トップ > 地域情報 > 海外 > ヨーロッパ・中東 > アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活

アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活

RSS

湾岸アラブ世界に住んで24年。UAE男性と結婚した筆者が、5人の子育て、地域活動、文化センター設立などを通して経験したアラブ・イスラーム社会を、深く鋭く観察し、エッセイで紹介します。



メルマガの登録・解除

登録した方には、メルマ!からオフィシャルメルマガ(無料)をお届けします。


最新の記事リスト

  1. このメルマガは最新記事のみ表示されています

メルマガ情報

最終発行日:
2017-05-29
発行部数:
329
総発行部数:
58462
創刊日:
2005-05-04
発行周期:
月刊
Score!:
非表示

アラブからこんにちは〜Vol.398 UAE大学事情(6)

発行日: 05/29

Vol.398 UAE大学事情(6)

寮に関して私が一番驚いたのは、
大学の広大な敷地の東側に造られた、マカアム第1寮と第3寮です。
この2つの寮に関しては、大学の地図にはどこにも案内がありません。
しかし、グーグルの航空写真では、建物が並んでいるのが
はっきり見えます。
マカアム第1寮にはH型のビルが5棟あり、
5階建ての各棟は、それぞれ2百人くらいは住める大きさの
コンパウンドです。
その北側にあるマカアム第3寮は、卍型をした5階建てビルが6棟。
ここも全体で1500人は住めるような巨大な施設です。
しかし娘に聞いて知ったのですが、この2つの寮は
現在使用されていません。
第1寮は、建ってしばらくは学生が住んでいたけれど、
何かしらの事件があり、ジン(アラブの魔人)が棲みついている
という噂がたって、全員が退去して以来、
何年も使用されていないのだそうです。
同様にマカアム第3寮も、電気系統に問題があって、
ここ数年使用されていないということでした。
電気系統なんて、業者を呼べばすぐに直せるだろうに。
それにしても、何億円も国家予算をかけ、
これほど頑丈に贅沢に建てられているビルが、
野ざらしのまま放置されているのは、
なんとも納得しがたいのでした。

UAE学生は学費も寮費も払わないのだから、
使われなければ損をするのは大学側(UAE政府)です。
外国人学生は、寮費を1学期で30万円ほど払います。
ということは、物件の価値で言えば、30万円かける3千人分。
つまり、本来の半年分の収益がなんと9億円なのです。
それをまったく修繕せず、解体せず、
介入しないで放置しているとは、う〜むむむ、不思議でした。

「もったいないよね、あんなに広い場所に立派な建物が
 建っているのにさ」と言う次女。
「もったいないを通り越して、あまりにも虚しい。
 金銭の感覚が溶解していく。自分の投資物件じゃないんだけどさ」
という私。
「でも、こればっかりは手が付けられないからね」
「魔人が住んでいるってねぇ」
返事のしようがなくて、私は頷いて腕を組みました。
ジンの噂が本当なら、手を付けられないのは当然です。
使用はおろか、改築も解体もできないのだから、
放っておくしかありません。
(アラブの魔人に対する記述は、詳しくは拙著
 『アラブからこんにちは』にある『超常現象との闘い』の章を
 参照してください)。
日本では、事故物件やいわくつき物件は、
神主さんに御祓いしてもらったり解体したりと方法があるでしょう。
税金対策でもない限り、長年放置するなんてとんでもない。
放置する期間が長ければ長いほど、損も大きくなります。
しかし、ここでは違います。
政府がいかに損をしようと、地面から溢れる石油が
補填してくれるという甘い経済概念が蔓延しています。

また、精霊の存在は決して否定できません。
ムスリムはジンの存在を確実に信じています。
神の言葉を書き綴ったクルアーンには、
明確にジン(魔人)に関する記載があり、
彼ら(ジン)はどのような存在で、どのように生活し、
人間社会とどのように関わっているか、しっかりと書かれています。
迷信だとかホラ話だとか、あるいは狂言だと捉える人はいません。
だからこそ、何億円もかけた真新しい寮が
誰も使用しないまま何年も置かれているのです。


驚きはそれだけではありませんでした。
次女のいるトワーム寮にはプールがあります。
しかし、そこには水が入っていません。
プールを囲む柵もロープもなく、地面に突然、
巨大な穴がぽっかり開いているのだそうです。
何年も前にプールで溺死した学生がいて、
それ以来、プールは閉まっています。
次女がかつてトワーム寮に住んでいたという女性から聞いた話では、
その女性が寮に住んでいた頃でさえ、死亡事故のずっと後で、
プールは閉まっていたそうです。
女性は大学をすでに卒業して、娘たちの講師を
やっている人でした。
ということは、事故は十何年も前にあったのです。

プールは5メートルの深さがある飛び込み練習用でした。
これがまた不思議な話です。
だって、UAEでは灼熱のために泳ぐ習慣などありません。
特に女性が身体をさらすようなプールの授業は存在せず
(もともと体育の授業でさえろくにない)、
5人の子どもたちを育てる間、私はプールのある学校に
お目にかかったことは1度しかありませんでした。
5人の子はそれぞれ年齢も違うし、男女別学だったし、
おまけに何度も引越しをしたので、
総数ではなんと30校以上に登校させました。
それでも、プールがあるのはたった1校だけでした
(アジマン首長国の低学年用モデル小学校)。

