小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.091

2005/07/20

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 
┃ 『アカシア少女探偵団』 
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┃       大庭花音         
┃  written by Kanon Ohba 
┃       -*-*-*-          
┃   http://ibunko.com    
┃   acacia@ibunko.com    
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 朝から小雨がふりつづいていた。五月とはいえ陽のささない日は、少し肌寒さを感じるほどだった。
 毎日が色あせてしまったようなむなしさを、千勢は感じた。
 冒険は、生きるための必需品なんだわ。しかし、そんなことを人前でいおうものなら、ますますきびしい監視がつけられてしまうことだろう。
「生きるって、大変なことね……」
 千勢がぽつりといったので、八重と美智子は顔をあげた。
「どうしたの、千勢ちゃん。深刻なこと、いって」
「なんでもない」
 昨夜も同じことばをいったっけ、と千勢は思って、ますます気分がおちこむ思いを味わった。
「はやく秀子さん、帰ってこないかな」
「そうねえ」
 三人は、いちようにため息をついた。
 雨はしとしとと降りつづけた。

 日曜日。
 外に出られない休日など、とくにすることもない。自分の部屋にひきあげて、ぱらぱらと雑誌をめくったりしたが、それもさんざん読みかえしたものだった。
 千勢は二重窓をあけて、外をぼんやりとながめた。雨にけぶる町並みは、ヨーロッパの映画の一シーンのようだった。ながらく映画も見にいっていない、と千勢は沈んだ気分で、白い窓枠に頬杖をついた。
 そのとき、門の前に、ひとりの少女が立っているのが目にはいった。スカーフをかぶった、洋装の少女だ。
 はじめは、ロシア人の物売りの少女かと思った。だが、こんな住宅街へ、雨の日にやってくるというのは、妙な気がした。
 千勢がじっと見つづけていると、スカーフの少女が顔をあげた。
 まさか。
 少女も千勢に気づいたらしく、スカーフを少しずらして顔をみせた。
「秀子さん!」
 千勢は驚いて、ばたばたと階下へおりた。
「千勢、もうちょっとしとやかにできないの」
 千歳のうんざりした声が追いかけてきた。
「ごめんなさあい」
 おざなりにこたえて、千勢は台所にむかった。
 玉玲が暇そうに、千勢のお古の雑誌をめくっていた。午後の物憂い時間が、家のすみずみにまで蔓延していた。
「玲ちゃん! 秀子さんがきてる」
「えっ」
 千勢は玉玲の手をひっぱった。
「なんとかつれてこれない?」
「わかった」

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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