小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.092

2005/07/21

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 
┃ 『アカシア少女探偵団』 
┃                        
┃       大庭花音         
┃  written by Kanon Ohba 
┃       -*-*-*-          
┃   http://ibunko.com    
┃   acacia@ibunko.com    
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 玉玲は勝手口から外へでた。一分もたたないうちに、秀子をつれて戻ってきた。千勢は、台所のドアを、音がたたないようにそっと閉めた。
「秀子さん!」
「有島さん」
 ふたりは手を握りあった。
「こちら、楊玉玲、玲ちゃんといって、わたしの友だち。あなたを市場で見たひと」
「ああ……よろしく」
 秀子は玉玲に軽く会釈した。
「どうしたの? おうちに帰りづらいの?」
「ちがうの、椛島さんが戻らないので、心配になって」
 一昨日から、椛島が街へいったきり、戻らないのだという。
 秀子はしばらく、星ヶ浦でじっと待っていたのだが、千勢からの手紙をうけとって、意を決して街にやってきたのだった。
「だれにも見つからなかったの?」
「こんな恰好をしてたら、日本人には見えないでしょう」
 秀子は少しさびしそうに笑った。
 スカーフから見え隠れする栗色の髪と白い顔は、まじまじと見ないかぎり、外国人の少女でしかなかった。
 秀子が、軽くぶるっと震えた。千勢はようやく、秀子がしばらく雨に濡れていたことを思いだした。
 千勢はこっそりと部屋にもどり、自分のウールの上着をもってきた。それを、濡れた秀子の上着ととりかえ、着せかけてやった。
 玉玲が茶をわかし、秀子に熱い茶碗をもたせた。それで秀子も、ようやく人心地がついたようだった。
「椛島さん、どうなすったの? なぜ街へ」
「知り合いのゴドノフさんに会って、これからのことを相談するといって……」
 椛島が、ロシア人の知り合いがいるといっていたことを、千勢は思いだした。
「もしかしてつかまったのかと思ったのだけど、なにかきいてない?」
「いいえ、お兄さまからはなにも。もしつかまっていたら、なにかいってくださるはずだわ。兄は秀子さんの捜索にかかわっているの」
「警察の方なの?」
 秀子は眉をひそめた。
「いいえ、陸軍よ」
「軍まで……」
 秀子はため息をついた。
「もうちょっとお金があれば、船の切符を買えたのに。そうしたら、いまごろは内地でのんびりしていられたわ」
「乗客名簿をみたら、すぐ見つかるわよ」
「偽名をつかうにきまっているわ」
 秀子は、変なことをいう、というように千勢をみた。玉玲は、うしろで笑いをかみころした。なんだかひとり、子ども扱いをされたような気がして、千勢はくやしくなった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
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