文学

木の葉の小説『リーフノベル』

30年以上詩作してきた作者がたどり着いた世界リーフ・ノベルの誕生である。
木の葉に書き置くような1600字の超短編小説は
深層心理・欲望・幽鬼そしてアイロニーの世界へと君を誘う。千葉日報新聞に連載されているリーフ・ノベルがネット上に新たに登場。   

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木の葉の小説『リーフノベル』VOL82

2006/08/30

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       リーフノベル 〜超短編読み切り小説〜 高安義郎   
                      
                                     VOL82
   
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                お待たせ致しました。
                今月号のリーフノベルです。  

     リーフノベルとは、全て1600字の中に収まるように作られた
     短編読み切り小説です。
     幽鬼、深層心理、アイロニーの世界にあなたを誘います。
     それでは、どうぞ今月のリーフノベルをお楽しみください。

     ○●トップページ●○
     http://www1.odn.ne.jp/~aap60600/yoshirou/leafnove.html
     には、他の作品も掲載しております。

     ●○投稿募集●○
   またサイトでは、作品の投稿もお待ちしております。
   まずは御気軽にお問い合わせ下さい。 
   みなさんも1600字で作品をお書きになってみてください。
   今までにない手法の作品です。
   優秀作品はサイトにて、ご紹介致します。
   aap60600@hkg.odn.ne.jp

     ○●作者紹介●○
    名前:高安義郎(たかやす よしろう)
    日本文芸家協会会員
    日本ペンクラブ会員
    日本現代詩人会会員
    日本詩人クラブ会員
    千葉県詩人クラブ顧問
    詩誌「玄」、詩誌「White  Letter」主宰
    リーフノベルを「千葉日報新聞」(隔週の日曜版)に10年間連載

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    ■☆■☆■☆■☆   リーフ・ノベル   高安義郎 ☆■☆■☆■☆
             
