文学

三島由紀夫の総合研究

創立35年の老舗「三島由紀夫研究会」の会報を兼ねた、あらゆる角度からの総合研究メルマガ

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三島由紀夫研究会メルマガ bookreview 松本徹『無限往来 師直の恋ほか』(鼎書房)

2019/03/27

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『三島由紀夫の総合研究』(三島由紀夫研究会 メルマガ会報)
  平成31年(2019)3月27日(水曜日)
         通巻第1323号   
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  書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW 
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 森鴎外は左遷された先で『唯識三十頌』の講義を受け『生田川』を書いた
  三島『暁の寺』を例外として唯識を描いた作品は近代日本文学にはない

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松本徹『無限往来 師直の恋ほか』(鼎書房)
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 西行の悲しくも美しい歌の境地、慈円の歴史主義的な心意気、悲哀のながれが日本の歴史であるとすれば、その事蹟を詳細に辿りゆく筆者の心根にはいかなる人生観が漂うのだろう?
 ともかく現代人である著者の松本氏の脳裏には、奈良朝から平安、あるいは戦国時代へかけての歴史上の人物が悲喜こもごも往来し、その主人公たちの夢幻に導かれ、あちらこちらを旅する。
 神話との遭遇が各地であり、冒頭は安倍晴朗の生誕地とそのゆかりに土地の紀行文である。京都の安倍神社はいまやパワースポットとなって、参詣というよりスマホ撮影の若い女性で賑わう。この光景を安倍晴朗が知れば、慨嘆するだろう。
 さて作者はある日、島根県宍道湖付近にいる。
 「視界が悪く、少し離れた山々がすっかり霞んでいる。(中略)翡伊川を渡る。別にとりたてて言ふべき特徴のない、あまり大きくもない川だが、国引きの神話の大本となった川である。須佐之男命が、箸の流れ下ってくるのをみて川上へと上って行き、八岐大蛇を退治したのも、出雲建が倭建命にだまし討ちされたのも、この川でのことであった。出雲神話の中心なのである。」
 しかし戦後教育はこれら神話を否定した。
 GHQの命令によって歴史教科書は墨で塗られ、黒色のなかに消された。
「敗戦になって、神話は非科学的な単なるお伽話、といふことになりました。それで須佐之命も大国主命も、歴史の世界から追放されてしまひました」とガイドに立った知人がしみじみと語る。
 例外は判官高貞、しかし南北朝も後醍醐も語られなくなり、「負ければ、物語を奪われる。歴史を奪われるのです。古い昔から繰り返されてきたことです」と慨嘆悲憤慷慨ぶりは悲壮な台詞になるのである。
 神話世界では異類との交接がよく物語られた。狐の花嫁、?の花嫁はまだやさしいが、大蛇や猛獣とも交接する。
 松本氏はこう書く。
 「この異類の女こそ、じつは、男の恋情をより純粋に燃え立たせるに違いあるまい。古事記や風土記にも見られるように、ずいぶん古い。豊玉姫はワニ、乙姫がカメであり、かぐや姫は月世界といふ異郷の女であった。そして、彼女たちは、いずれも、異類の、あるいは異類の女であることによって、一団と蠱惑的であった。古来から男には、自分と世界を異にした美しい性に、烈しくこころを搔きたてられるところがあるらしい」
そして「女はなほさら美しく、男はより情熱的に純粋になってゆく。だから、この世のものとは思われぬ女とは、単なる比喩ではなく、感情の上の真実」であるとされ、かくして夢幻の文学世界の深甚へ向かって、本書は突き進むのである。

もうひとつさりげなく本書に取り上げられている逸話が森鴎外は左遷された先で『唯識三十頌』の講義を受け『生田川』を書いた(明治四十三年)ことだった。以後、鴎外は歴史小説に進んでいく。
しかし鴎外の当該作品と三島由紀夫の『暁の寺』を例外として唯識を描いた作品は近代日本文学にはない。これまた哲学不在の文学という寂しい風景を物語る。

                     (評 宮崎正弘)

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■ 事務局より 今後の予定
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四月の「公開講座」は金子宗徳氏(里見日本文化学研究所所長)に国体論をテーマに講演して頂きます。まさに御代替わり、改元の直前という時期にかなった内容になるものと存じます。

日時 4月19日(金)18時半開演(18時開場)
会場 アルカディア市ヶ谷(JR・地下鉄「市ヶ谷」下車2分)
演題 「御代替わりに際して〜あらためて国体とは何か」
講師 金子宗徳氏(里見日本文化学研究所所長、月刊『国体文化』編集長、亜細亜大学非常勤講師)
会費 会員・学生1千円(一般2千円) 
<講師略歴 昭和50年生。名古屋市出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了退学。著作『安全保障のビッグバン』(共著・読売新聞社)『「大正」再考―希望と不安の時代』(共著・ミネルヴァ書房)『保守主義とは何か』(共著・ナカニシヤ出版)
          

