あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.96

2014/02/01

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.96 ----

        「梅」               2014.2.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 灰色の雲の扉が開かれ、やわらかな陽差しが降り注ぐ朝。

 季節の感覚を失ってしまいそうになるほど、あまりに穏やかな2月の
 スタートです。

 いつもなら壁のようにそそり立つ雪は、今年は積雪というより残雪と
 言った方がいいくらい、申し訳程度に地面に置いてあるだけ。

 このままストレートに春が来るのでは、と錯覚しそうになります。


 お元気ですか。

 びっくりするほど雪の少なさですが、厳しい寒さは相変わらずですね。
 いかがお過ごしでしょうか。

 昨日は旧暦の元日。そして3日は節分、4日は立春。まさに「春節」
 と呼ぶにふさわしく、暦の上にはもう春がやってきます。


 まだまだ寒い日が続きますが、そんな中、いち早く春の便りを届けて
 くれる花というと、それはやはり「梅」でしょうか。

 その花は清楚で気品に富み、馥郁(ふくいく)とした香を漂わせます。
 そしてなにより、ほかの花に先がけて、厳寒の中に凛として咲く姿が
 愛でられ、花の中の花として、日本文化の中に確固たる地位を占めて
 きました。

 「春告草」(はるつげぐさ)と呼ばれたり、また春風を待つ草なので
 「風待草」(かぜまちぐさ)という名前もあるようです。

 そしていつも決まったようにこの花とセットになるのが、「春告鳥」
 (はるつげどり)の異名を持つ「鶯」(うぐいす)ですね。

 梅に鶯・・・なにか花札を連想させますが、外は厳しい寒さが続く中、
 その姿を思い浮かべただけで、少し心がほぐれるような気がします。

 早春とは、心の中に春を呼び込む季節なのでしょうか・・・。
 

 
 
      
         たれかおもはん鶯の
 
         涙もこほる冬の日に

         若き命は春の夜の

         花にうつろふ夢の間と

         あゝよしさらば美酒(うまざけ)に

         うたひあかさん春の夜を



         梅のにほひにめぐりあふ

         春を思へばひとしれず

         からくれなゐのかほばせに

         流れてあつきなみだかな

         あゝよしさらば花影に

         うたひあかさん春の夜を



         わがみひとつもわすられて

         おもひわづらふこゝろだに

         春のすがたをとめくれば

         たもとににほふ梅の花

         あゝよしさらば琴の音に

         うたひあかさん春の夜を



                  島崎藤村「春の歌」



 「梅」は、8世紀の頃、中国から日本に入ってきたようです。

 この漢字の発音が、呉の国では「mme」であったことから、「むめ」
 あるいは「んめ」と書くが本来は正しい表記ですが、いつの頃からか、
 「うめ」が一般的になりました。

 一口に「梅」と言っても、一重、八重、紅梅、白梅など300種を越す
 品種があるそうですが、白の一重咲きが元々の姿だったようです。

 「花」と言って「桜」を指すようになったのは平安時代以降で、それ
 以前は「梅」が花の代表格でした。万葉集の中には、梅を詠んだ歌が
 「萩」に次いで多く112首、「桜」の36首を大きく上回っています。
 いかに万葉人に愛された花なのかがわかりますね。



      誰(た)が園の梅の花ぞもひさかたの

         清き月夜(つくよ)にここだ散りくる


                   よみ人知らず(万葉集) 



 ところで「梅」と言ってすぐ連想されるのは、菅原道真でしょうか。

 ちょうど2月は受験のシーズンでもあり、学問の神様である天神様に
 お参りする人も多いことでしょう。天神様は全国各地にありますが、
 最も有名な福岡の太宰府天満宮には、神木として知られる「飛梅」が
 あります。

 才気が群を抜いていた道真公は、宇多天皇に重用され、右大臣にまで
 上りつめたものの、その異例の出世に脅威を感じた左大臣藤原時平の
 ざん言によって、遠く九州太宰府に流刑になってしまいました。

