小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.074

2005/06/24

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「よかったわ、とにかく無事で」
 ソファに腰をおろすなり、千勢がいった。
「無事? ええ、おかげさまで」
 秀子が首をかしげながらいった。たしかに、なんの危険にもさらされていないような、愛らしいしぐさだった。
「どうして駆け落ちしたの」
 まだ涙のあとが残る顔で、美智子がきいた。目に残る涙が、好奇心で輝いている。
「そんなおおげさなことじゃないわ。家にいたくなかっただけ」
 秀一郎や大津夫人のことを思い浮かべて、千勢は秀子が、あの映画のセットのような家で、孤独だったことを知った。
「恋人じゃないの?」
 秀子は頬を染めた。
「そんなんじゃ……」
 ドアのそばに立っていた男が、照れくさそうにいった。
「あの、僕が勝手に崇拝しているだけなんです」
 少女たちはあらためて男を見つめた。ひょろりとした、眼鏡の若者だ。背は、秀子と同じぐらいかもしれない。
 玉玲が「青びょうたん」といったのを思い出し、千勢は笑いそうになった。
「このかたは、椛島公一さん。横浜で近所に住んでらしたかた。その……わたしを追って、大連にいらしたの。ロシア語の学生さんなのよ」
 秀子が恥ずかしそうに紹介した。椛島はぺこんと頭をさげた。
「でも、男女がふたりきりでこんな……」
 八重が言いにくそうにいった。
「いえっ、僕はぜったいに秀子さんに不埒な行為は働いておりません!」
 椛島があわてて宣言した。
「秀子さんがおうちにいたくないというので、護衛としてついてきたんです」
「ナイトね」
 美智子がうらやましそうにいった。
「そうだ、お茶でも……」
 秀子が立とうとしたのを、千勢はひきとめた。
「あまり時間がないの。わたしたち、遠足の途中でぬけだしてきたんだもの」
「三十堡里じゃなかったの?」
「変更になったのよ。あなたが誘拐されたもんだから」
「ゆ、誘拐!」
 椛島が悲鳴のような声をあげた。
「どういうこと?」
 秀子がびっくりしていった。
「誰にもなにもいわないで出てきてしまったら、誘拐されたと思われるにきまってるじゃない」
 千勢はおかしそうにいった。
「どうして書き置きしなかったの?」
 秀子は皮肉な笑いをうかべた。
「どうせうちの人たちは、私がいなくなっても心配なんてしないもの。書くだけむだ」
 三人はしんとしてしまった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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