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[Short2 Mag #102]タイムマシンでかくれんぼ

2006/11/08

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□   ☆週刊?☆   □   ●Weekly? Short2 Mail Magazine #102
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┏━━●もくじ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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■━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─■[1]
■   『タイムマシンでかくれんぼ』   玉生洋一
■━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━(文庫本4ページ分)─■

「美和子さん、好きです。結婚してください!」
「いや、僕と結婚しましょう!」
「お願いします!!」

 21世紀に入ってちょうど20年が経過した年の大晦日。美和子がバルコニー
へ出ると、豪邸の広い庭に集まった数十人の男の叫び声は一層大きくなった。
 ミス・ユニバースのような容姿で家は大金持ち。そんな美和子への結婚申
込者は日に日に増えていくばかりだった。このままでは収拾がつかなくなっ
てしまう。一計を案じた美和子は、男たちに向かって口を開いた。

「私にはとてもお1人だけを選ぶことはできません。そこで皆さんには競争
をしていただくことにしました」
「競争?」男たちは闘争心に燃えた目で周囲を見つめた。
「と言っても私は野蛮なやり方は好みません。ここに人数分のタイムバイク
を用意しました。皆さんにはこれでかくれんぼをしていただきます」
 美和子の合図と共に執事がカーテンの布を引くと、そこには数十台の白い
オートバイが整然と並んでいた。セレブ向けに最近やっと市販され始めたば
かりの時間移動機能付きバイクだ。
「隠れられる時代は無限にあります。どの時代に行っても構わないし、どん
なやり方で隠れても構いません。鬼の私に最後まで見つからなかった方、見
事に勝利したその方と私は結婚します。……それではスタートしてください!」

 大きな雄叫びと共に、男たちはバイクへと群がった。参加を躊躇する者は
いなかった。男たちの顔は皆、嬉々としていた。今まで追いかけてきた女に、
追いかけられる立場になれるのだ。これが喜ばずにいられるか。
 男たちを乗せたバイクは次々と超空間へと消え、後には静寂だけが残った。

 バイクの台数が足りるかどうかが心配だったのだが、どうやらちゃんと人
数分用意してくれたらしい。美和子は執事の手際の良さに感心した。
「ささ、お嬢様には追跡用のタイムリムジンを用意してります」
 そう言いながら駆け寄ってきた執事に、きらびやかな笑顔を見せながら美
和子は言った。「ううん、いいの。行かないのよ」
 きょとんとしている執事に美和子は続けた。
「これであいつらはみんな永久に私の周りから消えちゃったってわけね。だ
ってそうでしょう。私に見つかったら結婚できないんだもの。はるか遠い時
代でせいぜい苦労するがいいわ。ああスッキリした!」
 美和子は両手を上げてのびをすると、あくびと共に寝室へと消えていった。

   *   *

 超空間にて、その男はひとり悩んでいた。意気揚々とタイムバイクを発進
させたはいいが、さて、どの時代に隠れたらいいものだろう。

 参加人数からしても、このかくれんぼは長期戦になる。長期間身を隠すに
は、情報網が未発達な大昔の方が都合がよさそうだ。戸籍のない時代、新聞
のない時代、どうせなら文字も未発達な原始時代がいいんじゃないだろうか。
 ……いやだめだ。西暦1年の地球の人口は約3億人。現代のわずか1/25だ。
それ以前はもっと少ない。その中に紛れ込んでもすぐに見つかってしまう。

 では未来は? 人口が数千億に増加した未来なら見つからないんじゃ……。
 ……いやだめだ。おそらく、地球は数千億の人口を支えられない。当然、
人類の一部は他の惑星へと移住していることだろう。しかしそれなら、おれ
も遠い未来のさらに遠い最果ての外惑星へと移住すればいいのでは?
 ……いやだめだ。地球から離れれば離れるほど、地球人は珍しい生物だと
認識されるようになるだろう。きっとその分、目撃情報も多くなってしまう。

 そうなると、残る時代はあそこしかない。
 男はタイムバイクのアクセルを思い切りふかした。

   *   *

 男がやって来たのは、わずか1ヶ月後の現代だった。
 結局、馴染みの深い現代で過ごすのが得策だと考えたのだ。どの時代に行
ってもいいというルールなのだから別に違反にはならない。

 自宅には戻らず病院へと向かった男は、一晩で顔の整形手術を行った。
 手持ちの金で手術代を支払うと、目立たないマンションに居を構えた。
 大昔や未来では金が使えない。こんなに素早い行動は不可能だったろう。

 拠点を現代にした理由は他にもある。愛しい美和子の姿を見たかったのだ。
 男は毎日のようにこっそり美和子邸へ足を運び、物陰から女の無防備な姿
を覗き見た。灯台下暗し。整形もしてある。見つかる不安はさほどなかった。

 そんな生活を続けて数年後。男の心には別種の不安がわき起こってきた。
 なにしろ、美和子は毎日のんびりしているばかり。タイムマシンに乗って
自分たちを探しているようなそぶりはどこにもないのだ。
 もう決着がついてしまったのだろうか? そんなはずはない。現におれが
まだ隠れているじゃないか。それに、おれ以外にも屋敷を覗く怪しい男の姿
を度々見かける。もしかしたら、参加者全員がおれと同じ隠れ方で美和子を
覗いているのかもしれない。なのに、かくれんぼが終わったとすると……。

 そうか! おれたちはすでに見つかってしまっているのだ。
 見つかっても本人には告知されないルールなのだ。畜生。失敗した!

 ……でも、あきらめたくない。なんとか敗者復活する方法は……。ないか
ないかないか……。……あった!!

 男たちは、隠してあったタイムバイクのエンジンを勢いよく点火した。

   *   *

「美和子さん、好きです。結婚してください!!」
「いや、僕と結婚しましょう!!」
「お願いします!!!!」

 21世紀に入ってちょうど20年が経過した年の大晦日。美和子がバルコニー
へ出ると、豪邸の広い庭に集まった数百人の男の叫び声は一層大きくなった。
 鳴り止まぬ大歓声に、美和子は首をかしげた。「こんなに大勢いたかしら?
私に言いよってきたのはほんの数人だったような気がしてならないんだけ 
ど……」

 執事も首をひねりながら言った。「変なんですよ。うちにはタイムバイク
は数台しかなかったはず……。この数百台を一体誰が手配したんでしょう?」

「不思議ね〜。……まぁいいわ。この計画がうまくいったら、あいつらはみ
んな永久にわたしの周りから消える………………わよね?」






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【作者からひとこと】

▼うっとうしいものを一掃しようと起こした行動が、
 逆効果になってしまうことってよくありますよね。
 迷惑メールに「送らないでください」と返信したら、
 逆に増えてしまう……みたいな。
 さわらぬ神にタタリなし。
 人や物事によっては、刺激しないで無視した方がいいようです。

▼ちなみに、私には少年時代かくれんぼをやっていて
「最後まで見つからないで済んでるな。すごいぞボク……」
 と得意になっていたら、他の友達は皆飽きていつの間にやら
 別の遊びをやっていただけだった……という悲しい体験があります。

(玉生洋一)

※今回のさし絵はこちら。
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