あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

全て表示する >

あなたへ贈る季節のたより No.97

2014/03/01

 *〜〜〜〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜*
       
 
    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.97 ----

        「椿」(つばき)           2014.3.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
 *〜〜〜〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜*

 
 親愛なるあなたへ


 長い長い冬のトンネルがようやく出口に近づき、ほんのりと明るさが
 見え始めました。

 雪は少なかったものの、連日こごえるほどの寒さが続き、暖かな春の
 到来を、足踏みしながら待ちわびていた日々。

 光り輝く花の風景が、もうすぐそこに見えてくることを思いながら、
 まだ堅い木々の蕾を見つめています。


 お元気ですか。

 今年の雪は、思わぬところに災禍をもたらしました。

 1メートルを超す突然の豪雪に道路が寸断され、1週間にもわたって
 孤立する集落が関東で続出。農業用ハウスにも多大な被害が出たとの
 こと。被災された地区のみなさんには、心よりお見舞い申し上げます。


 そして連日、熱い声援につつまれた冬季オリンピックも、記憶に残る
 エピソードや悲喜こもごもの物語を残して閉幕し、パラリンピックへ
 舞台を引き継ぎました。

 結果がどうあれ、自分の持つ精一杯の力を出しきるアスリートたちの、
 晴れやかな笑顔や熱い涙は、ほんとうに爽やかでしたね。

 陰鬱な冬も、おかげで今年はかなり明るく過ごせたようです。


 さて、月は変わって3月。

 女の子のいる家では、華やかなおひなさまが飾られる一方、年度末、
 受験、確定申告、人事異動と、なにかと気忙しい月ですね。あなたは
 どんなふうにお迎えですか?

 まだ寒の戻りもあり、しばらくは寒さが続きそうですが、月も半ばに
 なれば、少しずつ木々の蕾もふくらんでくるのではないでしょうか。


 そんな早春の季節に咲く花木の代表と言えば、まずは「椿」ですね。

 木へんに「春」と書くように、春を象徴する華やかな風情をもつ花、
 春の先駆けの花です。 

 
 
      
    小舎(こや)の水車 藪かげに一株の椿

    新らしい轍(わだち)に蝶が下りる それは向きをかへながら

    静かな翼の抑揚(よくやう)に 私の歩みを押しとどめる

    「踏切りよ ここは……」 私は立ちどまる


                     三好達治「信号」




    これはいづこの国 いづれの世の建築だらう 私の夢なら

    こんな建(たて)ものの中に住みたい 今朝の雨に濡れて

    掌上(しやうじやう)に ややに重い一輪の紅椿 その壁に
    凭(もた)れて

    私は楽器を奏でる この騎士(ナイト)の唇を 花粉が染める


                     三好達治「椿花」



 とても優しく、叙情的な詩ですね。

 「つばき」は、もともと日本の各地に自生し、古くはめぐり来た春の
 喜びを伝えてくれる木であったようです。しかし、万葉集に出てくる
 「つばき」は、「藪椿」(やぶつばき)なのか「山茶花」(さざんか)
 なのか、諸説があり、はっきりしません。

 山人が、春になるとこの枝を持って里に降りてきて、春の「ことぶれ」
 をするのだそうです。大和や豊後に「海石榴市」(つばいち)という
 地名がありますが、これはその名残だとのこと。

 春を象徴する花ということで、「椿」の字が当てられたようですが、
 これは、木へんに「夏」なら「榎」(えのき)、木へんに「冬」なら
 「柊」(ひいらぎ)というのと同じ手法だったわけですね。


 ところが、ややこしいことに中国にも全く同じ字があって、こちらは
 「ちん」と読んで、「栴檀」(せんだん)を表すのだそうです。また
 この字は、「長く久しい」という意味を持っていて、長命を「椿寿」
 (ちんじゅ)を言い、そこから長寿を保つ木とされたようです。

 椿は、桃と並んで「霊力」がある木とされていたのですね。この木で
 作った杖はとてもじょうぶで、土蜘蛛(つちぐも)を退治したという
 伝説もあります。

 しかし椿が一般に観賞用として栽培されるようになったのは、茶道・
 華道が盛んになった室町時代以降で、江戸時代になるとぐっと品種も
 増え、現在では1万種にもなっているそうです。



      巨勢(こせ)山のつらつら椿つらつらに

         見つつ偲(しの)はな巨勢の春野を


            坂門人足(さかとのひとたり)(万葉集) 



