あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.70

2011/12/01

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.70 ----

       「千 鳥」             2011.12.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
                http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 少し陽が陰ると、底冷えのする寒さが、足下から這い上がってきます。
 空を渡る北からの風は、肺を患った人の息づかいにも似て、せつなく
 乾いた音を響かせ、せわしなく墨色の雲を運んでいく北国の初冬。

 ひととき、目の覚めるような美しさを見せてくれた街路樹の紅葉も、
 強風に吹き払われ、食べ残した菓子のように、裸木のシルエットの中、
 わずかに色の残滓を止めています。


 お元気ですか。

 今年もとうとう最後の月となりました。街は、華やかなクリスマスの
 イルミネーションに飾られ、心のはずむ音楽や歳末商戦の掛け声が、
 否応なく年末気分をもり立てています。

 比較的気温の高い日が続き、穏やかな先月でしたが、冬至に向かって
 日はますます短く、少しずつ寒い日も多くなってきました。

 大陸から渡ってくる冬鳥の姿を、ひんぱんに目にするようになるのも
 この季節ならではのこと。

 冬に見られる鳥は、シベリヤから大群で飛来する白鳥や雁をはじめ、
 鴨や鴛鴦(おしどり)、カイツブリ、都鳥、ヒタキ、ミソサザイなど
 多くありますが、その中でも特に「千鳥」は、冬を代表する風物詩と
 して、古くから詩歌に詠われ、着物や工芸品の意匠に使われるなど、
 親しまれてきた鳥です。

 その哀調を帯びた鳴き声には、わたしたち日本人の心を強く揺さぶる
 ものがあったにちがいありません。




        人つ子ひとり居ない九十九里の砂浜の

        砂にすわつて智恵子は遊ぶ。

        無数の友だちが智恵子の名をよぶ。

        ちい、ちい、ちい、ちい・・・・・・・

        砂に小さな趾(あし)あとをつけて

        千鳥が智恵子に寄つて来る。

        口の中でいつでも何か言つてる智恵子が

        両手をあげてよびかへす。

        ちい、ちい、ちい、ちい・・・・・・・

        両手の貝を千鳥がねだる。

        智恵子はそれをぱらぱら投げる。

        群れ立つ千鳥が智恵子をよぶ。

        ちい、ちい、ちい、ちい・・・・・・・

        人間商売さらりとやめて、

        もう天然の向うへ行つてしまつた智恵子の

        うしろ姿がぽつんと見える。

        二丁も離れた防風林の夕日の中で

        松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち尽す。


                高村光太郎「千鳥と遊ぶ智恵子」



 精神の病に冒されていた、光太郎の妻智恵子。幼子のような心を持つ
 彼女と、砂浜に群れる千鳥とが、お互いにその名を呼び交わしている
 情景の中に、そこはかとない哀しみが漂っていますね。

 「千鳥」は、チドリ科の鳥の総称で、渡り鳥としてその種類は多く、
 日本に渡ってくるものだけで13種。姿はセキレイに似て、灰褐色の背、
 白い腹、頭と胸に黒斑があり、海岸や川原に棲んでいます。

 その名前の由来は、「百千(ももち)の群れ」をなして飛ぶからとも、
 あるいはその鳴き声からとも言われているようです。

 脚が細く、その指は前の3本だけで後ろ指がないため、両足を左右に
 踏み交えて歩くことから、酔った人がふらふら歩く様子を「千鳥足」
 などと呼ぶのですね。

 また、糸を交差させてかがることを「千鳥がかり」と呼ぶのも、この
 鳥の連なって飛ぶ様子に似ているからだそうです。

 ほかにも「千鳥」とつく言葉はたくさんあって、それだけこの鳥が、
 古くから人々に親しまれてきたことがわかりますね。

 ことに哀切を帯びた鳴き声は、人々の心に深く染み入ったのでしょう。
 詩歌の中にも、千鳥はじつに多く登場しています。




   淡海(あふみ)の海(うみ)夕波千鳥汝(な)が鳴けば

       情(こころ)もしのに古(いにしへ)思ほゆ


                  柿本人麻呂(万葉集巻三)



