文学

三島由紀夫の総合研究

創立35年の老舗「三島由紀夫研究会」の会報を兼ねた、あらゆる角度からの総合研究メルマガ

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三島由紀夫研究会メルマガ(書評。三輪太郎「憂国者たち」)

2015/12/28

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『三島由紀夫の総合研究』(三島由紀夫研究会 メルマガ会報)
    平成27年(2015)12月28日(月曜日)
          通巻第938号  
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 本年最後のメルマガ。書評特集です。
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◆書評 ◎しょひょう ▼BOOKREVIEW □書評●
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 あのセルビアの指導者カラジッチは三島の愛読者だった
  ボードレールの謎の誌を日本の研究者へのメッセージと託した

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三輪太郎『憂国者たち』(講談社)
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 これは小説なのか、哲学的文学論なのか。
 セルビアの政治指導者だったカラジッチは、じつは三島由紀夫の愛読者だった。かれは「独裁」と言われたミロセビッチに対抗し、セルビア共和国を指導したが、不幸にも、西側から「ヒトラー」とレッテルを貼られ、失脚を余儀なくされ、十年近い逃亡の果て、逮捕されて、ハーグの国際裁判所に引き出された。
 この間、東方正教会のセルビアはムスリムやカソリック勢力に押し込められ、モンテネグロやコソボまでも奪われてしまった。背後には欧米の支援があり、ついに旧ユーゴスラビアは七つの分裂国家群となった。
 たしかにセルビア武装組織はボスニアで、あるいはクロアチアの武装組織と衝突し、まがまがしい殺戮を展開したが、このおぞましさも、冷静に考えると「お互い様」であり、一方が悪く、他方が善人ということにはならない。
 だが、ミロセビッチもカラジッチも、独裁者、殺戮者として一方的に裁かれ、民族浄化を指導した悪者とされてしまった。民族浄化(エスニック・クレンジング)という恐ろしい標語を「発明」し、西側メディアを洗脳するように植え付けたのは米国の「戦争広告代理店」だった。
 あたかも大東亜戦争が日本に一方的責任があるとして、戦勝国から裁かれた東京裁判と似ている。

 この小説は上記が前提である。
 卒論を控える男女学生ふたりと指導教官が主役となって、男子学生は「三島が嫌いだった」という設定である。父親は共産主義運動に没頭していた。
元恋人だった女子学生のほうはカラジッチが三島の愛読者だったという情報を手がかりに単身セルビアへ飛んだ。
カラジッチは「元精神科医でアメリカに留学した経験もあり、詩や童話を書く作家でもあった」(中略)「狂信的な民族主義者ではない」。
 しかもカラジッチはモンテネグロ人であり、チトーのような融合国家を目指した。
 その「小国の元大統領である彼が、なぜアジアのヘリにある島国の一作家を愛読したのか、その日と東のへだたりと繫がりを知りたい」と女子学生は思う。
真実をしらべるべくカラジッチの弟、主任弁護士、かれの友人等にインタビューを繰り返し、なんとかその謎に迫ろうとする。

 他方、男子学生はある日、「就活」ででかけた大久保で、ヘイトスピーチをする集団、それに反対する集団のデモにぶつかる。
なぜ彼らは憎しみあうのか、つまりこれぞセルビアvs反セルビア勢力との確執、激突に酷似するわけだが、二回目のデモを見に行ったときにデモ隊の見物の列にいた初老の男性から不思議な冊子をわたされるのだ。
「歴史書を愛読し、魔法で歴史を解くという彼は、「歴史書とはシカンの魔法」だという。シカンとは史観である。
 純粋な右翼道をもとめる初老の紳士は高田馬場の小さな雑居ビルに清楚に暮らしながらも日本のあるべき姿を追い求め、日夜、和歌を詠んでいる。自炊生活で本棚には三島の最後のテープ(市ヶ谷台での最後の檄文絶叫)も納められていた。
 男子学生は彼のもとに通ううちに、その静謐な日本主義と和歌を極めようとする態度に惹かれる。
 作者は特定のモデルはおらず、複数の右翼団体を錯綜させて造型したというが、大東塾の雰囲気が濃厚に漂うかと思えば、明治初期の神風連的イメージを付帯し、それでいて高田の馬場の雑居ビルで自炊し、仙人のような存在となれば、元「重遠社」代表で三島研究会事務局長だった三浦重周風でもある。

 さてベオグラードのバスの中で逮捕されたカラジッチだったが、彼の弟と会った女子学生は弟から、「カラジッチは騎士道を追い求めた」と聞く。
 「兄は内戦には一貫して反対だった。敵に対しては騎士道をもって接した」
 騎士道? ならば彼は西欧でも死滅した騎士道を現代のもとめたドンキホーテ、いやドンキホーテでもサンチョパンサでもなく、「かれらを自在に操ったセルバンテスである、とわたしは思いたい」と女子学生は言う。
 ならば三島のおいもとめた武士道との繫がりが、このあたりにあるのだろうか。

 謎が解けないままに帰国した女史学生とすっかり純粋な日本主義を追求する道を歩み就活もあきらめた男子学生とは、卒論の発表会で激突するのがこの作品の大団円だ。
おりしもカラジッチの弟から手紙がきた。拘置所へ面会に行ったかれはカラジッチに対して、日本から女子学生が、その卒論のテーマに、真実を求めてやってきたことを話すと、ちょっと待てと言ってボードレース詩集から一ページを破いて、弟に渡す。
 その詩は、こうである。

 奇妙な運命よ、その目的のうつろうこと めまぐるしく
  目的など どこにもありはしない
   人は希望を絶やすことなく、かすかな安息を見いださんとして、
    いつも駆けづりまわる 狂人さながら

 全体としてこの小説にはストーリーテラーの醍醐味はなく、また硬筆であり、カタクルシイ文学論的な書き方は、通俗的な小説をよむ読者にはなじまないだろう。
 しかし日本がかかえる危機をカラジッチと三島の目を通してえぐりだすという小説を越える時局の解析では優れた情勢分析にあり、三島論の小説版として読むと、なるほど巧妙に随所に仕掛けられた今日的テーマが籠められていて、哲学小説として抜群のできではないかと思った。
 つまり三島研究者にとっては、必読の書である。

(蛇足ながら、作者の三輪太郎氏は早大卒、元三島研究会会員。文芸春秋時代に編集の傍らに書いた「『豊饒の海』或いは折り返し点」で群像新人文学賞、『ポルポトの掌』で第一回日経小説大賞佳作。寡作な作家である。
     (評 宮崎正弘)

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三島由紀夫研究会創立45周年記念公開講座のお知らせ
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2月26日、佐藤守元空将が講演します

 来年最初の三島由紀夫研究会公開講座は、研究会創立45周年を記念して下記の通り開催しますのでご参加ください。尚当日は奇しくも2.26事件から満80周年に当ります。
    記
1)日時  平成28年2月26日(金)18時半(18時開会)
2)会場  アルカディア市ヶ谷
     (JR/地下鉄市ヶ谷駅徒歩2分)
3)講師  佐藤守閣下(元空将、軍事評論家)
4)演題 「自衛隊が守るべきもの」
5)講師略歴: 昭和14年樺太生まれ。防大7期。空自の戦闘機パイロットを経て南西航空混成団司令などを歴任。空将。軍事評論家として活躍、多くの著書があり。最近著は『安保法制と自衛隊』(青林堂)。
6)会費  一般2千円、会員・学生1千円
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  三島由紀夫研究会   yukokuki@mishima.xii.jp
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創刊日:2006-01-12  
最終発行日:  
発行周期:半月刊  
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