水泳教育自体がないUAEの教育現場で、
大学の女子学生寮に、飛び込み練習用の深いプールを
いきなり造ること自体、私には理解できない。
日本の大学だって、飛び込み専用プールを持つところは
少ないでしょう。まったく馬鹿げています。
どこかの大した理想家が、文武両道に秀でた学生をつくるという
あきらかに現実離れした夢を追いかけて、
こんなものを造ったのでしょう。
何億円もかけて豪勢に造ったプールの結果がこれだ、
と私は呆れます。

それにしても───。
ここ1年間、次女を通して知ったさまざまな出来事に、
私は考えさせられました。
驚き呆れ、理不尽を嘆き、不合理に腹立ち、
そしていつも最後には沈黙しました。
2010年から3人の子が通ったカリーファ大学(UAEの最高学府)の、
男女隔てない合理性や、進歩的な考え、
エリートを育てる世界共通の価値観などに魅了されて、
アラブのこのような社会風習、潜在的な(迷信に対する)恐怖、
過剰な女性保護や、自由に伴う自己責任を徹底排除した頑迷さを
忘れていました。

驚くと同時に、こうした出来事は「異文化とは何か」という問題を、
常に私に突きつけました。
私はここに4半世紀も住み、家族を持ち子どもを育て、
何となくわかったような気がしていました。
しかし異文化理解とは、言語で説明される宗教の違いや、
はっきりと目に見える衣食住の違いや、
気候や地質学的違いによってや生まれる社会風俗の違いを、
ただ分析・比較・説明するだけではないのです。
それらを越えて、さらに、互いに決して噛み合わない習慣や、
重複することのない思想、
誰にとっても明快に見える理論が通用しない頑迷さ、
百の反論がひとつのブレークスルーをつくることさえ出来ない
価値観の違いなどが、この広い世界には存在するのだと
認めるしかないことを知らされました。

異文化理解とは、妥協点も共通事項も理論的説明も便宜的解決法も、
ある程度の説得力しかなく、
究極には、ただ黙って相手を知るしかない領域、
相手の存在を尊重するしかない領域が、延々と広がっているのです。
グローバル化やネットによる情報社会がもたらす理解しやすい世界は、
実は、異文化研究という広い世界のほんの一部でしかなく、
人間社会は実に奥が深いものだと、私は知らされました。

そして、いかに私が驚き、怒り嘆き、
忍従や諦念や黙認を強いられたとしても、
それでも自分の知らない異文化の時間は止まらずに動き続けること、
独自のスピードで保守的、あるいは開放的な方向に
勝手に進んでいくこと、などを考えさせられました。

同時にまた、わくわくした気持ちも沸き起こり、
世界がすべて理論的な説明や理解可能な相違・価値観で
出来あがっているなら、
なんと味気なくつまらないものになってしまうだろう、
未知の世界が広がっているからこそ、
やっぱりこんなに楽しいのだと考えていました。


UAE大学事情(了)

ハムダなおこ

ブックマークに登録する

TwitterでつぶやくLismeトピックスに追加するはてなブックマークに追加del.icio.usに追加Buzzurlにブックマークニフティクリップに追加Yahoo!ブックマークに登録
My Yahoo!に追加Add to Google

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

登録/解除

メルマ!のおすすめメルマガ

  1. フランスのニュースとライフスタイル ☆ AntenneFrance

    最終発行日:
    2017/06/22
    読者数:
    546人

    フランスのニュースとライフスタイルをお伝えするアンテンヌフランス。第1回メルマガ大賞にノミネートされたフランスの最新情報を紹介するパイオニア的存在のメールマガジン。

  2. Japan on the Globe 国際派日本人養成講座

    最終発行日:
    2017/06/25
    読者数:
    13239人

    日本に元気と良識を。歴史・文化・政治・外交など、多方面の教養を毎週一話完結型でお届けします。3万8千部突破!

  3. 宮崎正弘の国際ニュース・早読み

    最終発行日:
    2017/06/20
    読者数:
    24334人

     評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

  4. 頂門の一針

    最終発行日:
    2017/06/27
    読者数:
    5713人

    急所をおさえながら長閑(のどか)な気分になれる電子雑誌。扱う物は政治、経済、社会、放送、出版、医療それに時々はお叱りを受けること必定のネタも。

  5. 甦れ美しい日本

    最終発行日:
    2017/06/24
    読者数:
    7042人

    日本再生のための政治・経済・文化などの発展・再構築を目的とし、メールマガジンの配信を行う

発行者プロフィール

ハムダなおこ

ハムダなおこ

http://www.geocities.jp/naokomai41/index.html

国際結婚して24年。アラビア湾岸にあるUAEに住んでいます。といっても、自宅は大都会のドバイから車で1時間の田舎町ウンムアルクエイン。奥の深〜いアラブ・イスラーム生活を、驚き・喜び・落胆・感謝の連続で過ごしています。5人の子どもを育てながら湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。