あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.58

2010/12/01


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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.58 ----

       「埋み火」             2010.12.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
               http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 凩の去った後、いちめん冬ざれた風景が、町の周囲に広がっています。

 色鮮やかな木の葉はその役目を終え、静かに枝を離れると、ひととき
 樹木の足元に明色のカーペットを敷いてから、ゆっくりと大地の色に
 同化し、消えていきました。

 残された裸木のシルエットは、まるで木炭で描かれたデッサンのよう。
 幹や枝が、先に行くにつれ徐々にその幅を細めながら、グレーの空に
 黒々と力強い線を引いています。


 お元気ですか。

 暖かさと寒さが短い周期で繰り返される日々のあと、暦ははや一年の
 最後の月を迎えました。「師走」と聞いただけで、何となく気の急く
 心持ちがするこの頃。

 遠くの山脈(やまなみ)はすでに白く、この越後の里に雪が来るのも
 もうすぐでしょうか。


 窓を開けると、驚くほど冷たい外気が、暖房のほどよく効いた室内に
 さっと流れ込んできます。一日の最低気温は、だんだんと氷点に近く
 なってきました。火色の恋しい季節です。


 暖房などなかった時代。朝、蒲団を抜け出たときの、全身を包みこむ
 厳しい寒気と、ほの暗い室内に、熾きたばかりの若い炭火が放つ赤い
 光の記憶が、今もあざやかに目の奥によみがえってきます。
 
 わたしたちの冬の暮らしから炉や炭が消えて、もうどのくらい経つの
 でしょうか。それは知らず知らずのうちに、わたしたちの心にまで、
 ほのかで暖かな情感を与えてくれるものでした。




      人しづまりて

      風なごみぬ

      燈(ともしび)と

      こころと

      古(いにしへ)となりぬ。

      告げよ。

      何者ぞ、

      古より来り

      われを今過(よぎ)り

      後(のち)に行く。

      あはれ

      たぎる湯のごとく

      楽しいかな

      わが冬の夜(よる)。

      ----つがれたる炭の

      灰となりゆく間(あひだ)。


                 「冬夜微吟」 佐藤春夫



 詩人は、炉端にあって変わりゆく炭火を見つめながら、遠い過去より
 将来へと続く時間の流れを思っているのでしょうか。

   百川日夜に逝き、物我相随いて去る
  (ひゃくせん にちやにゆき、ものとわれ あいしたがいて さる)

 と歌ったのは、北宋の詩人であり書家でもある、蘇東坡(そとうば)
 ですが、静かに時の移ろいを思うには、「たぎる湯のごとく」沸々と
 思念を湧かせられる冬の夜の炉端が、最適な場所なのかもしれません。

 あなたにも、じっと火を見つめた記憶がありますか?


 清少納言は、有名な「枕草子」の第一段で、きびしい寒さの早朝に、
 火をおこす人々のきびきびした様子を好ましく描写し、昼近くになり、
 炭が崩れたのを味気ないものと嫌っています。

 けれども、黒から赤、赤から白へと変化する炭の形象は、どことなく
 人生模様にも通底しているような気がしないでしょうか。


 わたしの住んでいる城下町には、茅葺き屋根の武家屋敷が、文化財と
 して数棟残されていますが、そこでは、部屋の中央に切られた炉に、
 真夏でも火を絶やすことがありません。

 それは、茅につく害虫を駆除すると同時に、建築部材の腐敗を抑えて、
 その耐久性を増すためなのだそうです。

 昔の民家は、大方みなそうだったようで、そのため、寝静まっている
 夜や、真昼に火の気が必要ないときなどには、炭火にたっぷりと灰を
 かけて、火を保存しておきました。

 これが、「埋み火」(うづみび)ですね。

 数ある日本の季語の中でも、とりわけ情趣に富んだ、美しいことばの
 ひとつではないでしょうか。
 


 
     うづみ火にすこし春あるここちして

        夜(よ)ふかき冬をなぐさむるかな


                     藤原俊成(風雅集)



 かっかと燃える炭に比べて、ほんのりとやさしい温もりを感じますね。

 この「埋み火」は、世間から忘れ去られ、孤独に生きる人の身の上に
 たとえられると同時に、消そうとしてもなかなか消すことのできない
 「秘めた思い」をも暗示させます。

 外から見た目には、何の情熱も感じられないのに、その人の内部では
 激しく燃えるものがある・・・人の心の奥底は、そう簡単にはのぞく
 ことなどできないのでしょうね。




     煙だに立ちも昇らで埋み火の

        下にくゆるを知る人のなき


                     源 成直



 茶道では、大晦日の晩、「除夜釜」(じょやがま)と呼ばれる茶事が
 済んだあと、炉の火を消さずに「埋み火」にしておくそうで、それを
 あくる元日の早朝に掘り起こし、汲みとった若水をこの火で沸かして、
 大福茶を点てるという習わしがあるそうです。

 年があらたまっても、火を絶やさずに焚き続けるという「火継ぎ」の
 伝統が、今もこんな形で生きているということでしょう。




     埋火や壁には客の影法師


                     松尾芭蕉



 囲炉裏の火は、周囲の空間に深い陰翳をつくり出します。

 幼い頃、早々と寝かしつけられた後、囲炉裏の火の赤みがかった光を
 背景に、おとなたちの影が、大きくなったり小さくなったりしながら、
 白い障子戸にうごめくのを、蒲団の中でぼんやりと眺めていたことを
 思い出します。

 「炉明かり」というのでしょうか・・・

 あのほのかで幻想を誘う光も、停電した嵐の夜でもなければ、もはや
 家の中には存在しなくなりました。

 わたしたちは便利さと引き換えに、ほんとうに大切なものを、次々と
 失ってきたのかもしれません。


 そっと灰をかぶせておいた愛おしい記憶・・・それはあなたの中にも
 きっとあることでしょう。

 その埋み火は、あなた自身の心をほのかに温め、ふたたび燃え始める
 ときを、静かに待っているのかもしれませんね。

 



                     平成22年12月1日 

               初雪の間近い、北越後の城下町にて



 
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