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三島由紀夫の総合研究

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三島由紀夫研究会メルマガ

2018/11/24

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『三島由紀夫の総合研究』(三島由紀夫研究会 メルマガ会報)
    平成30年(2018)11月24日(土曜日)弐
         通巻第1296号   
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劇評 「豊饒の海」。長田育恵脚本、マックス・ウェブスター(英)演出
紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA
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 あの長大な小説を、二時間半という時間の中で、どのように翻案するのか、多くの人がそのことに興味を持ったのではないだろうか。まずは演出家と脚本家の声を掲載する。

 僕は三島という神話を知らないでこの作品に取りかかった。そういう意味では、人間のドラマを描こうというところに最初から目的意識を持っている点で、みんなより三島の影に怯えないですむのは有利。人間ドラマを描くんだと。(マックス・ウェブスター)

 長田は、「最初、三島の本に手をつけること自体が恐ろしかった」と振り返る。三島の形容詞で飾られた優雅な文体や東西の古典にも通じる美の世界を「ちょっとでも壊したらファンを傷つけてしまうのでは」と考え、身動きがとれなくなっていた部分もある。
 今年5月、英国で行われた演出のマックス・ウェッブスターとの打ち合わせは、“三島の呪縛”を打ち破るために必要なものだった。それまで準備していたものを白紙に戻し、登場人物の心の動きを追うことに専念したことで、求められていることは「三島がどう、ではなくて、舞台としていかに魅力的であるか」だと改めて気付いたという。

読み返すうちに、「文章の美しさのモヤみたいなのが晴れて、すとんと地面に降り立てたような気持ちになり、台本ができあがった」と話す。(長田育恵)

  二人がこのように話している通り、この舞台劇は「豊饒の海」という作品の解釈(interpretation)を越えて、再創造(creating anew)を目指した冒険といって良いと思う。
 この芝居でなによりも特徴的なことは、四つの物語を一つの劇に再構成するにあたり、時間の思い切った倒置法を採用したことであろう。幕開きからいきなり、松枝邸の眺め(春の雪)から、安永透が働く灯台の内部(天人五衰)へと時空がジャンプする。この手法が終幕まで続き、果たして原作を読んでいない人に、舞台上における人物相互の関係性が理解できるのだろかと不安になる。さらに、各時代の本多繁邦が舞台上で一堂に会するという不思議な場面もある。演劇ならではの遊びだろう。

 登場人物の性格付けは、有り体に言ってほとんどが「軽い」。特に、内省的でつねに客観的な学生時代の本多繁邦が、ひょうきんで世渡りもそつなくこなすような設定であることには馴染めなかった。いやこれは、「豊饒の海」の劇化ではなくて、「豊饒の海」に題を取った別物であると頭では理解しているのだが。それは、各巻を通じて重要な役割を果たす女性の登場人物の描き方にも言えることだ。聡子には美しく気高い優雅は二の次とされ、ジン・ジャン(月光姫)はただ、官能のためにだけ生きる女性として描かれていたように感じた。そんな中で、久松慶子だけは、原作の雰囲気を良く出していたと思う。

 舞台美術はいたってシンプルで、装置らしい装置はほとんどない。場面場面によって、必要な最小限の道具が黒衣によって運ばれ仕舞われる。床には簀の子が置かれ、舞台の後方下手では、それが能の橋掛かりのように続いている。また、能舞台で松が描かれている鏡板(壁)にあたるところには、各シーンを象徴する装置や映像が映し出された。例えば、飯沼勲が自刃するシーン、原作では「正に刀を腹へ突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏に赫奕と昇った」とあるが、ここで鏡板に太陽が投影されるという演出である。

 ラストシーンは原作にほぼ忠実に、本多と聡子による対話が再現された。天人五衰のラストシーンはこうだ。

 『一面の芝の庭が、裏山を背景にして、烈しい夏の日にかがやいてゐる。「今日は朝から郭公が鳴いてをりました」 とまだ若い御附弟が言つた。(中略)   

 これと云つて奇功のない、閑雅な、明るくひらいた御庭である。数珠を繰るやうな蝉の声がここを領してゐる。そのほかには何一つ音とてなく、寂莫を極めてゐる。この庭には何もない。記憶もなければ何もないところへ、自分は来てしまつたと本多は思つた。  

 庭は夏の日ざかりの日を浴びてしんとしてゐる。・・・・・』

 終幕の劇場に響いていたのは、蝉の声ではなくて郭公だった。あの少しとぼけたような、呑気な鳴き声でこの芝居は幕を閉じる。
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     ♪ 明日、「憂国忌」
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明治百五十年にあたり、背景に明治の残映から始まる三島先生の傑作『春の雪』(『豊饒の海』第1巻)を中心としたシンポジウムなどを執り行います。実施要綱は下記の通りです。
            記
 日時   十一月二十五日(日曜) 午後二時(午後一時開場)
 場所   星陵会館大ホール(千代田区永田町2−16)
 資料代  お一人 二千円 

<プログラム>                      (敬称略、順不同) 
                     総合司会     菅谷誠一郎
午後二時   開会の挨拶        三島研究会代表幹事  玉川博己
      『春の雪』名場面の朗読              村松えり
      『天人五衰』最後の場面朗読            村松英子
午後二時半 シンポジウム  「『春の雪』をめぐって」
                    小川榮太?、富岡幸一郎、松本徹 
                  司会  上島嘉郎(『正論』前編集長)
      追悼挨拶「憲法改正の時が来た」   中西哲(参議院議員) 
午後四時十五分    閉会の辞。 全員で「海ゆかば」斉唱    
       (なおプログラムは予告無く変更になることがあります。ご了承下さい)
 <憂国忌代表発起人> 入江隆則、桶谷秀昭、竹本忠雄、富岡幸一郎、中村彰彦
西尾幹二、細江英公、松本徹、村松英子
(実行委員会責任者      宮?正弘)
(三島由紀夫研究会代表幹事  玉川博己)
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  三島由紀夫研究会 http://mishima.xii.jp/contents/index.html
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創刊日:2006-01-12  
最終発行日:  
発行周期:半月刊  
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