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アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活

湾岸アラブ世界に住んで24年。UAE男性と結婚した筆者が、5人の子育て、地域活動、文化センター設立などを通して経験したアラブ・イスラーム社会を、深く鋭く観察し、エッセイで紹介します。

メルマガ情報

創刊日:2005-05-04  
最終発行日:2018-10-17  
発行周期:月刊  
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アラブからこんにちは〜Vol.425 アラブの嫁取り物語(7)

2018/10/17

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Vol.425 アラブの嫁取り物語(7)

すでに入籍している花婿と長女は、今でも別々の家に住み、
自由に会うわけでありません。
最初のメルマガ(1)で述べた通り、アルスが終わるまでは
二人は実質的な夫婦とは認められていないからです。
花婿が時折我が家に来ても、私たち夫婦か息子がもてなして、
娘がドアから迎え入れることはありません。
「21世紀における不思議だね」と私は笑っていますが、
夫は「お茶を出すときに顔を見せて、すぐに下がりなさい」
とビックリするようなことを言います。
自由主義者だと思っていた夫は、そのイメージを覆して、
娘には伝統的なルールを強いています。

娘は花婿が来るたびにイード祭のときのように着飾って化粧をし、
お茶のトレイをもって静かに部屋に入ってきます。
花婿は緊張して娘からカップを受け取り、
二人が隣同士で座ったり会話をすることはありません。
私からみたらママゴトみたいな感じです。
こうした期間は11月の結婚式まで続き、
式後は同じ家に暮らし夫婦としての生活に入ります。

会わない一方で、ふたりは電話で自由に話しています。
夫の合意を得て、私が二人に許可したからです。
結婚式まで相談すべきことは山のようあります。
式には莫大な費用がかかり、片方が自分勝手に進めてしまえば
将来二人の間に溝ができかねません。
実際ミルチェのあと、式の進め方が合意できずに離婚してしまう
新婚夫婦(ミルチェで書類上は入籍しているから離婚となる)は
たくさんいます。
費用は花婿が払うにしても、式の規模や装飾は
二人で相談する方が賢明です。
また新婚旅行、新居の場所や内装についても話し合わなければ
なりません。
「もう社会人なんだから、自分たちで決めてね」
と私は言いました。

二人は毎日のように電話で話すけれど、実際に会うのは希です。
ウエディングプランナーに相談に行くときは、
現地で落ち合って現地で別れます。
食事をすることもお茶を飲むこともしません。

あるとき業を煮やした私が、なにゆえそれほど
伝統的なやり方を踏襲するのかと夫に訊いたら、
「娘を大事にしてもらいたいからね」とだけ答えました。
花婿は外国暮らしをした人ではないし、山奥の田舎の出身で、
あまり突飛なことを言うとやり方を見失うからと。
いま花婿は丁寧に慎重に結婚への道をたどっているので、
それを自由主義という(私の)幻想のもとに
崩すことはないのだ、というわけです。
前述したマリアムも同じことを言います。
「娘は結婚式までは花婿にほんのちらりと見せるだけでいいの。
 すると後々まで大事にしてくれるからね」と。
そんな謎かけのような言葉から解答を探ろうとするのですが、
私にはどうもよくわからない。
そして私が最後までわからないことを見越して、
夫もマリアムも深く説明をしません。
今は時代が違い、UAEでいくら田舎といっても
教育もインターネットも行き届き、
ビザなしでさまざまな外国へ旅行でき、
世界の現代の常識に啓蒙されているはずなのだけれど――。
しかし、私がフェミニストのように追求する必要はないでしょう。
たどりつくべきゴールが「娘の幸福」であるならば、
主義・思想・趣向・傾倒なんて脇に放っておいて
いいものなのですから。

それにしても、このたびは当事者として
湾岸アラブ社会の結婚の壮大さ、大変さを身を以て経験しました。
次々に展開する視覚的なボリュームに度肝を抜かれ、
まるで映画のセットの中にいるようでした。
砂漠の1キロ先からも見える電燈に飾られた家、
公道を塞ぐ体育館ほどのテント、
300名という招待客の数、
山羊の丸焼きが盛られた巨大な皿の列、
トラックで次々に運ばれる贈呈品、
部屋を埋め尽くす薔薇の花々。
加えて、見知らぬ客も含めた80人のアラブ人を
私・次女・姪の3人でもてなすという、肉体的にも心理的にも
頂点を極めた忙しさで頭が空になったようでした。

無事に終わった後も、これでもかと襲い掛かる事後処理に、
心身を費やしました。
どんな事後処理かといえば、
花婿からの贈呈品を親戚・近所中に分けて配ること、
何百本の薔薇の世話(室内に置くだけでは1日でダメになる)、
テントを解体した後に残された巨大なゴミの処理、
家の2階にめちゃくちゃに積み上げられた荷物の整理などです。
それらは時間をかけてやればいいけれど、
急がねばならない仕事もありました。

