小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.073

2005/06/23

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 首だけ中につっこんで、ようすをうかがう。しだいに目が慣れてくるのを待って、そっと中へしのびこんだ。
「黙ってはいってしまっていいの」
 八重が不安そうにささやいた。
 そのとき、かたん、と奥で物音がした。
 三人はびくっとして、棒立ちになった。しばらくじっとしていたが、あたりは静まりかえっている。ふたたび三人は、そろりそろりと足を前に出した。
 そこは台所だった。流しが濡れており、わきには洗いあげた食器が伏せてあった。
 台所の出入り口まで進んだ。
 千勢がそっと取っ手をまわした。
 ドアが開いたとたん、黒い影が降ってきた。
「きゃあああっ」
 八重が金切り声をあげた。千勢はすんでのところで、その影をよけた。びたん、と音をたてて、影が床にとまった。箒だ。
「え?」
 黒い影を振りおろした主が、小さく声をもらした。
「ひ、秀子さん! やっぱり!」
 千勢が叫んで、秀子にとびついた。
「あ、有島さん……江上さんに、田中さんまで」
 四人はからまるようにして、へなへなとへたりこんだ。
「いた、いたよお、秀子さんが……」
 美智子がいきなり、わんわんと泣きだした。つられて千勢も八重も泣きだし、三人はあたりもはばからず、顔を覆いもせずに、涙が流れるにまかせた。
「いったい……どうして」
 秀子はまだ驚きからさめぬようすで、泣きわめく少女たちをぼんやりと見つめていた。
 階段がぎしぎしと鳴った。
「どうしたんですか……」
 唾をのみこみながら、下りてきた男がいった。三人はいっせいに泣くのをやめた。
「や、やっぱり駆け落ちだったの……」
 千勢が涙を手の甲で拭きながら、つぶやいた。
「やっぱりって?」
 秀子がいった。
「わたしの中国人の友だちが、市場であなたが学生さんといっしょにいるのを、見たのよ。どう見ても逢い引きだったって」
 秀子は頬を赤らめた。
「そういうんじゃないけど……わたしをさがしていたのね、あなたたち」
 困ったような、うれしいような、複雑な表情で、秀子はつぶやいた。
「とにかく立って。居間へいきましょう」
 少女たちは、秀子にみちびかれるままに、海に面した居間へはいった。秀子がカーテンを開けると、光が部屋のすみずみまであふれかえった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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