トップ > 地域情報 > 海外 > ヨーロッパ・中東 > アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活

アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活

RSS

湾岸アラブ世界に住んで24年。UAE男性と結婚した筆者が、5人の子育て、地域活動、文化センター設立などを通して経験したアラブ・イスラーム社会を、深く鋭く観察し、エッセイで紹介します。



メルマガの登録・解除

登録した方には、メルマ!からオフィシャルメルマガ(無料)をお届けします。


最新の記事リスト

  1. このメルマガは最新記事のみ表示されています

メルマガ情報

最終発行日:
2016-12-08
発行部数:
321
総発行部数:
54211
創刊日:
2005-05-04
発行周期:
月刊
Score!:
非表示

アラブからこんにちは〜Vol. 386 話をきいて(4)

発行日: 12/08

Vol.386 話をきいて(4)

今年の春、YPOという世界にまたがる団体がドバイで世界大会を開催しました。
YPO (Young President Organization) はその名の通り
45歳が年齢上限の若い世代の経営者団体です。
資本金がいくら以上、社員数が何人以上、社史が何年以上という
厳しい条件があり、その社長だけが入会することができます。
日本支部からも約50名の経営者が参加するので、
アラブの文化について日本語で講演して欲しいと頼まれました。

講演の1か月前、数名の役員が事前準備にドバイに来て、
打ち合わせをしました。
要望を訊くと、アラブ文化についての一般的な知識だけでなく、
もう少し深い内容も聞きたいとのことでした。
「では人々の生活と切り離せない宗教イスラームについて、
 皆さんはどのくらい知っているのですか」と訊くと、
職業柄、勉強家が多いが、イスラームをそれほど知っているとは言えない、
という返事でした。
「それほど」という形容がどの程度かは、講演が始まらないとわかりません。
では、当日に反応をみて調節しようと思いました。

3月、オープンしたばかりのホテルの1室で、講演は行われました。
私の前には、とある日本企業の駐在員がドバイ経済について
発表していました。
その後、アラブの衣装(カンドゥーラとガトラ)をつけた司会者に
紹介されて、壇上に上がりました。
アラブ人にしては上手に日本語をしゃべるなぁとよく見たら、
事前準備のために前月来訪された6人の経営者のひとり(日本人)でした。
よく見れば、ガトラの被り方が何だかおかしいので、
「ちょっとはずしてください」と言いました。
ガトラとは、アラブ男性が頭にかぶる3角形の布のことです。
本来は正四角形をしていますが、対角を合わせて2つ折りにし、
3角形のまま使います。
司会者はどう身に着けるのか知らなかったのでしょう、
長方形に折って使っていました。
「あらあら、これでは失格ですね」と、目の前に跪いてもらいました。

まずはガフィーヤと呼ばれる編み帽子の縁を
ぴったりと眉のラインに平行に合わせて、前頭部に載せます。
次に、ガトラを三角形に折り直し、底辺の真ん中をおでこに合わせて載せ、
直角の部分は真後ろに、2つの鋭角は額から真っ直ぐ下におろします。
そのあと、アガールと呼ばれる黒い紐を2重にした輪を、
地面と水平になるよう頭部に載せて、両肩にかけた三角形の鋭角を
ひらりと後ろに流しました。
見違えるように立派な姿になった司会者に、ピューピューと口笛が飛び、
ヤジが飛んで、会場は笑いに包まれました。
あぁ、この団体はきっと、普段は大勢の社員にかしずかれて
「社長」と呼ばれている男性たちが、
羽目をはずして楽しむことのできる稀な機会なのだなと思いました。
また、お互いに強い仲間意識を抱いていると感じました。

経営者の人たちは、時間を有効に使うことに慣れています。
一般知識をなぞるようなペースも、無駄な話も嫌いでしょう。
私の講義の後はすぐ昼食会で、午後には中東ならではの豪勢なレジャーが
たくさん盛り込まれたスケジュールとなっていました。
その期待で今からワクワクしている彼らに、
イスラームが最も印象付けられる話をしようと思っていました。

