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毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.72

発行日:2/1

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.72 ----

        「うぐいす」            2012.2.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 天も地も埋め尽くさんばかりの雪の花びらが、あたかも歌謡ショーの
 フィナーレのごとく、薄墨色の空から地上に撒き散らされています。

 家々の屋根、樹木、道・・・あらゆるものが、たっぷりとパウダーを
 振りかけたみたいに、一律の白さでまるくまるく覆われ、その表面を
 ときおり湯気が立つかのように地吹雪が舞いあがる風景。

 越後は、いま最も厳しい季節のただ中にあります。


 お元気ですか。

 毎日、凍える寒さが続いていますね。

 妙高市をはじめ、3メートルを超す記録的な大雪になったところも多く、
 除雪による事故も多発している様子。

 雪が積み重なると、びっくりするほどの重さとなり、毎日仕事の時間を
 割いては、息を切らして、大量の雪下ろしや除雪をしなければならない
 雪国の生活は、ここで暮らす人にしかわからない苦労があるのですね。
 山間の豪雪地や被災地に住む方々には、心からお見舞いを申しあげます。


 さて、そんな中、暦は2月となりました。

 雪も寒さも、まさにこれからが本番ですが、徐々に日が長くなり、春の
 足音が、少しずつ少しずつ近づいてくるのを実感する月。

 頑なに心を閉ざしていた人の顔に、微かな緩みが見えたような、ふっと
 一瞬安堵のため息をつきたくなる月ではないでしょうか。


 そんな早春の花の代表選手は「梅」。そして、その梅といつもコンビを
 組んで登場するのが、言うまでもなく「うぐいす」ですね。

 「春告鳥」(はるつげどり)という別名も持っているこの鳥。もちろん
 わたしの住んでいる越後で、実際にその鳴き声を聞けるようになるのは、
 まだまだ先ですが、その美しい声色は、まさに春の象徴といってもよく、
 ひたすら雪解けの季節を待ちわびる心の中では、すでにもう鳴き始めて
 いるのかもしれません。



      あらたまの年たちかへるあしたより

            待たるるものはうぐひすのこゑ


                      素性法師(拾遺和歌集)



 年があらたまったもうその日から、待ち遠しくてたまらなくなるほど、
 うぐいすの鳴き声は絶大な人気を誇っていますね。

 「あらたまの年たちかへる」というのは、もちろん旧暦の新年ですから、
 立春を迎える今頃になるわけですが、暦の上だけでも春になった喜びを
 うぐいすの声に託して詠んだ歌が、ほかにも多く残されています。

 ほととぎすと同じく、特にその年はじめて聞く声「初音」(はつね)が
 尊ばれたようです。

 もっともその声は春だけとは限らず、夏、またどうかすると秋になって
 からも耳に飛び込んできたりしますが、それはこの鳥が渡り鳥と違って、
 平地と山地を、季節によって行ったり来たりしている鳥だからでしょう。

 誰にでもわかる「ホーホケキョ」のほか、「ケキョケキョケキョケキョ」
 という「谷渡り」、また「チャッチャッ」という地鳴きもあります。

 「ホーホケキョ」は縄張り宣言、谷渡りは侵入者への威嚇だそうですが、
 とてもわたしたちには、そんなふうには聞こえませんね。


 そしてうぐいすは、「日本三鳴鳥」の一つでもあるとのこと。ちなみに
 あと二つの鳥が何か、あなたはおわかりになりますか?

 それは、「コマドリ」と「オオルリ」だそうです。たしかにどれもみな
 さえずりの美しい鳥ですね。

 (ウグイス http://www.youtube.com/watch?v=zfmraoicGKY
 (コマドリ http://www.youtube.com/watch?v=W0s8dTTL7Ro
 (オオルリ http://www.youtube.com/watch?v=z_AzlPz3SqY



 ところで、「梅にうぐいす」という取り合わせは、花札をはじめ絵画や
 工芸品の題材によく登場しますが、実際に梅の枝にとまるのはメジロで、
 より警戒心が強いウグイスは、藪の中にいることが多く、梅樹にとまる
 ことは滅多にないそうです。

 それでも「梅にうぐいす」が定着したのは、梅の木で見かけたメジロが
 ウグイスと混同されたというよりも、早春を象徴する花と鳥を、1つの
 美しいイメージとして結びつけられたことによるのではないでしょうか。