 道真の屋敷には、日頃彼が愛した桜、松、梅の庭木があり、旅立ちに
 際してそれぞれと別れを惜しみました。そのおり、梅の木に向かって
 詠んだ有名な歌がこれですね。


      東風(こち)ふかば にほひおこせよ梅の花

         あるじなしとて春なわすれそ(春を忘るな)



 伝説によると、桜は主人がいなくなった悲しみに耐えかねて、ついに
 枯れてしまいましたが、松と梅は彼のあとを追って空を飛んだのです。

 けれど松は、途中で力が尽き、摂津国(今の兵庫県)の「飛松岡」と
 呼ばれるようになる丘に根を下ろし、梅だけが見事に主人のもとまで
 たどりつき、その地に降り立つことができました。それが今の太宰府
 天満宮にある「飛梅」だということです。


 今日、梅の名所として知られているのは、この太宰府天満宮をはじめ
 全国にたくさんありますが、古来、最も有名なのは、関東では水戸の
 偕楽園(かいらくえん)、熱海梅園、青梅の吉野梅郷、関西では京都
 北野天満宮、神戸の岡本、奈良の月ヶ瀬や賀名生(あのう)とのこと。
 東京では、湯島天神や深大寺でしょうか。いずれも、毎年たくさんの
 梅見客で賑わっています。


 ところで梅は花の形もさることながら、その香りを愛でることも多い
 ですよね。

 古今和歌集の頃ともなると、歌人たちの美意識がすこぶる繊細になり、
 色よりも香りの方が賞されるようになってきたようです。




      春の夜のやみはあやなし梅の花

          色こそみえね香やはかくるる


        凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)(古今和歌集)





      色よりも香こそあはれと思ほゆれ

          誰が袖ふれし宿の梅ぞも

                  よみ人知らず(古今和歌集)




 夜、闇の中に咲いている梅を嗅覚だけで楽しむ。それが「艶なるもの」
 とされたのですね。

 闇夜に深窓の娘を訪ねていき、その袖にたきこめられた香りを嗅いで、
 一夜の逢瀬を楽しむのと、相通じる感覚でしょうか。
 
 闇夜ならずとも、月の光にほんのり浮かび上がる白梅と、かぐわしい
 香りは、この世ならぬ夢幻の世界を感じさせたかもしれません。




       梅が香や針穴すかす明り先


                       小林一茶

 
 
 梅は一輪咲くごとに、春の近づくのを感じさせる花。

 そして「桜伐(き)る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿」という言葉があるとおり、
 梅は枝を切るごとに活力を増すと言われていますね。

 その可憐な姿の内にひそむたくましい生命力は、わたしたちに厳しい
 冬を乗り切る力を与えてくれるかのようです。

 身を切る寒風がおさまり、南からのやわらかな風が吹き始めるまで、
 春の女神は小さな梅のつぼみの中で、そのかぐわしい香りを放つ日を
 じっと待っているのでしょうか。

 そんな想像をするわたしたちの心の中に、すでに春は来ているのかも
 しれませんね。


                    平成26年2月1日 

        地元中学生の五輪出場に沸く、北越後の城下町にて



 追伸

 いつも「あなたへ贈る季節のたより」をお読みくださり、ありがとう
 ございます。

 おかげさまで、あと3号で大台の100号となりますが、この100号を
 もちまして、ひとまずこのメールマガジンを休刊させていただくこと
 に致しました。

 みなさまには長い間ご愛読いただき、また折にふれて温かな励ましの
 お言葉や、貴重なご助言を頂戴して、心から感謝しております。

 拙い文章ながら、月に1度これを書くことは、わたしにとって大きな
 励みであり勉強でもあったのですが、一つの形式にとらわれず、また
 別な形で発信したいとの思いが以前からあり、当面は、写真画像をも
 交えることができるブログにて、内容や発信の頻度をもう少しアップ
 させながら書いていきたいと思っています。

 100号に達しましたら、またご案内方々ご挨拶をさせていただきます
 が、どうぞ今後ともよろしくお願い致します。

 
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