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5月公開講座は元『正論』編集長の上島嘉郎氏です。

日時 5月28日(火)18時半開演(18時開場)
会場 アルカディア市ヶ谷(私学会館) JR・地下鉄「市ヶ谷」下車2分
演題 「三島由紀夫と西郷南洲」(仮題)
講師 上島嘉郎(かみじまよしろう)氏はジャーナリスト、元月刊「正論」編集長
(講師略歴)昭和33年生。長野県出身。愛媛県立松山南高校卒。フリーランスを経て産経新聞社に入社。月刊「正論」編集長を歴任。現在はフリージャーナリストとして活躍中。
著書として『韓国に言うべきことをキッチリ言おう!−いわれなき対日非難「サクサク反論ガイド」』(ワニプラス、共著に『大東亜戦争「失敗の本質」』(飛鳥新社)がある。
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六月の「公開講座」は渥美饒児氏(文蓺賞受賞作家)
 6月公開講座は下記の通り行いますのでお知らせします。浜松在住の作家・渥美饒児氏が小説家を志した20代より30年間にわたって蒐集した「三島由紀夫コレクション」を通じて、三島由紀夫への熱い思いを語って頂きます。
      記
日時 6月24日(月)18時半より(18時開場)
会場 アルカディア市ヶ谷(私学会館)
   JR/地下鉄「市ヶ谷」徒歩2分
演題 「私の三島由紀夫コレクション」
講師 渥美饒児氏(あつみ じょうじ、小説家)
   <講師プロフィール>昭和28年生、静岡県浜松市出身。日本大学文理学部卒。『ミッドナイト・ホモサピエンス』(河出書房新社)で昭和59年度文藝賞を受賞。『十七歳、悪の履歴書―女子高生コンクリート詰め殺人事件』(作品社)を原作とした映画「コンクリート」(中村拓監督)が平成16年に上映される。その他『孤蝶の夢―小説北村透谷』(作品社)、『原子の闇』、『沈黙のレシピエント』(何れも中央公論新社)、『潜在殺』(河出書房新社)など多数。浜松市在住。
 平成25年浜松文芸館で「三島由紀夫コレクション展」を主催した。


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 7月公開講座の日程とテーマが下記のように決りましたのでお知らせします。蓮田善明とともに「文芸文化」を創刊し、また三島由紀夫の才能を見出し三島由紀夫が世に出ることに尽力した清水文雄について論じて頂きます。
荒岩氏がこれまで当会で取り上げた蓮田善明、保田與重郎、伊東静雄、影山正治に続く浪曼派文学シリーズの第5弾になります。乞御期待。
    記
日時  7月26日(金)18時半より(18時開場)
会場  アルカディア市ヶ谷(私学会館)
演題 「清水文雄の国文学と教育」
講師  荒岩宏奨(あらいわ ひろまさ、展転社取締役編集長)
    講師略歴 昭和56年山口県生まれ。広島大学教育学部卒、プログラマー、雑誌編集者を経て現在展転社取締役編集長。著書『国風のみやびー国体の明徴と天業の恢弘』(展転社)。尚荒岩氏は来る4月より展転社代表取締役に就任予定です。
会場費  会員・学生千円(一般2千円)


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九月「公開講座」の講師が新国立劇場演出家の宮田慶子さんに決まりました。日程などは下記の通りです。
     記
日時  9月20日(金)18時半開演(18時開場)
場所  アルカディア市ヶ谷(私学会館)
    JR/地下鉄「市ヶ谷」徒歩2分
演題  「三島由紀夫演劇の世界」(仮題)
講師  宮田慶子氏(新国立劇場演出家・同演劇研修所長)
<講師略歴>昭和32年生まれ。東京都出身。学習院大学文学部中退後青年座(文芸部)に入団。その後新国立劇場演劇部門芸術監督を経て現在は同劇場演劇研修所長。三島由紀夫作品の「朱雀家の滅亡」など多くの作品の演出を手掛ける。第9回読売演劇大賞最優秀演出家賞をはじめ受賞歴多数。
会場費 会員・学生1千円(一般2千円)
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  三島由紀夫研究会 http://mishima.xii.jp/contents/index.html
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(C)三島由紀夫研究会 2019  ◎転送自由
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創刊日:2006-01-12  
最終発行日:  
発行周期:半月刊  
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