英国在住の筆者により、欧州、中でも英国の登山について紹介します。世界の中で最も「初心を大切にする」登山が盛んな英国流登山(含クライミング)に惚れ込んだ筆者自身による実践に基づく登山記録が中心になります。
▲欧州的登山生活(第105号): (番外)大雪山縦走の記
発行日:7/31
まさです。
随分と発行間隔があいてしまいました! 元気で生きていますし、登っ
ています。しかし、突如閉鎖されてしまったウェブサイトに代わる新
ウェブサイトがまだ構築できていません。それもあって、こちらの方
がすっかり滞ってしまいました。
その間、僕も入っている地元の山岳会には、何本か寄稿しました。
http://www.bowlineclimbingclub.co.uk/index.php/new-articles/trip-reports/
写真付きの記事です。英語になってしまいますが。
今回は、2009年7月に一時帰国した時の大雪山縦走の登山記録を主題
とします(個人的には北海道初上陸でした!)。その 10日後に当地で起
こった大遭難事故についてもコメントしています。お楽しみ下さい。
▲目次
△登山記録編 〜〜 大雪山縦走の記 〜〜
△議論提起編 〜〜 トムラウシ山2009年遭難事故 〜〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▲登山記録編 〜〜 大雪山縦走の記 〜〜
大雪山に登山に来る。言わずと知れた北海道の雄。旭岳山上駅からト
ムラウシまで天幕を担いで 2泊で縦走する山行。二日目が、裏旭野営
地からトムラウシ南沼まで一気に歩き抜ける、今回の山行のハイライ
ト。コースタイムで 12時間を超えるコース。途中に避難小屋はある
ものの、寄り道になることもあって、避けたい。それよりなにより、
南沼の天場で別コースから登ってくる友人 O田夫妻と合流予定なので、
可能ならば一気に行きたい、というもの。 4時起床で 5時発の早出。
間宮岳、松田岳、北海岳を過ぎて白雲岳避難小屋到着。10分の休憩を
入れても 2時間半。コースタイムは 3時間だから快調と言っていい。
この調子なら大丈夫そう、と確認できて嬉しい。行き会う人に今日は
どちらまで、と訊かれては、「トムラウシまで」「えっ……」と絶句
されること一度ならず。でもこのペースならきっと大丈夫。
こまくさやウルップ草といった高山植物を横に見ながらの、比較的平
坦な気持ちいい登山道を歩く。トムラウシ前の最後の避難小屋(忠別
岳)への分岐でコースタイムより 1時間早かったので、予定通り決行。
そして、余裕で日のあるうちに南沼に到着! 南沼まで直接登ってきた
友人夫妻と合流。彼らが材料歩荷してくれた、シーフードたらこパス
タ(とアルコール(!))に舌鼓を打ったのだった。素晴らしきかな。
△同山行中、悪くない写真が撮れました。以下でどうぞ。
http://www.flickr.com/photos/alpiniste/sets/72157622758574789/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▲議論提起編 〜〜 トムラウシ山2009年遭難事故 〜〜
この山行のわずか 10日ほど後に、大雪山系にて日本の夏山としては
最大級の遭難事故が起きました。なかでも、トムラウシ山での死者は
9名(大雪山系全体で10名)を数え、そのうち 8名は、アミューズトラ
ベル社による企画登山ツアーの参加者(およびガイド)でした。ア社の
コースは、我々の山行のコースと酷似していました。それだけに、遭
難事故は、リアルな実感をもって感じられました。
事故の原因と(グループ他が)取り得た対策については、各所で多くの
人が議論を尽くしています。なかでも、準公式のものとしては、社団
法人日本山岳ガイド協会が組織したトムラウシ山遭難事故調査特別委
員会による、90ページを超える「トムラウシ山遭難事故調査報告書」
があります。
http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf
上の報告書を読んでいくつか気になったこと、特に欧州の登山文化と
