の中に付けた。すると皮は意図も
  たやすく、しかもきれいに剥けたのだ。試行錯誤を覚悟していただけに、
  あまりにも簡単な結論に拍子抜けしてしまった。剥きあがった銀杏を妻
  が見て「きれいねえ」と一言いった。それだけで私は達成感に浸ること
  ができ、内心満足した。なんと私は単純な人間なのだろう。銀杏剥きも
  単純だが自分もかなり単純であることを今更ながら実感したしだいであ
  る。                                            (2006.12.3)


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                        ☆  お知らせ ☆

  ★★ 30数年詩を書き続けた作者渾身の作、
    詩集「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜 が
      2003年3月30日付け読売新聞朝刊に大きく紹介されました。
     
   ★ 高安義郎著「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜
     (ごま書房刊) 定価1,200円(税込み)
         2002年11月27日全国の書店から発売されました。
     表紙絵 日本画家 若木山(作品 酣春) 帯文 新川和江 
      
     ★ 下記の書店からインターネットでも購入が出来ます。御覧下さい。
                   
 (紀伊国屋書店)

  http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi? W-NIPS=9976400284 
       
 (YAHOO BOOKS)                 
 http://books.yahoo.co.jp/bin/detail?id=31059989                     
         
  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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