文学

三島由紀夫の総合研究

創立35年の老舗「三島由紀夫研究会」の会報を兼ねた、あらゆる角度からの総合研究メルマガ

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三島由紀夫研究会メルマガ

2019/05/09

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『三島由紀夫の総合研究』(三島由紀夫研究会 メルマガ会報)
  令和元年(2019)5月9日(木曜日)
           通巻第1336号 
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編集部より
5月2日付の弊メルマガに掲載されたTO生氏からの投稿に対し、当会会員のFH生氏から以下のような回答が寄せられました。当初、FH生氏はメルマガへの掲載は望まれず、直接TO生氏に回答を転送するよう編集部に依頼されましたが、あいにくTO生氏のメルアド、連絡先が不詳のため、ここにFH生氏の承諾を得て、メルマガに掲載するものです。TO生氏への疑問に対しご参考になれば幸甚です。
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『朱雀家の滅亡』についての私見(TO生氏への回答)
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三島由紀夫研究会会員 FH生
 
 先ず、池田成彬著『私の人生観』が三島由紀夫の蔵書の中にあったかどうかについてですが、私が「三島由紀夫文学館」(山梨県山中湖村)に問い合わせたところ、同文学館に所蔵されている三島の蔵書の中にはないこと、また三島の蔵書を網羅した『定本三島由紀夫書誌』(島崎博・三島瑤子編、薔薇十字社)にも載っていない、という回答を得ました。
したがって、朱雀経隆は池田成彬がモデルではないと考えて、ほぼ間違いないと思われます。
  そこで、『朱雀家の滅亡』のストーリーをどう解釈するかについて、私見を述べます。結論から言いますと、この出征に関する設定は、三島自身の身に起った出来事の反映であると、私は推定します。
 ただし、人物設定は異なります。『朱雀家の滅亡』では、朱雀経広の任地を、身の安全な本土に変えてもらおうと画策するのが、叔父・宍戸と侍女・おれい(実際は母親)となっており、国の為に命を捧げる息子を誇りに思う父・経隆は、その画策を断って、出征を認めます。
 ところが、三島の場合は、入隊検査に不合格となるように画策したのは、父・梓です。『仮面の告白』でこのように吐露しています。
「私のやうなひよわな体格は都会ではめずらしくないところから、本籍地の田舎の隊で検査をうけた方がひよわさが目立つて採られないですむかもしれないといふ父の入知恵で、私は近畿地方の本籍地のH県で検査を受けてゐた」
その結果、当日高熱を出していた三島の、うその病状報告を聞いた医師の誤診により、肺浸潤の名で即日帰郷を命ぜられたのです。
では、三島の心境はどうかと言えば、帰宅後、母・夏子に「合格して出征し、特攻隊に入りたかった」と語っています(平岡梓『倅・三島由紀夫』)。
したがって出征を誇りに思う経広の心は、三島の本心と重ね合わせてよいと思われます。
〈入知恵〉とは「悪いこと」を教えるという意味であり、このことが、モラルに厳しい性格であった三島の、一生の心の「傷」となったのではないかと推測します。

経広が戦死したあと、経隆は宍戸に向かって言います。
 「たとへ私が狂気だつたにせよ、あの狂気の中心には、光かがやくあらたかなものがあつた。狂気の核には水晶のような透明な誠があった。それによつて得た私の恵みは、喪失も喪失でなく、一人息子を失つたことさへ、さらに大きなものを得たと感じられたことだ」
宍戸が父・梓に照応しており、経隆は、三島の願望が投影された父親像を表しているのではないかと推量します。 

 入隊を忌避したことによる罪の意識は、『仮面の告白』を嚆矢として、エッセイの「私の遺書」、『太陽と鉄』、「果たし得てゐない約束」や、小説の『十日の菊』、『奔馬』、『天人五衰』など、多くの作品の中で暗示的に告白されています。
 三島は自殺について、「武士としての自殺」、すなわち「道義的な死」しか認めない、と明言しています(「日沼氏と死」)。武士の切腹とは、「みずからの罪を償い、過去を謝罪し、不名誉を免れるための行為」を意味します(新渡戸稲造『武士道』)。三島自身も、「切腹といふ積極的な自殺は、名誉を守るための自由意志の極限的なあらはれ」と断定しています(『葉隠入門』)。