 この「つらつら椿」というのは、ずらりと連なりあった椿のことで、
 山道の途中で咲き列なった椿の美しさが印象的ですね。ちなみに、
 「つらつらに」は「しみじみと」という意味でしょうか。文字通り
 言葉のつらなりの、軽快なリズムが生きていますね。


 ところで椿というと、花びらが散るのではなく、花全体がぽとりと
 落ちるのが特徴的ですよね。

 これが災いして、武家社会では首が落ちることを連想して、縁起の
 悪い花とされ、今でもこの花をお見舞いに持っていくことは禁忌と
 されています。

 けれど、逆にこの風情を喜ぶ人も多く、特に二代将軍秀忠などは、
 この花をこよなく愛し、江戸城内に各地から珍種や名花をたくさん
 集めたとのこと。

 「落椿」(おちつばき)という言葉もひとつの季語になっていて、
 地に落ちたまま鮮やかな色を失っていない様は、まさに絵画的な
 美しさを感じさせますね。




       赤い椿白い椿と落ちにけり


                      河東碧梧桐



       花瓣(はなびら)の肉やはらかに落椿


                      飯田蛇笏



 ところが品種によっては、桜や梅のように花びらを一枚ずつ散らして
 ゆくものもあるらしく、日本画家 速水御舟の描いた名作「名樹散椿」
 (二曲一双屏風 山種美術館蔵)も、その名の通り、散る椿ですね。

 この絵のモデルとなった木は、加藤清正が朝鮮から持ち帰り、秀吉に
 献上したと伝えられるもので、京都市北野の地蔵院、通称「椿寺」に
 ありましたが、今はその二世の木が残っているそうです。


 また椿の名所としては、都はるみさんの「あんこ椿は恋の花」という
 歌でもよく知られる伊豆大島がありますが、わたしの住む新潟県など
 北陸地方は「雪椿」の自生地として知られています。こちらの方は、
 小林幸子さんの歌で有名ですね。

 数メートルもの雪に覆われ、地表に押しつけられた形で冬を過ごした
 雪椿は、春になって雪解けが始まる頃、白い残雪を背景に深紅の花を
 咲かせます。そのはっとするような鮮やかさは、この地域ならではの
 ものでしょうか。



      幹ほそき白玉椿ゆりたわめ

           強く吹く風やまむとはせず


                       窪田空穂 



 「椿」は、静かな風情をもちながら、凛とした強さを持つ花。そして
 その実から採れる油は上質で、とろりと澄んだ太陽そのもののような
 深い色と味で、わたしたちの暮らしを彩ってくれます。

 陽ざしはあっても、まだカミソリの刃のように冷たい早春の風の中、
 わたしたちも閉ざされた心の窓を少しずつ開きながら、生動する春の
 気を、精いっぱい五官に感じてみましょうか。

 かぐわしい花の季節は、すぐそこまで来ています。



                    平成26年3月1日 

     町屋の家々にひな人形が並べられた、北越後の城下町にて



 ※ 今年で15回目を迎えた「町屋の人形さま巡り」が、村上市の中心
   商店街できょう1日から始まります。また先日のソチ冬季五輪で、
   見事銀メダルを獲得した、村上第一中学校3年生の平野歩夢選手の
   市内凱旋パレードが、明日2日の午後1時から行われるとのこと。

   ここ村上には、ひと足早く賑わいの春が訪れたかのようです。

 
 ───────────────────────────────

  メールマガジン 「あなたへ贈る季節のたより」

   ●発行 URUSHI OHTAKI
   ●編集 大滝 豊

        Mail to:   yutak@lapis.plala.or.jp
        Web Site: http://www.u-ohtaki.com/
        Blog:    http://blog.u-ohtaki.com/
        Facebook:http://www.facebook.com/YutakaOhtaki

    ※バックナンバーは、ここで読むことができます。
              ↓
        http://www.u-ohtaki.com/magazine.html


───────────────────────────────────
  このメールマガジンは、以下のマガジンスタンドから配信しています。
 配信中止は、それぞれのページから行って下さい。

 ・まぐまぐ  http://www.mag2.com/m/0000183042.html
 ・メルマ   http://www.melma.com/backnumber_150184/
 ・めろんぱん http://www.melonpan.net/melonpa/mag-detail.php?mag_id=009247
  
  ───────────────────────────────────

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2006-01-29  
最終発行日:  
発行周期:毎月1日  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。