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三島由紀夫の総合研究

創立35年の老舗「三島由紀夫研究会」の会報を兼ねた、あらゆる角度からの総合研究メルマガ

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三島由紀夫研究会メルマガ

2018/01/31

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『三島由紀夫の総合研究』(三島由紀夫研究会 メルマガ会報)
    平成30年(2018)1月31日(水曜日)
       通巻第1230号   
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エッセイ
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西部さんから「天皇陛下のために死す」という三島由紀夫的言辞は聞かれなかった
自死用のための武器調達は不法とはいえ「合徳」であるとも説いていた
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あちこちのメディアに各氏の西部遭氏への追悼の辞が聞かれた。
それぞれが哀切の籠もった評価で、参考になったけれども、以下二点の指摘をした人がいなかったので敢えて触れる。

第一に西部さんからは「天皇陛下のために死す」という三島由紀夫的な言辞は一切聞かれなかったことである。
ところが、酒場でカラオケが盛り上がると、「桜井の別れ」を唱った。
この話をすると「桜井の別れって、どんな歌ですか?」とよく質問を受けた。楠木正成・正行親子が、湊川の決戦を前にわかれる名場面で、昔は小学校唱歌、誰もが歌った。

ちなみに歌詞は、
「青葉しげれる桜井の 里のわたりの夕まぐれ
木の下かげに駒とめて 世の行末をつくづくと
しのぶ鎧の袖の上に 散るは涙かはた露か」

「正成涙をうち払い わが子正行よび寄せて
父は兵庫におもむかん かなたの浦にて討死せん
汝はここまで来つれども とくとく帰れふるさとへ」

以下十五番まであるが、西部さんは五番目あたりまで暗記していた。
息子の正行も四条畷の闘いで死んだ。親子して尊皇だった。西部さんの著作を貫く基調は「攘夷」である。しかし維新の志士たちのような尊皇攘夷ではなく、三島の「英霊の声」を評価した形跡はない。

▼短銃の入手を三回試みていた

第二が不法な武器調達は合徳だという弁である。
遺書とも言える『保守の真髄』(講談社現代新書)の中で、しきりに自裁の手段としてピストルの入手に三回失敗したと明記してある。
もう一度、当該ページを紐解いた。

「なお人生で三度目の述者(西部)の短銃入手作戦が、前二回と同じく入手先主の突如の死によって頓挫するというほとんどありえぬ類の不運の見舞われたことについてここで詳しく話すわけにはいかない。ついでに申し添えておくと、この述者は、道徳と法律が食い違うことの多い現代では合法にも不法にもそれぞれ合徳と不徳のものがあって、自死用の不法な武器調達はおおむね合徳に当たると考え、そして自分は合徳で生きようと構えてきたのである」(260p)

 何気なく読み飛ばしそうだが、さて、これをわざわざ文字を持って明記したということは、(なにしろ西部さんは「言葉は思想だ」と言っていたのだ)何かのメッセージではないかと考えた。
 そうか、ひょっとすれば野村秋介氏のように、朝日新聞本社へ乗り込んで社長と面会し、その場でピストル自殺とかの政治演出を伴った最後を企図していたかも知れないと思った。でなければ、なぜピストルのことなどを意図的に挿入しているのか、分からないではないか。

 さて西部氏が最も好んで引用も多かったホセ・オルテガ・イ・ガセットはキルケゴールの影響を激甚に受けた。キルケゴール(1813−1855)はデンマークにあって教会の形骸化を批判したが、その基本にはヘーゲル批判があった。

キルケゴールはデンマーク語では「教会の庭」もしくは「墓地」を意味するそうだが、実存主義の魁と言われる所以は概念的抽象的な人間ではなく、具体的で個別的な人間の存在を思考の対象としたからであろう。代表作『死に至る病』は、人間は死ぬけれども、その絶望を神の救済の求める教会の考え方から逸脱した論理を立て、ヘーゲルの弁証法的な思考を批判した。
主体性は真理である、が同時に主体性は非真理である、と矛盾した論理を建てたように見えるが、人生の否定、矛盾を具体的に受け止め、個別的な主体性をもって思考せよ、というのである。このあたりに西部遭氏は大衆批判の原点があると踏んだ(『思想の英雄たち』、ハルキ文庫)。