          ■■■■■■■    安らかな手紙  ■■■■■■■ 
        
 
   そちらは相変わらずのことでしょう。こちらはいろいろあったので手紙を書く

  のも久しぶりです。今日は三か月前我が家に入ったエレベーターのことから書く

  ことにします。

   昼食が済むとおばあちゃんは自分で車椅子のスイッチを入れ、廊下のつき当た

  りに作られた小さなエレベーターに乗ります。車椅子ごと乗り込むと中はいっぱ

  いになり、ひざ掛けがよく扉に引っ掛かかりました。

  「着物なんかが挟(はさ)まると危ないんだよ。絶対に挟んじゃいけないよ」

  俊治が繰り返し言ったのを、おばあちゃんは噛み締めるように、

  「挟んじゃいけない。挟んじゃね」

  と独り言を言ったものでした。

  このエレベーターは俊治の会社がモニター用に安く作ってくれたものです。

  「沢山乗って気がついたことがあったら教えてよね。改良のデータにするんだか

  ら」

  俊治はおばあちゃんから意見を聞き報告書を出さなければならなかったのです。

  「トシのエレベーターに悪い所なんかあるものかね」

  おばあちゃんはいつも孫のやることには手放しで褒(ほ)めるばかりでした。

   俊治の「たくさん乗って」という言葉だけが印象に残ったのでしょう。エレ
   
  ベーターが好きなわけではないでしょうに、昼食後は必ず

  「トシのお仕事を手伝わなくちゃ」

  と言いながら乗りました。二階に着くとすぐに下行きのボタンを押し、下に着く

  とく廊下を一回りしすぐにまた二階に行くのです。俊治が会社から帰ってくると

  「おばあちゃんは今日も沢山乗ったよ」

  と誇らしげに俊治に報告しておりました。

   奇妙なことを言い出したのは二月ほど前からでしょうか。おばあちゃんは、

  「エレベーターを持ち上げているのはお父さんの貞夫だったよ。私は見たんだか

  ら」

  そんなことを言い出したんです。そしてエレベーターできれいな所に連れていっ

  てくれたと言い出だしたんです。おかしいでしょ。この前などは

  「今度は二本松の蓮華畑に連れてってもらうのさ」

  と言っていました。子供の頃に見た絨緩(じゅうたん)のような蓮華の花畑が見

  たかったのでしょう。おばあちゃんの故郷の二本松には、昔はいたるところで蓮

  華が栽培されていたようですね。おばあちゃんはその頃エレベーターは思った所

  に連れて行ってくれる機械のように思われだしたのかも知れません。

  「もう一度北海道に行きたいね」

  などとも言い出したんです。十年ほど前、家族みんなで旅行したのを思い出した

  のでしょう。でも不思議なんです。見たいと言った所には決まって次の日には

  見て来たことを報告するんです。

  「昨日のれんげ畑はきれいだったよ。空気が甘いんだから」とか

  「阿寒湖の霧が晴れるとマリモが透けて見えたりしたよ」

  と言ってはうっとりしているんです。でもおばあちゃんは決してぼけてなんかい

  ませんでした。ことによるとエレベーターの中で居眠りをして、いろいろな景色

  を夢に見ていたのかもしれません。

   それから二週間程後のことです。その日おばあちゃんはエレベーターから出て

  来なかったのです。心配になり見に行きますと、楽しそうな顔をしたまま亡くな

  っていたのです。私は驚いて救急車を呼びました。知らせを聞いて飛んで帰って

  きた俊治に、

  「おばあちゃんが亡くなったのはエレベーターのせいかしら」

  などと言ったら怒られました。おばあちゃんのあの嬉しそうな顔は、今でも忘れ

  ることができません。亡くなったあの日は、いったいどんな夢を見ていたのでし

  ょうね。

   今日はおばあちゃんの四十九日です。たった今御前様も帰られました。この三

  か月慌ただしくて忘れていたあなたへの手紙をやっと今になって書いております。

  ではまたお便りします。安らかに待っていて下さい。

                                                                   翔子
                                                                                     
  翔子は夫の遺影を置いた仏壇に手紙を置くと、軽く手を合わせて立ち上がった。

    
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  ●○○●○○● Yoshiro's Room ●○○●○○●

  今年の夏休みも終わった。今日は昨日とうってかわって涼風が立っている。
ヒグラシゼミが夏を惜しむかのように、あるいは夏を呼び戻そうとでもしているのか、
息もつかぬようなせわしさで鳴いている。辺りはすでに秋の気配だ。
私にとって今年の夏は奉職時代最後の夏休みであっただけに、何か思い出に残ることを
したかったが、終わってみれば結局何することもなくなかった。凡人の心残り、とはこ
のことかと一人苦笑いするこの頃である。
 9月に入ると時折盛夏を思い出したように残暑がぶり返すものだが、子供の頃と比べ
暑さにはただただ閉口するばかりだ。早く落ち着いた気温になって欲しく思う。
 ところが私は何故か秋を好きになれない。冬に向かって全てが枯死に向かう寂しさが
あるからだろう。人が愛でる紅葉ですら、私には木々の断末魔の叫びのように思えるの
だ。わくらばこそ潔い物に私には思える。到底古人のように『紅葉の錦 神のまにま
に』などと言った気持ちにはならない。
 詩人ベルレーヌの『秋の日の ヴィヨロンの溜息の うらぶれてひたぶるにもの悲
し』と歌ったが、分かる気がする。
  さて、春までもう一踏ん張りするか。    (2006.8.30)


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                        ☆  お知らせ ☆

  ★★ 30数年詩を書き続けた作者渾身の作、
    詩集「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜 が
      2003年3月30日付け読売新聞朝刊に大きく紹介されました。
     
   ★ 高安義郎著「母の庭」〜アルツハイマーは嵐のように母を襲い〜
     (ごま書房刊) 定価1,200円(税込み)
         2002年11月27日全国の書店から発売されました。
     表紙絵 日本画家 若木山(作品 酣春) 帯文 新川和江 
      
     ★ 下記の書店からインターネットでも購入が出来ます。御覧下さい。
                   
 (紀伊国屋書店)

  http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi? W-NIPS=9976400284 
       
 (YAHOO BOOKS)                 
 http://books.yahoo.co.jp/bin/detail?id=31059989                     
         
  
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創刊日:2001-07-21  
最終発行日:  
発行周期:月2回  
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