海外

アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活

湾岸アラブ世界に住んで24年。UAE男性と結婚した筆者が、5人の子育て、地域活動、文化センター設立などを通して経験したアラブ・イスラーム社会を、深く鋭く観察し、エッセイで紹介します。

メルマガ情報

創刊日:2005-05-04  
最終発行日:2018-11-20  
発行周期:月刊  
Score!: 非表示   

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

このメルマガは最新記事のみ公開されています。

アラブからこんにちは〜Vol.430 ぎこちない友情(5)

2018/11/20

Vol.430 ぎこちない友情(5)

その後、私の元にはいろいろな人から、
ブックフェアに関係したインスタグラムやフェイスブックの
写真が送られてきました。
写真で見る限り、パネル討論ではパネリストも聴衆も
いい雰囲気のなかで真剣に話す姿が収まっていました。
シャルジャ出版庁の運営する公式サイトを見ると、
名誉ゲストとなった日本パビリオンには客が群れ、
たくさんの催しが行われ、講演会も盛況だった様子が伺えます。
日本から芸人(秀でた芸を持つ人々)がきて、
文化芸能を紹介する様子も載っていました。
日本料理をつくったり、サイエンス系の催しをしたり、
子どもに絵本を読み聞かせたり、講演したり。
地元UAEに住む日本人も、盆踊りを踊ったり、
組み紐を教えたり、ビデオにコメディアンとして出演したり、
通訳したり、、、。
多くの人が「日本のため」という共通の理念で、
精一杯努力している姿を見ることができました。
シャルジャ出版庁だって、催しをすべて滞りなく終えた招待客や、
パビリオンをきちんと出した日本側に、
いまさら文句はないでしょう。
煮え切らない思いを抱いて自国に戻ったアラブ出版社たちだけが、
本来の目的を忘れなかったというべきでしょうか。

こんな肩透かしをくらって自国に戻っても、
彼らはそれなりに諸外国の作品を多数見て知り、
将来の出版材料としたはずです。
日本文学作品が世界に紹介されなくたって、
アラブ出版界は続いていきます。
来年は違う国家が名誉ゲストとなり、ブックフェアは
これからも続くでしょう。
それを言うなら、誰も困らなかったし損をしたわけでもない。
名誉パビリオンにその国の文芸作品が出なかっただけの話です。
日本パビリオンの関係者にはその自覚はなく、
苦情が訴えられたパネル討論にも誰も来ていなかったので、
訴えは宙に浮き、ぶつかる対象を失って雲散霧消しました。

本来なら、これほど大きなイベントは2年前くらいに告知され、
十分な時間をかけて準備されるべきだった、と
ブックフェアに関わった誰もが、特に主催者は
考えているに違いありません。
年度予算もすべて組み込まれ、余裕もないところに、
2か月前に勝手に(相手側の判断で)名誉ゲストと選定されて
準備しろと言われたって無理があると、
多かれ少なかれ考えていたでしょう。
勝手に名誉ゲストに選定して、素晴らしい言葉や祝辞を
誌上で並べ立て、それで何とかしろなんて、
好意の押し売りに等しいと、思ったかもしれません。
しかし、アラブはいつだってこうなのです。
特にシャルジャは最終決定までに時間がかかり、
右往左往させられたことは私も一度や二度ではありませんでした。
(拙書『ようこそアラブへ』の第2章『得手不得手』を
 参照してください)。

アラブに住む(外国人も含め)誰もが、
状況の急激な変化は日常茶飯事と心得て、常に柔軟に対応できるよう、
人とつながる糸を縦横無尽に張りめぐらせています。
普段はゆるやかに糸の先を握り、急な展開が起こると
すぐに引き寄せ、その糸が紡ぐことのできる最速で最上の
アイデアを絞り出すのが、アラブに生きる処世術です。
私は日本パビリオンにつながる糸を信じて
主催者にアイデアを託しましたが、残念ながら
糸が張り詰めることはありませんでした。
一方で、シャルジャ出版庁と私の糸は張り詰めて、
(双方にとって)素晴らしい輝きを放つことが出来ました。