 当時、「壬申(じんしん)の乱」という、朝廷を二分する大きな戦が
 ありました。それに破れ、それまで都として栄えた近江は、すっかり
 荒れ果て、多くの人が亡くなりました。琵琶湖に群れる千鳥を見て、
 人麻呂は今は亡き人々のことを思い、深い悲しみに浸っています。

 それにしても、なんと美しいことばの響き、音の連なりでしょう。
 「み」の音、「な」の音が連続する中に、「夕波千鳥」という絶妙の
 イメージの素晴らしさ。まさに人麻呂は、ことばを操る天才ですね。


 もともと「千鳥」は、季節に関係なく歌われていたようです。それが
 「冬」の風物ということに決定されたのは、なぜでしょうか。

 どうもそれは、千鳥を詠んだ紀貫之の歌が、名歌として世に広まった
 ことによるもののようです。




      思ひかね妹(いも)がり行けば冬の夜の

            川風さむみ千鳥鳴くなり


                     紀貫之(拾遺集)



 あまりの恋しさに耐えかねて、恋人の元へと急ぐ彼。吹きつける冬の
 夜の川風は凍えるほど寒く、千鳥の声は心に染み入るばかり・・・。

 千鳥は雌雄がいつも離れずにいることから、「恋心」を託す存在でも
 あったようですが、その鳴き声は、冬の寒さと相まって、作者の心に
 きりきりと鋭く突き刺さってきたのでしょう。

 あなたにも経験はありませんか?

 せつない恋心を胸に秘めた身には、港に飛ぶカモメや、高い空を舞う
 鳶の声さえ、もの悲しく聞こえることが・・・。

 身を切る寒さと千鳥の声は、届かぬ想いをいっそう激しく揺れ動かす
 ものなのかもしれません。


 ところであなたは、「浜千鳥」という、日本のなつかしい歌をご存じ
 でしょうか。

 鹿島鳴秋作詞、弘田龍太郎作曲の大正時代につくられた童謡ですが、
 この歌の生まれた浜は、新潟県の柏崎にある番神海岸です。



       青い月夜の 浜辺には

       親を探(さが)して 鳴く鳥が

       波の国から 生まれ出る

       濡(ぬれ)た翼(つばさ)の 銀の色



       夜鳴く鳥の 悲しさは

       親を尋ねて 海こえて

       月夜の国へ 消えてゆく

       銀の翼の 浜千鳥



 曲は三拍子で、日本の伝統的な五音音階と西洋の作曲手法とを見事に
 融合させた名曲。波のうねりを思わせる盛り上がり、そして親を慕う
 せつない心が、美しい旋律の中にあふれた抒情小曲です。

 http://www.youtube.com/watch?v=w28AJO2dKKc&feature=related

 当時、「少女号」という名の雑誌の編集局長をしていた鹿島鳴秋が、
 友人の桑山太一を柏崎に訪ねた折り、二人で海岸を散歩している時に
 思い浮かび、手帳に書き記したものだそうで、現在、記念の詩碑が、
 柏崎市内に建てられています。


 凍りつくような冬の寒気の中、冴え冴えと青い月の光が照らす浜辺。
 否応なく孤独感を助長する日本海の荒波・・・。寒さが厳しいほど、
 月や星は、鋭い美しさで輝くのです。

 哀しみをたたえた千鳥の声は、そんな冬の夜の舞台に響くコーラス
 でしょうか。

 そして、銀の翼を持った千鳥の姿は、月光のスポットを浴びて踊る
 バレリーナと言えるのかもしれませんね。


                    平成23年12月1日 

           しんしんと冷え込む、北越後の城下町にて


 
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