 ちなみに「うぐいす色」と呼ばれる色も、本来はウグイスの背中の色で、
 オリーブグリーンに近い、灰色がかった緑褐色をさすのですが、もっと
 明るい黄緑色だと認識している人が多いらしく、これもメジロの色から
 来る誤解なのかもしれません。

 (「うぐいす餅」とか「うぐいす豆」などは、彩りを良くして、食欲を
 そそるためには、明るいきれいな色の方がいいのでしょうが・・・。)


 さて、春を告げるうぐいすの声は、単に美しいだけでなく、どこかしら
 わたしたちの心に染み入ってくるような響きを持っていますね。




      雪のうちに春は来にけりうぐひすの

            こほれる涙いまやとくらむ


             二条后(にじょうのきさき)(古今和歌集)





 二条后は、本名を藤原高子(ふじわらのたかいこ)と言い、伊勢物語の
 主人公、在原業平(ありわらのなりひら)の悲恋の相手でした。その後
 后となったものの、ある僧と密通をしてしまい、后を廃された女性。

 冬の間に凍っていた小さな小さなうぐいすの涙も、今ごろはもう融けて
 いるだろう、というそんなイメージの中に、生涯を恋にささげた彼女の
 深い悲しみが宿されているのでしょうか。

 長く厳しい冬のような生きづらいこの世にも、いつか春がめぐりきて、
 涙の乾く日が訪れるのを、ひたすら待ち望んでいるのかもしれませんね。



 
       (私の魂)ということは言へない

       その証拠を私は君に語らう

       − 幼かった遠い昔 私の友が

       或る深い山の縁(へり)に住んでいた

       私は稀にその家を訪うた

       すると 彼は山懐に向つて

       奇妙に鋭い口笛を吹き鳴らし

       きつと一羽の鶯を誘つた

       そして忘れ難いその美しい鳴き声で

       私をもてなすのが常であつた

       然し まもなく彼は医学校に入るために

       市(まち)に行き

       山の家は見捨てられた

       それからずつと − 半世紀もの後に

       私共は半白の人になつて

       今は町医者の彼の診療所で

       再会した

       私はなほも覚えてゐた

       あの鶯のことを彼に問うた

       彼は微笑しながら

       特別にはそれを思ひ出せないと答へた

       それは多分

       遠く消え去つた彼の幼時が

       もつと多くの七面鳥や 蛇や 雀や

       地虫や いろんな種類の家畜や

       数へ切れない植物・気候のなかに

       過ぎたからであつた

       そしてその鶯もまた

       他のすべてと同じ程度に

       多分 彼の日日であつたのだらう

       しかも(私の魂)は記憶する

       そして私さへ信じない一篇の詩が

       私の唇にのぼつて来る

       私はそれを君の老年のために

       書きとめた


                 伊東静雄「鶯(一老人の詩)」



 ノーベル賞作家の大江健三郎さんが、少年の頃から感銘を受け、全文を
 暗唱もしていたといわれる伊東静雄の詩ですが、大江さんはこの作品に
 触発されて、「火をめぐらす鳥」という短編を書いています。

 この中で、大江さん自身と思われる語り手の主人公が、「火をめぐらす
 虫」が「螢」(ほたる)なら、「火をめぐらす鳥」は「鶯」ではないか
 と気がついたと言い、この鳥が、火をめぐらすように、光を放つように、
 歌いながら飛び回り、若い頃の亡き友人の魂を思い起こさせる、と語る
 のだそうです。

 魂は、目で見ることはできず、それは楽器のようなもので、それ自体は
 音を出さないけれど、外から訪れたものにより刺激を受けると、美しい
 音色を奏で、その音色は聞いた人ばかりでなく、その魂自身も記憶する
 ことができるのだそうです。そして、こうして奏でられた音の中には、
 秘められた生い立ち、人生が凝縮されて現れ出てくると言います。

 じつはこれは、精神を病んだ次男が自殺するという体験を持つ評論家、
 作家の柳田邦男さんによる解釈ですが、うぐいすの鳴き声も、こんな
 ふうに聞くこともできるのですね。


 昨年、かけがえのない大切な命を失った多くの方たちにも、もうすぐ
 魂の美しい音色が、春風に乗ってよみがえる日が来ることと思います。

 毎日の絶え間ない除雪にあえぎながら、麗らかな春の陽光をひたすら
 想い人のように待ちわびています。



                    平成24年2月1日 

  見る間に厚くなる雪にため息をつきながら、北越後の城下町にて



 
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