あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.100

2014/06/01

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    あなたへ贈る季節のたより   ---- No.100 最終号 ----

       「夏 草」              2014.6.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 すっかり早起きになった太陽は、まだ閉じられたままのまぶたの膜の
 裏側にまで、遠慮なく白い光を投げ込んできます。

 おぼろげな意識の中で聞く、小鳥たちのモーニングコール。

 初夏の朝の大気は、あたかも音響の良いホールにも似て、重なり合う
 和音の澄んだ広がりを、耳に心地よく伝えてくれるようです。


 お元気ですか。

 めっきり夜明けが早くなりました。

 陽光が輝きを増すとともに、木々の緑は滴るようにその色を深くし、
 気温も上昇して、季節は夏本番へと急速に移りつつあります。

 タイザンボク、ホオ、ヤマボウシ、オオヤマレンゲなど、この時期を
 彩る白い花に添うように、街にも白い装いが目立つこの頃。

 五月雨(さみだれ)が来る前の「太陽の季節」とも言えるでしょうか。


 初々しい若葉を茂らせていた新樹が、いつの間にか、こんもりとした
 夏木立に変わる頃、野の草もたくましく生い茂る「夏草」となります。

 野道のほとり、土手、空き地・・・至るところが草で覆われ、いくら
 刈っても刈っても、すぐ伸びてくるほどの繁殖力の強さです。


 この夏草の生命力は、古来さまざまな形で人々の心を捉えてきました。
 まず初めに思い浮かぶのは、なんと言っても芭蕉のこの句でしょうか。


  三大の栄耀(えいよう)一睡(いっすゐ)の中(うち)にして、
  大門(だいもん)の跡は一里こなたに有(あり)。
  ・・・・・

  偖(さて)も義臣すぐつて此(この)城にこもり、功名一時の
  叢(くさむら)となる。国破れて山河(さんが)あり、城春に
  して草青みたりと、笠打敷(かさうちしき)て、時のうつるまで
  泪(なみだ)を落し侍(はべ)りぬ。


      夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡


                  松尾芭蕉(奥の細道より)



 芭蕉が、奥州平泉の地を訪れたのは、元禄二年の陰暦五月のこと。

 ぼうぼうたる夏草の茂りを目にした彼は、杜甫(とほ)の詩を思い、
 そこに藤原氏三代の栄華と滅亡、そこにかくまわれていた義経主従の
 あえない最後とを重ね合わせたのでした。

 夏草の生命力が旺盛であればあるほど、かつて栄華と功名を夢見つつ
 散っていった兵たちのいのちや、この世のはかなさが思いやられて、
 深い感慨を抱いたのでしょう。

 それは、死を覚悟して旅に出た、彼自身の心情とも重なり合うもので
 あったにちがいありません。


 ところで「夏草」は、古典和歌の世界でも「繁く」や「深く」などに
 かかる枕詞として、数多く詠まれてきました。

 また夏草の生い茂る野を表す「夏野」も、よく歌に登場する言葉です。




      夏草の深き思ひもある物を

            おのればかりと飛ぶ蛍かな


                    土御門院(続拾遺集) 




      真葛(まくず)延(は)ふ夏野の繁くかく恋ひば

            まこと我が命(いのち)常ならめやも


                    作者不詳(万葉集) 



 「葛の延び茂る夏野を思わせるほどの深い恋」「自分の命さえ絶えて
 しまうほどの恋」とは、いったいどんな恋なのでしょうか・・・。

 立ちのぼる草いきれの中に、方向をなくし、自分を持てあますような
 恋を見つめている作者。

 そんな激しさを持つ恋も、迷うと生命の危険さえ感じるほどの夏草が
 生い茂る野原さえ、ほとんどなくなってしまった現代では、想像する
 ことさえ難しいかもしれませんね。


 けれど、こんな広がりのある高原の夏野なら、わたしたちにも親しく
 イメージすることができるのではないでしょうか。




     われ嘗(かつ)てこの国を旅せしことあり

     昧爽(あけがた)のこの山上に われ嘗て立ちしことあり

     肥(ひ)の国の大阿蘇(おおあそ)の山

     裾野(すその)には青艸(あおくさ)しげり

     尾上(をのへ)には煙なびかふ 山の姿は

     そのかみの日にもかはらず

     環(たまき)なす外輪山(そとがきやま)は

     今日もかも

     思出の藍(あゐ)にかげろふ

     うつつなき眺めなるかな

     しかはあれ

     若き日のわれの希望(のぞみ)と

     二十年(はたとせ)の月日と 友と

     われをおきていづちゆきけむ

     そのかみの思はれ人と

     ゆく春のこの曇り日や

     われひとり齢(よはひ)かたむき

     はるばると旅をまた来つ

     杖により四方(よも)をし眺む

     肥の国の大阿蘇の山

     駒(こま)あそぶ高原(たかはら)の牧(まき)

     名もかなし艸千里浜(くさせんりはま)



 
 阿蘇の雄大な風景を、あたかも広角レンズでとらえているような眼。

 山裾を埋め尽くす青草が、風に泳ぐさまを目にした作者の脳裏には、
 二十年もの長い年月への追憶と、それにともなう心の痛みが去来して
 いるのでしょうか。

 詩の変革に胸を躍らせた若き日々。夭折した無二の親友、心ならずも
 結婚を断念せざるを得なかった恋人・・・。

 繁茂する夏草は、詩人の喪失感を否応なく増長します。

 でも「はかなさ」を知ることは、同時に「愛おしさ」を知ることでも
 あるのですね。

 日本の四季は、物事の常ならぬことを実感することで、自然に対する
 限りない愛を育み、自らの生の意味を問うために存在しているのかも
 しれません。


 さて、そろそろこの「たより」も、幕を閉じる時がきました。

 それぞれの四季の中に、きらりと光り輝く珠玉のような美しい言葉。
 それらを拾い集め、古今の詩人や歌人、俳人たちの力を借りながら、
 乏しい想像力を精いっぱい働かせつつ、何とか綴ってきたあなたへの
 手紙ですが、これにて区切りとさせていただきたいと思います。

 長い間、拙い文をお読みいただき、ありがとうございました。

 この先も、季節は永遠に繰り返されながら、あらゆるものが少しずつ
 変化していくことでしょうが、美しいものを鋭敏にとらえるあなたの
 触角が、変わりなく振れ続けていくことを、心から願っています。



                    平成26年6月1日 

    夜ごと蛙のコンサートが開かれている、北越後の城下町にて



 追伸
 今後は、ブログ「こころのふいるむ」にて、写真を織り交ぜながら、
 季節の情景や近況を記していきたいと思っています。

 更新は不定期ですが、あまり間をおかずに投稿していきたいと思って
 いますので、どうぞよろしくお願い致します。

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