死に至らない病が希望であるとすれば、絶望は自己の喪失であり神との関係の喪失であるとする。東洋の哲学はいずれ人間は死ぬのであり、極楽往生をとげることが人生の至福であると教えるのが日本的仏教であるから、キルケゴールの対処法は「絶望を逃れるにはキリスト教への信仰」をあげ、神の前に自己を捨てるのが本物の自己に至ることだとしているから似ていないこともない。


▼オルテガは「ロシア革命は人間的な生の開始とは真逆だ」と言った

スペインの思想界にミゲル・デ・ウナムール(1864−1936)と並び立つオルテガは大衆を識別し、ものを考えない人を批判した。
 ホセ・オルテガ・イ・ガセット(1883−1955)は前世紀半ばまで存命したスペインの哲学者で、日本でも著作集がでるほど人気がある。彼はマドリッド生まれ、ドイツへ留学し最初はカント哲学から入った。

オルテガが際立って自由主義を鼓吹したのはソビエトのボルシェビキ革命を『野蛮状態への後退」であり、「原始主義」だと非難した本質を突いた言辞によるだろう。
 オルテガは『ロシア革命は人間的な生の開始とは真逆」であり、これを礼賛する無知な大衆とは「欲求のみを抱き、権利だけを主張し、義務のことを考えない」、したがって「自らに義務を課す高貴さを欠如させた人間」であるとし、その中には科学者などのエリートも加えた。自由とは、科学的心理ではない。自由とは運命の真理だとオルテガは説いた。
 この箇所も西部思想に強い影響がある。

西部氏はスマホの効用など、コンピュータシステムの到来を産業の効率でしかなく、人間の英知に役立ちはしないと否定的だった。
 西部氏は、こう言っている。

「テクノロジー(技術)をいう一方向にのみ特化していくのは文明の病理以外の何ものでもない。嘗てシュペングラーは、文明の秋期から冬季にかけて?『新興宗教への異様な関心と新技術への異常な興味が高まる』と指摘した。今、世界のとくに先進各国にみられるのは、新技術が新宗教となって人々の精神世界を占拠している」(中略)「スマホという名の小さな薄い箱に精神を吸い取られてらちもないゲーム事に明け暮れする男女の群れを眺めていれば、文明は紊乱の段階を過ぎて没落に到っているのではないか」(西部前掲書。20p)
                  文 宮崎正弘
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西部邁先生追悼講演会を下記の要領で開催します。 
1月21日に逝去された西部邁先生(評論家、元東大教授、憂国忌発起人。享年78)を偲び、下記の通り追悼講演会を開催します。
              記
とき 3月8日(木)午後6時半開会(午後6時開場)
ところ アルカディア市ヶ谷(私学会館)
追悼講演講師 富岡幸一郎先生(関東学院大学教授、鎌倉文学館館長、憂国忌発起人) 

演題 「追悼 西部邁先生」
プログラム 追悼スライド、遺影に献花を予定しております
会費 一般2千円、会員・学生1千円
主催及び連絡先 三島由紀夫研究会
            TEL 090-1611-9839
            FAX 03-5419-7670
            Eメール  yukokuki@mishima.xii.jp
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 ◎ 事務局よりお知らせ
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二月の三島研「公開講座」のゲストは西村繁樹退役一等陸佐です。要領は以下の通りです。
氏は防大を出て青年自衛官に任官した当時、三島由紀夫先生と出逢い、その自決の直前まで短くも濃密な交流を持った経験、秘話を語って頂きます。

とき   2月28日(水)18時半より(18時開場)
ところ  市ヶ谷「アルカディア市ヶ谷」
講師:  西村繁樹(軍事評論家、元防大教授、退役一等陸佐)
演題:  「三島由紀夫と最後に会った自衛官(おとこ)」
<講師略歴>昭和22年生、大阪府出身。44年防大卒(13期)、陸自入隊(職種は野戦特科=砲兵)。特科連隊、陸幕防衛部防衛課勤務、陸自幹部学校戦略教官等を経て防大教授を歴任。平成24年定年退官。現在偕行社参与。
 我が国における軍事戦略論の権威として多くの著作や論文を発表。主な著書:「SDI戦略防衛構想―『スターウォーズ』とは何か」(教育新書)。「防衛戦略とは何か」(PHP新書)その他がある。
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  三島由紀夫研究会 http://mishima.xii.jp/contents/index.html
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(C)三島由紀夫研究会 2018  ◎転送自由
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創刊日:2006-01-12  
最終発行日:  
発行周期:半月刊  
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