私が1時間で話したことは、中東アラブ生活の様子と、
イスラームの一般知識、イスラームに抱かれる偏見についても
簡単に説明しました。女性を十数名ほど並べたスライドに、
名前と国籍がわかる人がいるかと訊きました。
「これが近年ムスリムの国々で最高責任者(大統領あるいは首相)
 になった女性たちの写真です。極東アジア地域とは比べ物にならないくらい
 多数の女性が政治に参加しています」と言うと、参加者は驚いていました。

特に時間をかけて説明したのは、宗教的義務の3番目にくる
喜捨についてです。
「イスラームには、イバーダートという守らなければいけない
 5つの行為があります。その3番目は喜捨(ザカート)で、
 貧しい人々に自分の富を分け与えることです。
 その点について、少し詳しくお話します」と始めました。
「ムスリムである限り、年に1回、ザカートで決められた額を
 喜捨をしなければなりません。
 大まかに言うと、財産や所有物には概算で2.5%かかります。
 皆さんは経営者ですから、会社の銀行口座にどれだけ入っているか
 ご存知のはずです。2.5%はどれだけになるか、
 ちょっと概算してみてください。」
多くの人は腕組みをして考え始めました。
「経営者として、この2.5%という数字は妥当だと思いますか?
 ただの数だから、はっきりしないかもしれないので、
 他の財産についても言及します。たとえば農産物だったら、
 天水あるいは自然流水の場所から採れた収穫物だと10%、
 灌漑用施設の収穫物では5%かかります。
 つまり、労力・財力のそれほどかからなかった収穫物は、
 先行投資した場所の収穫物の倍額、ザカートを支払わなければ
 ならないのです。
 1年間、ずっと保有していた金銀(いまでいう貨幣)なら2.5%、
 金は5%、銀は2,5%、商品なら2.5%。
 驚くなかれ、埋蔵財産ならなんと20%かかります。
 イスラームではお金は常に流れているものという概念があり、
 有効活用するために存在するものです。
 その活用の道を断ち、隠して寝かしておいたがゆえに
 20%も出さねばならないのです。」
「家畜にもザカートは当てはまります。1年間30頭の牛を所持していたなら
 ザカートは牛1頭が課せられます。
 羊40頭だったら、羊1頭が課せられます。しかも条件つきです。
 ザカートとして差し出す牛は、一歳を過ぎた牛でなければならないのです。
 小さくてこのまま死んでしまうかもしれない牛でなく、
 一歳まで成長した牛、これから別の利益を生み出すことができる
 牛であることが条件です。」

「ここまで説明したら、経営者のみなさんにはもうお分かりでしょう。
 これは健全な経営なら一年かけたら回復できる割合なのです。
 いいかえれば、ムスリム経営者の資格は、毎年2.5%の成長を
 約束できればいいわけです。」
「ザカートを富裕者にかかる税金と考えては誤ります。
 あなただけにかかる税、努力をして儲けている人間に対して
 課せられる税と考えていはいけません。
 神様は一人一人の人間をまったく別に創りました。
 ある人には多くの財産を、ある人には少なく、人生で与えました。
 多くの財産を許された者に一定率のザカートを払わせることは、
 それを許した神の持つ権利だと捉えています。
 つまり、これは貧者への施しと表現するよりは、
 神に対する感謝・義務であると人々は考えています。
 これはいわば1400年前、日本でいえば聖徳太子の時代に作られた、
 社会福祉保障制度と呼んでもいいものです。」

 これはクルアーンに明記された割合で、日本だったら聖徳太子の時代に
 決められた変更不可能な数値です。
 この数値が、2016年の世界第3の経済大国の日本で大会社を経営する
 皆さんにとって、妥当な割合と思えるでしょうか。」

