小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.072

2005/06/22

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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十二

 夏には雨の多い大連だが、この時期は、気持ちのいい気候が続く。
 翌日の木曜日も、みごとな遠足日和だった。
 女学生たちは、先生方に引率されて、路面電車で星ヶ浦へむかった。誘拐事件の再発を懸念して、刑事が二名、一行に加わっていた。
「やりにくいわね」
 刑事を見やって、美智子が千勢にささやいた。
 千勢は暗い顔でうなずいた。今日の冒険で、またお兄さまに迷惑がかかったらどうしよう。今朝も直武は、不機嫌そうに出かけていったのだ。
 その表情をみて、八重が、
「やめる?」
 とささやいた。千勢は、決然と首をふった。
 この機会をのがすわけにはいかない。ちかごろ、ひとりでの外出はきびしく止められているのだ。近所にいくのすら、だめだといわれる。星ヶ浦も、いまの千勢にとっては遠い場所なのだった。
「やるわ、ぜったい」
 千勢は断固としていった。
 南側に広がる海は、陽光をきらきらと反射してまぶしいばかりだった。
 心地よい風が、わたってくる。
「では、いまからしばらく自由解散にしますが、決してこの浜辺から出ないこと。わかりましたか」
 先生がいった。はあい、と元気な声がひびき、女学生たちはばらばらと浜辺に散りはじめた。
「いくわよ!」
 千勢が低い声で号令をかけた。美智子と八重は黙ってうなずき、先生方の視線をさけて、そっと浜辺から黒石礁へむかう小道にはいりこんだ。
 石ころ道を小走りに進んでいくと、やがて、瀟洒な洋館が見えてきた。
「たぶん、あれだわ」
 ひときわ広い敷地の中に、その洋館はあった。コロニアル様式の白い建物は、小さいながら遠目にも凝った繊細な造りで、高級住宅地である一帯のなかでも真珠のような輝きを放っていた。
 洋館の十メートルほど前で、三人は茂みに身を隠した。
 一階のカーテンは、すべてぴっちりと閉じられていたが、二階の海に面した窓が、少し開けられていた。
「やっぱり、だれかいる」
 千勢を先頭に、三人は足音をしのばせて、洋館に近づいた。
 玄関の取っ手をそっとまわしたが、まわらない。
「どうする?」
「裏口は?」
 三人はぞろぞろと裏手へまわった。
 勝手口の取っ手をまわすと、開いた。おどろいて、一瞬手をはなしたが、千勢は意を決して、ドアを開けた。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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