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アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活

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湾岸アラブ世界に住んで24年。UAE男性と結婚した筆者が、5人の子育て、地域活動、文化センター設立などを通して経験したアラブ・イスラーム社会を、深く鋭く観察し、エッセイで紹介します。



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最終発行日:
2017-02-24
発行部数:
325
総発行部数:
55501
創刊日:
2005-05-04
発行周期:
月刊
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アラブからこんにちは〜Vol.389 返り咲き(2)

発行日: 02/24

Vol.389 返り咲き(2)

息子は帰国して、とたんに無口になりました。
これは留学という大仕事を終えた虚脱感からくるものか、
急に環境が変わって話題にする内容が変化したからか、
新しい環境に戸惑っているのかはわかりませんでした。
昨年の9月10月は、あの暢気で陽気で饒舌な息子が、
憑き物が落ちたように、別人となって言葉を発するのを止めました。
日本から送った段ボール箱はひとつも開けないまま、
昔のクラスメートに会うわけでもなく、仕事を探すわけでもなく、
日本から戻った同じ留学生とつるむでもなく、
田舎町にこもって、町中をただ延々とドライブしていました。
アラブ料理をしこたま食べて、眠り、
時々訳もなく灼熱の砂漠を車で横切り、それ以外の時間は
黙々と地元の新聞を読み続けていました。
家の中でも、毎日場所を変えて、不在の次男や三男、
長女、次女のベッドに変わりばんこに寝て、
2階に4つあるシャワールームを順番に使い、
食卓では毎回席を変えて食べていました。
その奇怪な行動を見守りながら、私と夫は、
息子なりに家や地域の中で自分のテリトリーを確かめて
いるのだろうと考えていました。

年も暮れになってようやく落ち着き、父親の仕事を
手伝い始めました。
来年度(つまり今年)は兵役に呼ばれるものとばかり
思っていたので、真面目に仕事を探さなかったのですが
(兵役は1年間の義務で、毎年1月と9月に始まり、
 その2、3週間前に徴兵されるかどうかがわかる)、
最後には呼ばれないとわかって、
年末に「さて、どうする」という気持ちになりました。

現在、UAEの兵役制度は、若い男性の生活や未来を
根こそぎ変えてしまうほど影響を与える一大事となりました。
高校を卒業してから30歳になるまで、病気以外の例外はなく、
誰でも兵役に行かねばなりません。
兵役を終えなければ、なかなか職も見つからないし
(兵役の1年間は勤め先から同じように給与が払われる規則なので、
 雇い主としては兵役後の青年を雇いたい)、
奨学金も結婚支給金も家のローンももらえません。
就職していなければ、結婚や家を建てるなど将来の計画は
立てられません。
しかし、その兵役にいつ呼ばれるかは、誰も皆目わからないのです。
呼ばれないんじゃあ仕方がない。
再び半年の猶予をもらったようなもので、息子は宙ぶらりんのまま、
父親の仕事を手伝い始めました。

私の夫は小さな「まちこうば(町工場)」と言うくらいの会社を
5つ経営しています。そこで働く息子の様子を、
私は文頭に「リハビリ」と書きましたが、
夫に言わせると、
息子は現在「Under Training――見習い中」となります。
いったい何を見習っているのか。
息子は日本にいるときだって、24歳の立派な大人で、
お堅いエネルギー経済研究所で3ヵ月間インターンとして働き、
ある程度は仕事も理解し、真面目にこなしていました。
しかし、その仕事ぶりがそのままアラブ社会で通用するとは限らない。
だから世界は広いのです。

まず息子が習わなければならなかったのは、
挨拶の仕方、人との話し方、対人関係、距離でした。
これは、マルチカルチャーのUAEならではの、
世界でも稀に見る対人関係スキルの宝庫、
異文化と異人種、異言語のるつぼというべき場所でしか学べない、
未来世界を生きるカギとなるものです。
また、アラブ・イスラーム社会に生きる上で、
最も人格を端的に簡潔に現す、要となる部分でした。

息子に限らず、留学を経験した人は誰でも同じでしょうが、
留学生時代はいろいろなことが許されてきました。
自分の母語でない言葉を間違えたって仕方がない。
完璧に読み書きできなくても当然だ。
慎重に考えながらゆっくり話しても聞いてもらえる。
しかし、自国に戻るとそうはいきません。
学位を得た一人前の男性でありながら、母国語であるアラビア語を
きちんと話せなければ身分・出自を疑われます。
25歳ならUAEでは3人くらいの子どもの父親であっても
不思議でない歳で、社会人数年目の若造という意識はありません。
すでに社会の中枢を担う立派な大人
(高校を卒業した人間は一人前と考えられている)とみなされます。
だから挨拶だって、子どもみたいに自分が尋ねられる側ではなく、
尋ねる側になります。
つまり、
「ご加減はいかがですか」
「ご家族の様子はどうですか」
「お父さんやお母さんなどは元気ですか」
と尋ねる側に回るのです。
これはただ、歳が上になったから挨拶の仕方が変わるという
意味ではありません。
尋ねてみて、何か不都合や不便でもあれば
自分が出来るだけ援けようとする立場になることです。
ぼんやりとただ木偶の坊のように尋ねるわけじゃないのです。

また留学時代には、話題に華を咲かせるために、
日本とアラブの習慣の違いを面白おかしく語ったり、
気候や国政や宗教の違いなどを声高に説明することもあったでしょう。
「僕の国は夏の気温は当たり前に50度になり、夜も40度を下がらない」
とか、
「道路のアスファルトで目玉焼きができる」とか、
「雨が降ると学校が休みになる」とか、
「夏休みが3ヵ月もある」とか、
日本人が聞いたらへぇ〜〜〜と驚くような内容を、
面白おかしく語れば話題の中心にもなるし、皆が注目してくれます。

しかし、そんなことを聞いて驚いてくれる人は、自国にはいません。
反対に日本のことを面白おかしく言う立場になるけれど、
それだって限度があります。
つまり、そうした話題はもう日常生活から離れていっているのです。

返り咲き(3)に続く

ハムダなおこ

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発行者プロフィール

ハムダなおこ

ハムダなおこ

http://www.geocities.jp/naokomai41/index.html

国際結婚して24年。アラビア湾岸にあるUAEに住んでいます。といっても、自宅は大都会のドバイから車で1時間の田舎町ウンムアルクエイン。奥の深〜いアラブ・イスラーム生活を、驚き・喜び・落胆・感謝の連続で過ごしています。5人の子どもを育てながら湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。