ブックフェアが終わった今、世界中から223万人も訪れた
この壮大なイベントの根底には、
差し伸べられた友情があったことを忘れてはいけません。
シャルジャは日本文化を尊敬し、それを支えてきた出版文化を
世界に紹介したいと思った。
アラブ出版界はシャルジャの紹介文に魅せられて
日本の作品を心待ちにしていた。
日本側は出来る限り努力して、予算も期間もないところに
せめて恰好をつけた。
無理難題をイベント開催のためだけに、ただ突き付けたわけではない。
受けた方も嫌々に渋々やったわけではない。
根底には友情と尊敬があったのだと、双方が確認する必要があります。
目の前の困難に圧倒され、想像力を駆使する努力を放棄したら、
本来は根底に必ず在るはずの友情やリスペクトや愛国心は、
その姿を留めずに消えてしまいます。


私はこのたび久しぶりに文学者と交わり、刺激を受けました。
「あなたの作品を読んで、日本人読者がアラブに対する視点を
 変えたと思いますか。そうだとしたら、特にどんな点ですか」
と、パネルを訊きに来た男性に質問されました。
私は答えをしばらく探し、
「そうあればいいと願って書いたけれど、それは後付けの感想かも
 しれません。書いている最中は、思いを上手にわかりやすく表現し
 伝えることで精一杯だった」と答えました。

シリア人作家のファディさんは、移民先のドイツで
アラビア語と同時に独語の小説を書く難しさを訊かれ、
こう言っていました。
「世界の現実を、文学で訴え続けなければいけません。
 文学でしか力を発揮し得ない領域があるのだから。」

自分の作品が外国の人々にも影響を与えてきたと思うか、
と質問された西加奈子さんが、
「そう考えて書いてはいない。書かなければ苦しくて仕方ないから、
 耐えられないから書く」
と言っていたことも思い出しました。

翻訳の問題について訊かれた柴崎友香さんが、
「私は翻訳する方ではなく、される方だ」とかわしながら、
「翻訳された言語から別の言語へ翻訳をすると、
 意味が大きくずれてしまう。
 オリジナルを元にしなければ、言葉は逃げていってしまう。
 翻訳はできるだけ、書かれた言語から直接読まれる言語に
 翻訳されないといけない」
と訴えていたのも記憶に上りました。

命を削るように作品に向かっている作家たちの姿勢を、
誰もが参加できるパネル討論会の場で味わえた幸福を
私はかみしめました。
毎年ちがう国の作家をこうしたパネルに招待しているだけでも、
シャルジャの学術文化への意気込みと、対話への希求と、
(費用すべてを担うシャルジャの)覚悟と、
ブックフェアを通して未来へ託す希望を、
私は感じることが出来たのでした。 


ぎこちない友情(了)


追記:多数の読者の方々から、娘の結婚へ温かいお言葉を
いただきました。
メルマガだけでつながっている見ず知らずの皆様にも、
このように祝福をいただくのは予想もしておらず、
私たちの家族は幸福な気持ちでいっぱいです。
この場を借りて御礼申し上げます。
ありがとうございました。

ハムダなおこ

最新のコメント

  • とおりすがり2012-07-29 19:03:46

    蛇口の色について調べていて、ここにたどりつきました。



    エジプトに年末年始に旅行したときの経験から、赤=水、

    だと思っていましたが、タンクの設備による生活の知恵

    があると知り、感銘を受けました。勉強になりました。



    暑い時期が長そうなので、赤=水、である時期が長そうですね。

  • にこにこ2008-01-22 02:18:36

    今でこそ国際結婚をしている現地の方にお会いすることはありますが、17年前の日本から来たお嫁さん…きっと大・スクープだったのでしょう。アラブ文化をこのような形で伝えてくれるハムダなおこさんに感謝です!

  • きみこ2007-09-27 02:43:55

    こんにちは、はじめまして。毎回中東の様子を拝見しまして、驚きとともにとても楽しんでおります。次は何をおしえてもらえるのだろうか、と期待しております。がんばってください。

  • dubai14282007-04-23 23:40:02

    U.A.E.在住1年、現地女性の知り合いがようやく増えてきました。アラブの習慣+イスラムの習慣に、各家族の価値観、流行などもあり、当地女性の服装を理解するのは難しいですね。

  • 名無しさん2007-04-08 12:39:00

    何十年振りかで現地に戻って、現地に嫁いだ方々の子女教育に関するやりきれないような問題を聞かされているような気分になりました。出来ればバックナンバーや読者コメントを閲覧致し度存じます。