あなたへ贈る季節のたより

毎回、1つの季語を添えたお便りがあなたの元に届きます。心に残る詩、和歌、俳句をひもときながら、北越後の城下町から都会に住むあなたに宛てて、その時々のふるさとの様子や、あなたへの想いを伝える恋文です。

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あなたへ贈る季節のたより No.46

2009/12/01


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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.46 ----

       「冬木立」             2009.12.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
               http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 ついこの間まで、かすかに鳴き続けていたこおろぎの声も、いつの日か
 力尽きたようにぱったりと途絶え、枯れ草の上を渡っていく乾いた風の
 音だけが、うら寂しい季節の到来を告げています。

 目に鮮やかな山々の紅葉や、たわわに実った赤い柿の実も、知らぬ間に
 消えうせて、空をおおう黒雲が、まるで目の前の風景に薄墨を滴らせて
 しまったかのように、いちめん無彩色の世界となりました。


 お元気ですか。

 雪の多いこちら越後でも、今年は不思議なほど冬の訪れが遅く、比較的
 気温の高い、おだやかな日が続いています。

 けれど時の歩みだけは、そのペースを緩ませることなく、着実に過ぎて
 いき、ひと月ごとのカレンダーは、とうとう残り1枚となりました。

 街は、クリスマスの華やかな電飾に彩られ、年末商戦のにぎやかな声が
 響くこの頃ですが、一歩町をはずれると、それとは裏腹に、来たるべき
 春に備え、大地は静かな休息に入ろうとしています。


 すっかり葉を落とし、骨格だけになった木々の連なりが、分厚い灰色の
 雲を背景に、蕭々とした姿をさらす初冬の風景。

 それはわたしたちに、北国の厳しくも清々しいばかりの美しさを見せて
 くれるものです。





     冬が又来て天と地とを清楚にする。

     冬が洗ひ出すのは万物の木地。
 


     天はやつぱり高く遠く

     樹木は思ひきつて潔(きよ)らかだ。



     虫は生殖を終へて平気で死に、

     霜がおりれば草が枯れる。



     この世の少しばかりの擬勢とおめかしとを

     冬はいきなり蹂躙(じうりん)する。



     冬は凩(こがらし)の喇叭(らつぱ)を吹いて宣言する、

     人間手製の価値をすてよと。



     君等のいぢらしい誇をすてよ、

     君等が唯君等たる仕事に猛進せよと。



     
     冬が又来て天と地とを清楚にする。

     冬が求めるのは万物の木地。
 


     冬は鉄碪(かなしき)を打つて又叫ぶ、

     一生を棒にふつて人生に関与せよと。



                「冬の言葉」 高村 光太郎




 多くの詩人の中でも、高村光太郎ほど冬を愛した人は、ほかにいないの
 ではないでしょうか。

 凛々と澄みわたる大気、きびしい寒さの中に感じられる充実感。

 裸木となった落葉樹の姿に、わたしたちもそれを、ひしひしと感じとる
 ことができます。毅然とした潔さ・・・と言ってもいいでしょうか。


 豊かな緑の葉を繁らせ、強い陽差しをさえぎる「夏木立」とは対照的に、
 「冬木立」には、すべての装飾をそぎ落として、自然のなかに屹立する
 颯爽たる姿があります。

 それはあたかも、コンテで描かれた裸体のデッサンのごとく、あるいは
 鍛え抜かれた強靱な線で構成された書家の作品のように力強く、自然の
 明快な造形的意志を感じさせてくれるかのようです。





    斧入れて香におどろくや冬木立


                     与謝 蕪村



 冬は、木材を切り出す適期。

 斧を打ち込んだとき立ちのぼった、思いもかけぬ木の香気が、まわりの
 大気の冷たさと響きあって、鮮烈な印象を与えたのでしょう。


 あなたは憶えておいでですか?

 木の幹にそっと手を触れたとき、その木肌の乾ききってひんやりとした
 感触から、ほとばしる生命力が伝わってきたことを。

 試みに耳をあてれば、幹の中を血流のように流れる、水の音さえも聞く
 ことができましたね。

 冬の樹木のもっている美は、視覚にとどまらず、嗅覚や触覚、聴覚まで
 及んでいるのでしょうか。

 そう言えば、「ふゆこだち」ということばの音そのものも、すっぱりと
 薪を割ったような、凛乎たる響きをもっているようにも思えますね。





     冬が来た。白い樹樹(きぎ)の光を体のうちに

          蓄積しておいて、夜ふかく眠る


                      前田 夕暮 




 あなたは、「冬木立」にどんな木をイメージされますか?

 越後に生まれ育ったわたしの目には、何となく田圃の中の「はさ木」の
 姿が浮かびます。実際は、もうすっかり少なくなってしまいましたが。
 
 それぞれの木のシルエットは、2つとして同じではないにもかかわらず、
 一面の平原の中に、それらが並び立つリズム感とフォルムの面白さは、
 日本画家の横山操や、洋画家の佐藤哲三の絵などを通じて、心の奥深く
 刻み込まれています。


 雪で閉ざされる、越後の長い冬。

 冬木立には、その冬をじっと耐え忍び、ひたすら春を待ちわびる人々の
 心が、重ね合わされているのかもしれません。

 日中に目にした冬の峻烈な美を、夜の眠りのなかで発光させ、ほのかな
 温もりとして、いつも懐に抱いていられたら素敵ですね。




                    平成21年12月1日 

               雪が来る前の、静かな北の城下町より



 
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