比較して、おりょ、と感じたことがありました。二、三、述べます。
今回の遭難の被害が拡大した最大の原因は、救助要請が遅れたことに
ある、と理解しています。(ガイドが)無線を持参していなかったとい
う批判はさておき、これは欧州よりも日本にありがちな姿勢という印
象を受けます。以前、スコットランドの冬山山行用に救急用具セット
をザックに詰めていたところ、同行の友人は、「そんなの不要だろう。
万一の時は、救助隊の仕事では?」とコメントしたものでした。
どうしても必要になった時は救助隊を呼ぶことを躊躇しない、という
感覚が欧州にはある気がします。日本の場合、救助隊を呼ぶと、よく
て後ろめたく、時には周りや社会からバッシングされることを覚悟す
る必要がありましょう。しかし、欧州の場合、(単に疲れた、とかの
論外なケースは別にして)必要な時に救助隊を呼んだとして、それが
後から周囲から非難されることは日本よりずっと考えにくいものです。
他者に対する寛容の文化的背景があるからでしょう。両文化のよし
あしは別にして、トムラウシ遭難事故の場合、その社会的文化が悪い
結果を生む素地になった可能性は大いにある、と思いました。
次に、「ツアー登山に予備日はない、というのが旅行業界の常識」だ
そうです。これは驚きました。山はお天道さん次第なのは言うまでも
ないことなので、予備日がないと、端的には、天候次第で、最初から
諦めるか決行するか、の二択しかないことになります。業者としては、
最初から諦めるのは、経済的にも損失ですし、 (それくらい大丈夫
だろうと感じる)客から不平が出ることも大いにありそうです。つま
り、悪天でも決行しかねない動機があることになります。はなから諦
めるリスクを承知で予備日を設けないのは一つの選択肢であることは
認めるものの、あまりよい傾向ではないと感じたものでした。
欧州アルプスのガイド登山の場合、ある程度の予備日をおくのは普通
という印象を持っています。英国の冬山でもそれは珍しくありません。
予備日を含めた全日程について、ガイドを雇うわけです。もし天候
に恵まれて予備日が余ったら、その予備日には、別の山にガイド登山
するとか、気軽にアクセスできる岩登りに行くとか(最悪、屋内人口
壁に行く場合も)するので、無駄になるわけではありません。
もう一点、ア社のツアーの犠牲者の直接の死因は低体温症だというこ
とです。低体温症を避ける基本は、疲労しない、濡れない、風に打た
れない、服を着込む、十分に飲み食いする、だと理解しています。こ
れは冬山をやる人にとってはほぼ常識です -- 冬山では、体を
できるだけ温かく保つために常に格闘することになりますから。この
中で、山に行く以上、最初の三つは(条件次第では)ある程度は不可避
ながら、後の二つはコントロール可能です。
ガイドの一人は、ツアーを率いて山に行くたびに体重が、2、3kg減る、
と証言していました。これは最初から低体温症予備軍のようなもの、
と言えそうです。ダイエットのために個人で山歩きするならばとも
かく、責任あるプロとして客を率いるならば、山行中には体重を保つ
程度には食べておかないと、よくて活力が出ない、というものです。
一方、登山客には、ダウンを着込むべきだった(着てよかった)、と術
懐する人がいました。装備として、それは甘い、と思います。ダウン
は、濡れると、保温能力が極端に低下します。だから、ダウンが威力
を発揮するのは、雨がない場合、端的には山行中に気温が氷点下を上
回ることがないと予想される冬期や高山になります。濡れる可能性が
ある夏山装備として、ダウンは最適とは言えません。
ツアー登山ですから、装備はツアー会社が事前にチェックするのが理
想でしょうが……、ツアー会社やガイドにそれだけの力量を期待する
のは容易ではないかも知れません。
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▲次回予告
次回は…「キリマンジャロとケニア山」
See you later!
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