あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.94

2013/12/01

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.94 ----

        「年の暮」             2013.12.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 目も覚めるほど鮮やかな色彩を、しばし街にもたらしてくれた紅葉が、
 今その役目を終え、ゆっくりと土に帰っていきます。

 早々に舞い降りた雪が融けても、いちめん灰色に覆われた空を背景に、
 ぽつんとひとつ残った柿の実の赤い点が、うら寂しい情景を演出する
 この頃。

 ようやく訪れた小春日和も長くは続かず、身を切る寒風が吹いたかと
 思うと、大粒の霰が屋根をたたき、窓硝子をふるわせるほどの雷鳴が
 轟き始めます。

 冬将軍の行進セレモニーが、いよいよ始まったのですね。

 
 お元気ですか。

 とうとう師走となりました。

 街はクリスマスの華やかなイルミネーションに彩られ、お歳暮商戦の
 掛け声がにぎやかに響く中、薄いカレンダーに追い立てられるように、
 一日一日、カウントダウンの日々が続いていきます。

 「師走」は、文字通り「師」も忙しく走り回る意味だと言われますが、
 「為果つ」(しはつ)という言葉から来ているという説もあります。
 いずれにしても、いかにも慌ただしさが感じられる名前ですね。


 この月がことさらに短く感じられるのは、日の短さに加えて、1年を
 締めくくるさまざまなことが、満員電車のように押し詰められている
 からでしょうか。

 12月も特に下旬になると、文字通り「押し詰まった」という言葉が
 ひんぱんに使われるようにもなります。

 この一年お世話になった方にさし上げる「お歳暮」や、クリスマスの
 プレゼントを買い求める人、それを見込んでのデパートやスーパー、
 商店の大売り出し、走り回る宅配のトラック、忘年会で賑わう繁華街、
 正月を迎えるためのさまざまなものを売る「歳の市」。

 「年の暮」(としのくれ)の風景は、1年が果てようとしているこの
 時期の、密度の濃い独特の気分を醸し出してくれますね。



   年の暮れ果てて、人ごとに急ぎあへるころぞ、またなくあはれ

   なる。すさまじきものにして(興ざめなものとして)見る人も

   なき月の寒けく澄める、廿日(はつか)余りの空こそ、心ぼそき

   ものなれ。御仏名(おぶつみょう 諸仏の名号を唱えて罪障を

   懺悔する行事)、荷前の使(のさきのつかい 諸国からの貢ぎ

   物の初物を諸陵に奉るための勅使)立つなどぞ、あはれに

   やんごとなき。公事(くじ)ども繁く(朝廷での儀式が頻繁に)、

   春の急ぎ(新春を迎える準備)にとり重ねて催し行はるるさまぞ、

   いみじきや。追儺(ついな 鬼を追い払う行事)より四方拝

   (しほうはい 元旦に天皇が天地四方を拝する行事)に続くこそ

   面白けれ。晦日(つごもり)の夜、いたう闇(くら)きに、

   松どもともして、夜半過ぐるまで、人の、門(かど)叩き、

   走りありきて、何事にかあらん、ことことしくのゝしりて

   (大声で騒いで)、足を空に惑ふが(地に足もつかないほど

   あわてて)、暁がたより、さすがに音なくなりぬるこそ、年の

   名残も心ぼそけれ。亡き人のくる夜とて魂(たま)祭るわざ

   (亡き人の魂を祭る)は、このごろ都にはなきを、東(あずま)

   のかたには、なほする事にてありしこそ、あはれなりしか。



   かくて明けゆく空のけしき、昨日に変りたりとは見えねど、
   ひきかへめづらしき心地ぞする。大路(おおじ)のさま、
   松立てわたして、はなやかにうれしげなるこそ、またあはれなれ。


             吉田兼好「徒然草」上巻第19段より




 徒然草が書かれた時代も、年の暮の行事に奔走する人々や、大晦日の
 夜が更け年が明けるときの気分など、今とそれほど変わりはなかった
 ことに驚かされます。

 昔は特に、新年と立春とが重なり、新しい年を迎えることがすなわち
 春が来ることだったので、なお感慨が大きかったことでしょう。


 新年を迎えるさまざまな準備のことを、「年用意」とか「春支度」と
 言いますが、その中でまず筆頭にあげられるのが「煤(すす)払い」
 ではないでしょうか。

 「煤掃き」(すすはき)とも言い、いわゆる家の大掃除なのですが、
 わたしが子どもの頃は、台所にあった煙突と茶の間の天井に渡された
 太い梁(はり)の掃除は、一家総出で行う一大行事で、文字通りの
 「煤払い」でした。

 頭と顔の下半分を手ぬぐいで覆った父が、竹箒(たけぼうき)を取り
 付けた長い竿を持って屋根に上がったり、命綱もつけずにむきだしの
 梁の上を箒で掃いたりする様子は、一家の長としての父の大きさを、
 今更ながら感じさせてくれたものでした。

 この煤払いをやると、あたりが霞むほどにもうもうと埃がたちこめ、
 しばらく数日は、何度水拭きしても雑巾が真っ黒になったのを鮮明に
 覚えています。




     煤掃きの音はたとやむ昼餉(ひるげ)かな


                       正岡子規 



 そしてこの煤払いがすむと、いよいよ餅つきやおせちの仕度。

 餅つきは、「苦を持ち越す」ことになると言って「九」のつく29日
 を避け、30日にすることに決まっていました。

 朝早くから台所には、湯気や餅米をふかす独特の匂いがたちこめて、
 この日は何か特別なことが始まるような、わくわくした気分で起床。

 やがて土間に大きな臼(うす)が据えられ、それをはさんで重い杵を
 振り上げる父や祖父と、割烹着の袖をまくった手に、水をつけながら
 餅を返す母や祖母。そのリズミカルで迫力ある掛け合いは実に見事で、
 子ども心に「おとなってすごいな」と感嘆させられました。

 つきあがった餅は、茶の間の床の間や神棚に供えられる鏡餅のほかは、
 丸棒をころがして伸され、四角に切りそろえられます。漆の塗られた
 櫃の中が、白餅や草餅で満たされると、いかにもお正月が来る感じが
 強まり、何だか嬉しくなるのでした。

 こうした年の暮の風景は、家庭から消えてすでに久しいですが、家の
 中の季節感が薄らいだことと、家族の絆が弱くなったことは、どこか
 不可分の関係にある気がしてなりません。





     年暮れて我が世ふけゆく風の音(ね)に

             心のうちのすさまじきかな


                     紫式部(玉葉集)




 年が暮れ、わたしの人生もそのぶんだけふけていく。風の音を聞けば
 ああ、わが心のうちにも風は吹いて、寒々とするまでに・・・。

 深々と、わが心の中をのぞき見るような暮れの歌ですね。

 ひとつの年が終わり、また新しい年がやってくる・・・言ってみれば
 あたりまえのことなのかもしれませんが、百八つの煩悩を消すという
 除夜の鐘に、どこか荘厳な心清まる思いを抱くように、わたしたちは
 暮れゆく年に自分の人生を重ね合わせて、来し方をふりかえり、深い
 感慨に浸るのでしょうか。

 年の瀬のあわただしさが、波のように引いた後の静かなる時間・・・。

 あなたはそれを、誰とともに過ごしますか?



                      平成25年12月1日 

           早くも雪の洗礼を受けた、北越後の城下町にて



 
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