 したがって三島は、国家と天皇のために犠牲になるという「名誉」と「誇り」が失われことを罪と感じ、贖罪のために自決したと、私は推定します。檄文で、「生命以上の価値とは、われわれの愛する歴史と伝統の国、日本だ」と訴えています。また、自決直前の演説の最後に〈天皇陛下万歳〉を叫んだのは、入隊検査の前に書いた遺書にある〈天皇陛下萬歳〉を甦らせることだったのです。そして、自決によって、戦死した朱雀経広と同化できたのだと思います。
 なお、三島の自決を「倫理的な死」と見なす以上の私見は、「夢想」や「妄想」ではないと言う自負はありますが、しかしあくまで「仮想」であり、絶対的に正しいと言っているわけではありませんので、ご承知願います。
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■ 事務局より 今後の予定
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5月公開講座は『正論』元編集長の上島嘉郎氏をお招きします。

日時 令和元年5月28日(火)18時半開演(18時開場)
会場 アルカディア市ヶ谷(私学会館) JR・地下鉄「市ヶ谷」下車2分
演題 「三島由紀夫と西郷南洲」(仮題)
講師 上島嘉郎(かみじまよしろう)氏はジャーナリスト、元月刊「正論」編集長
(講師略歴)昭和33年生。長野県出身。愛媛県立松山南高校卒。フリーランスを経て産経新聞社に入社。月刊「正論」編集長を歴任。現在はフリージャーナリストとして活躍中。
著書として『韓国に言うべきことをキッチリ言おう!−いわれなき対日非難「サクサク反論ガイド」』(ワニプラス)、共著に『大東亜戦争「失敗の本質」』(飛鳥新社)がある。
           

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六月の「公開講座」は渥美饒児氏(文藝賞受賞作家)
浜松在住の作家・渥美饒児氏が小説家を志した20代より30年間にわたって蒐集した「三島由紀夫コレクション」を通じて、三島由紀夫への熱い思いを語って頂きます。
      記
日時  令和元年6月24日(月)18時半より(18時開場)
会場  アルカディア市ヶ谷(私学会館)
        JR/地下鉄「市ヶ谷」徒歩2分
演題  「私の三島由紀夫コレクション」
講師  渥美饒児氏(あつみじょうじ、小説家)
   <講師プロフィール> 昭和28年生、静岡県浜松市出身。日本大学文理学部卒。『ミッドナイト・ホモサピエンス』(河出書房新社)で昭和59年度文藝賞を受賞。『十七歳、悪の履歴書―女子高生コンクリート詰め殺人事件』(作品社)を原作とした映画「コンクリート」(中村拓監督)が平成16年に上映される。その他『孤蝶の夢―小説北村透谷』(作品社)、『原子の闇』、『沈黙のレシピエント』(何れも中央公論新社)。その他最新作として警察小説の傑作として評価の高い『潜在殺』(河出書房新社)がある。浜松市在住。
 平成25年浜松文芸館で「三島由紀夫コレクション展」を主催した。 


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 7月公開講座の日程とテーマが下記のように決りましたのでお知らせします。蓮田善明とともに『文芸文化』を創刊し、また三島由紀夫の才能を見出し三島由紀夫が世に出ることに尽力した清水文雄について論じて頂きます。
荒岩氏がこれまで当会で取り上げた蓮田善明、保田與重郎、伊東静雄、影山正治に続く浪曼派文学シリーズの第5弾になります。
    記
日時  令和元年7月26日(金)18時半より(18時開場)
会場  アルカディア市ヶ谷(私学会館)
演題 「清水文雄の国文学と教育」
講師  荒岩宏奨氏(あらいわ ひろまさ、展転社取締役編集長)
    講師略歴 昭和56年山口県生まれ。広島大学教育学部卒、プログラマー、雑誌編集者を経て現在展転社取締役編集長。著書『国風のみやびー国体の明徴と天業の恢弘』(展転社)。尚荒岩氏は来る4月より展転社代表取締役に就任予定です。
会場費  会員・学生千円(一般2千円)

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九月「公開講座」の講師が新国立劇場演出家の宮田慶子さんに決まりました。日程などは下記の通りです。
      記
日時  令和元年9月20日(金)18時半開演(18時開場)
場所  アルカディア市ヶ谷(私学会館)
    JR/地下鉄「市ヶ谷」徒歩2分
演題  「三島由紀夫演劇の世界」(仮題)
講師  宮田慶子氏(新国立劇場演出家・同演劇研修所長)
<講師略歴>昭和32年生まれ。東京都出身。学習院大学文学部中退後青年座(文芸部)に入団。その後新国立劇場演劇部門芸術監督を経て現在は同劇場演劇研修所長。三島由紀夫作品の「朱雀家の滅亡」など多くの作品の演出を手掛ける。第9回読売演劇大賞最優秀演出家賞をはじめ受賞歴多数。
会場費 会員・学生1千円(一般2千円)
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  三島由紀夫研究会 http://mishima.xii.jp/contents/index.html
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(C)三島由紀夫研究会 2019  ◎転送自由
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創刊日:2006-01-12  
最終発行日:  
発行周期:半月刊  
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