「クルアーンにはニサーブという最低財産の基準があり、
 それ以下で生活している人間はザカートを払う義務はありません。
 その人たちはザカートを払うのではなく、受け取る側となります。」
「イスラームは宗教上の義務はすべて自己申告制と言いました。
 やらなかったと言ってあなたを罰する人間はいません。
 断食をしたか、喜捨をしたか、お祈りをしたかを知るのは神様だけです。
 そういう意味では、ザカートを払う側の人間の意志に
 すべてかかっているわけです。
 今ならノブレス・オブリージュとかいう流行りの言葉がありますね。
 中世ヨーロッパで莫大な資産を握っていた貴族たちが
 一般社会に義務を抱いていたのと似ています。」
「2016年の統計では、世界には資産10億ドル以上をもった億万長者が
 1826名いました。もしその全員がムスリムと仮定したら、
 彼らの純資産合計7兆ドル(861兆円)の2.5%が
 毎年、ザカートとして動きます。
 神を通して、貧しい人に無条件で譲られていくのです。
 その経済効果を、皆さんどうぞ想像してみてください。」 

講義も最後に近づき、次のプラン(砂漠の国ならではの豪遊)を
楽しみにそわそわしてる若い経営者たちに、私はこう言いました。
「では、時間が残り少なくなったので、皆さんに宿題を出します。」
日頃、多くの仕事を抱える経営者が、
知らない人間に宿題をもらうのは意外だったのでしょう。
皆さん、パッチリと目を開きました。
「イスラームは砂漠の宗教ではなく、商業を中心にして
 短期間で爆発的に世界に広がった世界宗教だと最初に説明しました。
 イスラームでは、効率や生産性で人間性を計ることはしません。
 では、商業を中心として世界に爆発的に拡がったイスラームが、
 効率や生産性を至上の方法としないまま、
 いかにして世界の4分の1の地域まで征服することができたのか。
 また、現在でも信徒を増やし続けているのか。
 先進国の大会社の経営者として、折に触れ、考えてみていただければ
 幸いです。」


話をきいて(5)に続く

ハムダなおこ

ブックマークに登録する

TwitterでつぶやくLismeトピックスに追加するはてなブックマークに追加del.icio.usに追加Buzzurlにブックマークニフティクリップに追加Yahoo!ブックマークに登録
My Yahoo!に追加Add to Google

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

登録/解除

メルマ!のおすすめメルマガ

  1. Japan on the Globe 国際派日本人養成講座

    最終発行日:
    2016/12/04
    読者数:
    13247人

    日本に元気と良識を。歴史・文化・政治・外交など、多方面の教養を毎週一話完結型でお届けします。3万8千部突破!

  2. 宮崎正弘の国際ニュース・早読み

    最終発行日:
    2016/12/08
    読者数:
    23735人

     評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

  3. e-doctor ドクタースマートの医学なんでも相談室

    最終発行日:
    2016/12/06
    読者数:
    3290人

    読者の質問に内科医であるドクタースマートがお答えするメルマガです。病気に関するどんなことでも、なんでも質問してください。すべての質問に、ドクタースマートが本気・本音でお答えいたします。

  4. 頂門の一針

    最終発行日:
    2016/12/08
    読者数:
    5519人

    急所をおさえながら長閑(のどか)な気分になれる電子雑誌。扱う物は政治、経済、社会、放送、出版、医療それに時々はお叱りを受けること必定のネタも。

  5. 甦れ美しい日本

    最終発行日:
    2016/12/02
    読者数:
    7070人

    日本再生のための政治・経済・文化などの発展・再構築を目的とし、メールマガジンの配信を行う

発行者プロフィール

ハムダなおこ

ハムダなおこ

http://www.geocities.jp/naokomai41/index.html

国際結婚して24年。アラビア湾岸にあるUAEに住んでいます。といっても、自宅は大都会のドバイから車で1時間の田舎町ウンムアルクエイン。奥の深〜いアラブ・イスラーム生活を、驚き・喜び・落胆・感謝の連続で過ごしています。5人の子どもを育てながら湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。