あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.82

2012/12/01

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.82 ----

        「冬ごもり」             2012.12.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 低く垂れ込めた雲から落ちてくる冷たい雨が、散り敷いた落ち葉に、
 しっとりと吸い取られ、大地を黒々と湿らせています。

 遠くに連なる山並みはすっかり白化粧して、大空の輪郭線を形づくり、
 いよいよ里にも、ちらほらと白い風花が舞い降りてきました。

 縄でくくられた庭木が、窮屈そうに身を縮め、じっと寒風に耐えつつ、
 ひたすら厄災が通り過ぎるのを待っているかのようです。
 

 お元気ですか。

 はや師走ですね。じっとしてはいられない、何かと心急く月の始まり。
 日の暮れもめっきり早くなりました。

 コートの襟を立て、急ぎ足で家路につく人たち。

 きらびやかな装飾に彩られた街角は、心弾むジングルベルの音楽と、
 輝くイルミネーションに包まれてはいるものの、街を少しはずれると、
 家々は墨で塗りつぶしたように色を失い、深い夕闇の底に沈みます。

 ぽつんと点ったオレンジ色の窓が、救いの光明に感じられるほどに、
 あかりと温もりが、こんなにも恋しい季節はないでしょう。


 ことに雪の多い地方の冬は、否応なく周囲と交流が断たれ、家の中に
 閉じこもったまま、じっと春を待つ生活が営まれてきたのでした。

 冬ごもり・・・それは雪国にとって宿命であり、またそれゆえにこそ、
 他の持ち得ない、独自の文化や気質を育んだにちがいありません。



          1

      さむい月夜を村の家々は

      木綿(もめん)の夢にねてゐる

      どの家でも簀(す)の上や目笊(めざる)に

      豆腐をしろく夜干ししてゐる


          2

      ほしぐさやたきぎをつんだ庇(ひさし)の下

      月がふかくさしこんで その家の何十年もの老いたる
        忠実なる用具―臼や杵(きね) はしごと

      むかしがたりをしんみりしてゐる


          3

      凍つた庭にくろくはつきりと大屋根のかげ

      祖先のかげである


          4

      おそく火をおとした竈(かまど)の口には

      黒猫が蹲(うづくま)つてゐる

      煤(すす)けた戸棚の真暗なすみには

      夜食ののこりの煮魚(にざかな)が青くひかつてゐる


          5

      となりの家の竹藪(たけやぶ)に風が下りて

      しづかな月夜がすこしうごく

      凍つた地上を竹のかげが波のやうにはしる


          6

      チカチカ 活動写真のやうにうごく山の夜風

      私は涙の赤いめがねをかけた


          7

      なにもかも寒い冬の村に

      あたたかいものといつては

      家の中にこもつてゐる みかんのにほひのやうな人情
        ばかりである



            田中冬二「凍豆腐を夜干しする冬の村」



 これは栃木県下のある山村をモデルにしているそうですが、あたかも
 映画のシーンを組写真にしたような情景を並列させて、寒村によせる
 詩人の素直な温かな目を感じさせますね。

 どこか寒々とした情景のように思えても、山里の暮らしそのものには、
 季節に即して生きる人々の温もりが溶かし込まれているのでしょう。


 家ごとすっぽりと雪に埋められる越後の山里は、なおさらのこと。

 雪が時間を止めてしまったかのような、時間がそこだけを置き去りに
 して通り過ぎていったような別世界の中で、人々の生活がゆっくりと
 静かに営まれてきたことでしょう。

 冬は彼らにとって厳しい季節であると同時に、たいせつな充電の期間
 だったのかもしれません。



     さびしさにたへたる人の又(また)もあれな

               庵ならべむ冬の山里


                         西行


 ひとりになることを自ら望み、世を離れた西行も、さすがに寂しさに
 耐えきれず、同じ思いを持って庵を並べる友を求めたのですね。


 冬ごもりは、もともとは動植物が冬に活動を止めている状態をさした
 言葉で、その間に、春に蘇る霊力が宿ると考えられていたようです。

 山里は、世俗の濁りから逃れ、孤独とひきかえに精神の自由を求めた
 人々の憧れの場所、魂の別天地だったのですが、その耐え難い孤独や
 寂しさが極限に達する冬こそが、最もその憧れを満たす季節だったに
 ちがいありません。


 ところで、「冬ごもり」という言葉から自然とイメージされるのは、
 やはり「囲炉裏」でしょうか。

 そこは、家族みんなの団らんの場であると同時に、おとなにとっては
 夜なべ仕事の場となり、また子どもたちにとっては昔語りを聞いたり、
 灰の中に栗を埋めて焼くときは皮に穴を開けておく、などいろいろな
 生活の知恵を、おとなから教わったりする教育の場でもありました。

 中央の自在鉤に掛けられた鉄瓶が、チンチンと音を立てて湯を沸かし、
 立ちのぼる蒸気と埋み火の暖かさが、なんとも言えぬ安らかな空気を
 生み出していたものです。



    はひ ふかく ゐろり に くり を さぐらせて


        に の ほ に ちちの ほほゑまし けむ


                         会津八一


 また炉の上に櫓(やぐら)を組んで布団を掛けた「炬燵」(こたつ)、
 炭火をおこして暖を取る「火鉢」や「火桶」、炬燵が小型化された
 「行火」(あんか)や「懐炉」、お湯を使う「湯婆」(ゆたんぽ)、
 ロシア式の暖炉である「ペチカ」など、この国には昔からいろんな
 暖房器具がありますが、それぞれに厳しい冬を乗り切るため、先人が
 生み出した知恵の結集が、生活文化としてわたしたちの生活を支えて
 きたのですね。

 冬ごもりは、家族がまとまってほとんどを家の中で過ごすため、特に
 家のなかの細々としたものに、心を配ることが多かったのでしょう。
 「襖」(ふすま)や「屏風」(びょうぶ)、「障子」(しょうじ)等、
 家の「しつらい」に欠かせない調度品も、冬の季語となっています。




       父のゐる大きな影や灯の障子


                      野見山朱鳥



 しんしんと音もなく降る雪は、外のあらゆる雑音を閉じ込めるように、
 みるみるその層を厚くし、しばし静寂の世界を作りあげます。

 それはあたかも、蝶が美しい羽で舞うようになる直前、さなぎとして
 周囲と隔絶するみたいなものなのでしょうか。

 禁欲的な冬ごもりで深められた内省と、静かに醸成されるエネルギー。

 それは、来るべき春に豊かな花を咲かせるための、たいせつな瞑想の
 ひとときなのかもしれません。


                     平成24年12月1日 

         底冷えする寒気に包まれた、北越後の城下町にて



 
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