小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.086

2005/07/12

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 
┃ 『アカシア少女探偵団』 
┃                        
┃       大庭花音         
┃  written by Kanon Ohba 
┃       -*-*-*-          
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十四

 夕食の買い物のため、玉玲は市場にきていた。月華につれられていった屋台までのぞきにいってもみたが、まだ商売を始めていないらしく、小路の奥はがらんとしていた。
 しかたなく、母親にわたされた買い物メモをながめた。
 楊夫人の字は、娘の目からみても悪筆だ。学校にいくこともなく、幼いころから働きに出ていた楊夫人だから、だれも悪筆については触れない。楊夫人が電話をうけたときなど、メモを渡されると、千歳はあとでこっそり玉玲をよんで解読を頼んだものだった。楊夫人のメモ解読は、玉玲にしかできない特殊技能だった。
 みみずののたくったような字から、玉玲は自分が買うべきものを読みとり、メモをポケットにおしこんだ。
 顔をあげたとき、人ごみの奥から、あの美しい顔が目にとびこんできた。
「月華さん!」
「おや」
 暇そうにぶらぶらする月華が、そこにいた。
「あんときはありがとうよ」
「無事だったんですね、よかった」
 月華は、当然だろうといった顔をした。
「買い物かい」
「ええ。月華さんは? その後、お宝さがしはすすみました?」
 月華はぞんざいに首をふった。
「それなら、こんな時間に市場なんかうろついてないさ」
 では、なんのためにうろついているのかと、玉玲はふとたずねそうになって、やめた。どうせ、ろくなことではないだろう。
「そうだ、あんた日本人と友だちなんだろ。いつまでこんな状態が続くのか、わかんないかな。まったく、やりにくいったらありゃしないよ」
「こんな状態って?」
 ぼやきだした月華に、玉玲がききかえした。
「ここんとこ、警察や軍があちこちにでばってきて、無職者とみると、すぐつかまえては尋問をおっぱじめるんだよ。おかげで商売あがったりだ。軍までお宝を狙いはじめたのかい」
 ひそひそ声ながら、月華はいらだちを隠せないようだった。
「お宝のことは、みんなが知ってるみたいですけどね……」
 玉玲が、どこまで話していいものか迷っていると、いきなり酔っ払いが、ふたりの間にわりこんできた。
「おい、おまえたち、いまお宝とかいったな」
 ふたりは黙っていたが、酔っ払いは気にするようすもなく、
「お宝は俺のもんだ。俺がつかんだネタなんだ。だれにも渡すもんか」
 と、酒瓶をふりまわしてわめいた。
「あんた……北京の役人じゃないか」
 月華はゆかいそうにいった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
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