娘は結婚準備金をもとに、何十着ものドレス
(結婚後すぐに親戚回りをするために必要)を用意すること。
ウェディングドレスやベールや髪飾りを買うこと。
貴金属屋の店先を覗いてもついぞ自分が買うとは思わなかった
重たい金の装飾具を買うこと、などなど。
驚くほどの大金が動く、こうした物理的な買物と、
時間的な切迫感が、夏以来ずっと私たちの脳裏を
支配しているのでした。

そうした間にも私が一番興味を注がれたのは、
アラブ民族の慎重さでした。
娘に求婚する前に花婿が調べ上げた膨大な調査結果は、
家族系列から身上調査、夫の職場関係、
私の文化センターや著作活動も含め、
娘の学生時の健康診断に至るまで、
こちらが補足する必要もないほど多岐に渡っていました。
部族が総力を挙げて調査すればここまでわかるものなのかと
驚きました。
初めて顔合わせをしたとき、私が娘を紹介しようとすると、
「花嫁のことは何でも知っていますよ」と遮られて、
私は何一つ言う必要がありませんでした。

求婚から結婚に至るまでの段取りの多さや面倒臭さは、
実は、相手を見極める試練の場であることもわかりました。
花婿の母親が娘を見に来たときも、
双方、どんな目的で来たか知りながら、
結婚の話はおくびにも出しませんでした。
相手は、応接間に入る刹那に家全体や生活ぶりを観察し、
何気ない会話や動作で私たちの人間性を見抜こうとします。
私たちだって、娘の姑や小姑になるかもしれない相手を探り、
挙動を観察し、信頼に値する人間かどうか
見極めようとしました。
人間的な勘だけを頼りに洞察するその姿勢は、
見事なものと言えます。

その後、結婚話が進んでいく間にも、
私たち家族は誰にも言わず、娘は親友にさえ言わず、
慎重に相手の出方を待っていました。
フトバ(正式な口約束)の前に勇み足で話をもらしたら、
流れた時に面倒なことになるからです
(家族・本人の不名誉となってしまう)。
フトバの後でも、ミルチェが終わるまでは、
アラブの「妬みの目」を怖れて、決して公にはしません。
(他の求婚者に断る理由を説明するときのみ言う)。
話を漏れ聞いた誰かに邪悪の目をかけられないように、
家族中で用心するからです。
ミルチェが終われば入籍済みですから世間に知られても
いいものの、やはり式を終えるまでは
大切な預かり物をしているように、我が家は慎重に、控えめに、
丹念に日々を送らなければなりません。
これが遊牧民の家族を守る生き方なのかと、
私は驚かされました。

世間では金満主義ばかりが誇張され、あたかも大金持ちが
呑気に気楽に豪奢な生活だけをしているように
吹聴されるUAEですが、このように部族主義が色濃く残り、
家族の存続をかけて慎重に、用心深く、手堅く
嫁取りをするものなのだとよくわかりました。
個人の愛情や眼力だけに頼らず、家族・部族全体で
くまなく調査し、吟味し、協力していく様子も、
非常に興味深いものでした。

また、自由主義で旧弊や伝統にとらわれない人間だと
自負していた自分や夫が、伝統に沿って
慎重に娘を嫁に出す方向へ流れて行ったのも、
我ながら不思議な発見となったのでした。


アラブの嫁取り物語(了)

ハムダなおこ

最新のコメント

  • とおりすがり2012-07-29 19:03:46

    蛇口の色について調べていて、ここにたどりつきました。



    エジプトに年末年始に旅行したときの経験から、赤=水、

    だと思っていましたが、タンクの設備による生活の知恵

    があると知り、感銘を受けました。勉強になりました。



    暑い時期が長そうなので、赤=水、である時期が長そうですね。

  • にこにこ2008-01-22 02:18:36

    今でこそ国際結婚をしている現地の方にお会いすることはありますが、17年前の日本から来たお嫁さん…きっと大・スクープだったのでしょう。アラブ文化をこのような形で伝えてくれるハムダなおこさんに感謝です!

  • きみこ2007-09-27 02:43:55

    こんにちは、はじめまして。毎回中東の様子を拝見しまして、驚きとともにとても楽しんでおります。次は何をおしえてもらえるのだろうか、と期待しております。がんばってください。

  • dubai14282007-04-23 23:40:02

    U.A.E.在住1年、現地女性の知り合いがようやく増えてきました。アラブの習慣+イスラムの習慣に、各家族の価値観、流行などもあり、当地女性の服装を理解するのは難しいですね。

  • 名無しさん2007-04-08 12:39:00

    何十年振りかで現地に戻って、現地に嫁いだ方々の子女教育に関するやりきれないような問題を聞かされているような気分になりました。出来ればバックナンバーや読者コメントを閲覧致し度存じます。