あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.98

2014/04/01

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.98 ----

        「柳」               2014.4.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 やわらかな春風が、小さく折りたたんだ紙風船をふくらませるように、
 寒さで縮こまった身体や心を、ゆっくりと広げてくれました。

 雪のパックに優しく守られていた大地の肌は、しっとりとした潤いを
 含み、黒々としたみずみずしさで、生まれ出る若芽を支えています。

 待ちわびた慈愛のような陽光に誘われ、フクジュソウ、ユキワリソウ、
 キクザキイチゲ、カタクリと、早春を彩るおなじみの花々が咲き揃い、
 雪の消えた北国にも、これから花の宴が始まろうとするところです。


 お元気ですか。

 雪は少なかったものの、きびしい寒さはなかなか去らず、ことのほか
 待ち遠しかった春の訪れ。

 寝過ごした時間を取り戻そうとするかのように、南国から続々と桜の
 開花を知らせるたよりが舞い込むこの頃です。
 
 真新しい制服に身を包んだ新入生たち。4月の街は、麗らかな活気と
 彩りがよみがえり、新しい世界が始まる予感に満ちています。


 旧暦3月の異名「弥生」(やよい)は、草木が「いや生い茂る」から
 生まれた言葉だそうで、すべての植物がいっせいに芽吹くこの季節の、
 旺盛な生命力が感じられますね。

 ことに、日本の春を代表する花である「桜」は、淡い紅で野山や街を
 彩りますが、それと呼応するかのように、淡い緑で春の景を構成する
 ものは「柳」ではないでしょうか。

 その色、その姿の優しさ、たおやかさは、まさに春に最もふさわしい
 ものです。

 
 
      
     吾(わが)恋は河辺に生(お)ひて
     根を浸す柳の樹なり

     枝延(えだのび)て緑なすまで

     生命(いのち)をぞ君に吸ふなる

 

     北のかた水去り帰り

     昼も夜(よ)も南を知らず

     あゝわれも君にむかひて

     草を藉(し)き思(おもひ)を送る



              島崎藤村「吾が恋は河辺に生ひて」


 
 柳は中国が原産らしく、広く北半球に分布する落葉樹です。日本には、
 古くに渡来し、路傍や水辺に植えられました。

 それは、往来を行く人に木陰を与え、また堤防の土を締めて、水害を
 防ぐ役割を担っていたようです。「養老令」という法令に、「およそ
 堤(つつみ)の内外ならびに堤の上には、多く楡(にれ)・柳・雑樹
 (くさぐさのき)を植え、堤堰(つつみぜき)の用に充てよ」と規定
 されてもいました。

 そして平安京ができると、柳は都市の美観にとって、なくてはならぬ
 ものになっていったようです。内裏をはじめ貴族の寝殿造りの館にも、
 好んで植えられ、桜、楓、松と並んで代表的な名木といわれるように
 なった柳。

 新芽の色の美しさ、春風に枝をなびかせる風情。そしてなによりも、
 芽吹きのやわらかな緑と、桜のうす紅とが織りなすあでやかな美は、
 言葉にもできないほどです。

 「浅緑」(あさみどり)は、この芽吹いたばかりの柳を表現する語で、
 淡い空の色とも映り合って、春の気分を感じさせますね。




      浅緑糸よりかけて白露を

            玉にもぬける春の柳か


                遍昭(へんじょう)(古今集) 



 さて、柳にも多くの種類があるようですが、ごく普通に見られるのは、
 枝が細く垂れ下がる「枝垂れ柳」(しだれやなぎ)ですね。これは、
 「糸柳」という名前で呼ばれることもあります。

 一方、枝が垂れずに上を向くものは、同じく「ヤナギ」と読みつつも
 「楊」と書くもので、「楊柳」(ようりゅう)とも言われます。

 ちなみに「川柳」(かわやなぎ)は、ネコヤナギのことなんですね。


 柳は、ことに女性の美しさを形容するのによく使われます。

 「柳の眉」あるいは「柳眉」(りゅうび)は、女性の細い眉のこと。
 長く美しい髪は「柳の髪」。そして細くなよやかな腰は「柳腰」。

 なんとなく、竹久夢二の描く女性を思い出しますが、現代女性の美の
 基準からは、かなりかけ離れてしまっていますね。

 けれど、折れそうでいて折れない強靱な精神力は、現代でも男性より
 女性の方が、多く持ち合わせているのではないでしょうか。

 柳の持つたおやかさは、外見的なものよりも、内に持つ芯の強さと、
 したたかな生き様を象徴しているのかもしれません。




     やわらかに柳あをめる北上の

          岸辺目に見ゆ泣けとごとくに


                      石川啄木



 柳は、やはり水辺の景観が似合うもの。堀や水路に植えられた柳は、
 落ち着いた独特の風情を醸し出します。

 港町新潟市は古くから「柳都」(りゅうと)と呼ばれた街で、ことに
 お堀端にある花街では、風になびく柳が、お座敷へと向かう芸伎の、
 あでやかな姿を引き立てていました。

 近代化による埋め立てで、堀はほとんどなくなってしまいましたが、
 そのかつての風情を取り戻すべく、堀と柳を復活させようと活動して
 いるグループもあります。けれど、一度失われたものを取り戻すのは、
 並大抵ではありません。


 東京で苦しい生活を強いられていた啄木が、心に思い描く北上川の春。
 そこでも柳は、故郷を喪失した青年の思いを重ね、鮮烈なイメージで
 芽吹いています。

 目にしみるような淡い緑は、人の生の深い悲しみに触れてくる色なの
 でしょうか。

 春は、みずみずしい生命力とともに、微かな憂いを宿す季節でもある
 のですね。



                    平成26年4月1日 

         可憐なカタクリが群れ咲く、北越後の城下町にて


 
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