あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.99

2014/05/01

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.99 ----

       「花橘」(はなたちばな)       2014.5.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 雪消えとともに次々と舞台に上がった花々は、そのクライマックスを
 壮大な桜吹雪でしめくくって第一幕を終え、新たな季節の主役たちに
 座を譲ろうとしています。

 うららかな陽気は少し汗ばむ初夏のものへと変わり、シロヤマブキ、
 サンカヨウ、リキュウバイなど、さわやかな白い花たちを見かける
 ことが多くなりました。

 やわらかな緑が目に優しく、にぎやかな小鳥たちの囀りが心に新鮮な
 息吹を与えてくれる、そんな活力に満ちた季節の到来です。


 お元気ですか。

 大型連休の中休み、あなたはいかがお過ごしでしょうか。

 北国や山沿いのところでは、桜が今や満開を迎えているでしょうし、
 海開き、山開き、島開きでたくさんの人たちが訪れ、にぎわっている
 ところも多いことでしょうね。

 風も光も緑に染まり、たっぷりと水が張られた田圃には、青々とした
 空とぽっかり浮かぶ白雲が映じて、清々しい水彩画に描かれるような
 風景が広がる5月。

 きょう1日は旧暦では4月3日となり、「卯の花月」(うのはなづき)
 または「卯月」にあたりますね。卯の花、すなわちウツギの花が咲く
 月ということで、今の季節にぴったりです。

 (ちなみに「五月」(さつき)は「五月雨」(さみだれ)という語も
 あるように、梅雨時、今の6月頃にあたるのですね。)


 さて、古くから卯の花とともに、この季節を代表する白い花と言えば
 「橘」(たちばな)ではないでしょうか。

 ふつう「花橘」と呼ばれることが多いのですが、日本固有のみかんの
 一種であり、花のみならず、実も葉も「常磐木」(ときわぎ)として
 尊ばれ、昔から路傍や邸宅の庭先などに好んで植えられたようです。

 京都御所の紫宸殿(ししんでん)前庭に植えられてある「右近の橘、
 左近の桜」は有名ですが、この花の印象を決定づけたのは、なんと
 言っても次の歌でしょう。




      五月(さつき)待つ花橘の香をかげば

              昔の人の袖の香ぞする


                よみ人知らず(古今和歌集) 




 この歌には、伊勢物語に書かれている、あるエピソードがあります。

 昔ある男の妻が、宮仕えに忙しい夫が自分を愛してくれなくなったと、
 ほかの男について他国へ行ってしまいました。何年かの後、ふとした
 仕事上のなりゆきで、その妻の住む邸宅で、もてなしを受けることに
 なった男は、そこで盃をささげるかつての妻と再会します。

 ところが、目の前の男が前の夫だと妻は全く気づきません。すると、
 その妻に向かって、男はとつぜん宴席に供されていた橘の実を持ち、
 この歌を詠んだのです。

 五月を待って咲く花橘の香をかぐと、昔親しんだ人の袖の香りが思い
 出されますよ・・・と。

 歌を聞いて、この人がかつての夫だと気づいた妻は、わが身を恥じて
 尼になったということです。


 清らかな橘の香りに、かつての妻に寄せる想いを重ね合わせた男と、
 その想いを知り、軽はずみな自分の行動を恥じた女。その双方の心が、
 懐旧のロマンの中にそこはかとなく印象づけられて、この歌は多くの
 人々の心を揺さぶったのですね。

 この橘の実は、昔、垂仁天皇の命で、「田道間守」(たじまもり)と
 いう人が常世(とこよ)の国から持ち帰った「時じくのかくの木の実」
 だそうで、清々しい白い花と、たわわにみのった実が、常世の国の木
 として、とても大切にされました。




      橘は実さへ花さへその葉さへ

            枝(え)に霜降れどいや常葉の木


                    聖武天皇(万葉集) 



 さらに清少納言などは、「枕草子」の中で、早朝の雨の中に咲く橘を、
 夏を告げる鳥「ほととぎす」とも結びあわせて、こう賞賛しています。



  四月のつごもり五月のついたちの頃ほひ、橘の葉の濃く青きに、

  花のいと白う咲きたるが、雨うちふりたるつとめてなどは、

  世になう心あるさまにをかし。(中略)

  時鳥(ほととぎす)のよすがとさへ思へばにや、なほさらに

  いふべうもあらず。 


 
 さすがに清少納言。視覚的印象の描写が鮮やかですね。


 ところで橘の実は、今で言う「こうじ(柑子)みかん」という品種の
 一種だそうで、品種改良された甘い「温州(うんしゅう)みかん」に
 比べると、皮が薄く、かなり酸味が強いようです。

 茨城の筑波山の麓で栽培されている「ふくれ(福来)みかん」という
 種類が、どうもこの「橘」に一番近いとのこと。ここでは古くから、
 庭木などにたくさん植えられていたそうで、なにか歴史的な謂われが
 あるのでしょうか。

 いずれにしても、「みかん」そのものが甘い郷愁を伴ったものとして、
 わたしたちの心に深く刻み込まれているのも事実ですね。




     みかんの花が 咲いている

     思い出の道 丘の道

     はるかに見える 青い海

     お船がとおく かすんでる



     黒い煙を はきながら

     お船はどこへ 行くのでしょう

     波に揺られて 島のかげ

     汽笛がぼうと 鳴りました



     いつか来た丘 母さんと

     いっしょに眺めた あの島よ

     きょうもひとりで 見ていると

     やさしい母さん 思われる

    
             「みかんの花咲く丘」 作詞 加藤省吾
                        作曲 海沼 實



 実は、この「みかんの花咲く丘」は、静岡の伊東市にあるみかん畑が
 モデルになっているそうですが、数ある童謡の中でも、わたしが最も
 好きな歌のひとつです。

 雪国に住んでいるためでしょうか、こういう暖かな南国を感じさせる
 情景と、今は亡き母を偲ぶ心情が、流れるようなメロディーに乗って、
 たまらなく胸に迫ってくるのです。

 もしかすると、花橘の実に寄せて、なつかしき妻への想いを口にした
 男の心情と、相通じるものがあるのでしょうか。


 若葉がしだいにその色を濃くし、青葉の「木下闇」(こしたやみ)と
 言われるほどに茂ってくる頃、少し肉厚の白い花は、ほのかな甘さと
 なつかしさを伴って、過ぎ去りし青春の日々を思い起こさせるのかも
 しれません。

 その芳醇な香りを運ぶ南風は、かすかに潮の香りを含んで、来るべき
 夏の恋を予感させるようです。


                    平成26年5月1日 

          八重桜が満開を迎えた、北越後の城下町にて



 追伸 早いもので、次号が最終の100号となります。と言いましても
 なにか特別なことを考えているわけではありません。長らくご愛読を
 いただいた皆様に感謝しつつ、炎が消えるように、桜が散るように、
 静かに終わることができれば、それでいいかな、と思っています。

 テーマはまだ決めていませんが、もし最後になにかご希望があれば、
 考えたいと思いますので、お知らせください。

 では、あともうちょっとおつきあいいただければ幸いです。よろしく
 お願い致します。 


 
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