小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.061

2005/06/07

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「ああ、北京の皇帝さまのお宝が、大連にあるって話か」
「それよ。ある娘が、お宝の隠し場所を書いた紙きれをもってるってんだが、いったい誰のことだ?」
「そんなこと知るか」
 清朝が倒れてもう十五年にもなるのに、いまだにそんな伝説がまことしやかに流れているのか。ゴドノフはふっと微笑んだ。
 政治がどうかわろうと、庶民には関係がないのだ……いつもなら、だからこそ教え導かなくては、と演台で拳をふるうのだが、今日は、どうでもよかった。
 すべてうまくまわっているではないか。進展はなくとも、日々幸福に酔えれば、それでいいのではないか――。活動資金を阿片につぎこんだことさえ、ばれなければ。
 屋台と、そこにすわって談笑するひとびとを眺めながら歩いていくと、人の流れから離れた屋台の隅に、肩を寄せあう一団があった。
 屈強な男たちだ。元は苦力でもしていたのだろう、重いものをもちあげていた名残の筋肉が、肩や背中についていた。いまはそのあたりに、やさぐれた影がまとわりついていた。
 ゴドノフに、いたずら心がおきた。
 酒とつまみを買い、彼らのそばの席にすわる。ゴドノフは、かつて試合でつぶされてから、左耳が難聴になっていた。以来、人の右側には立たない習慣が身についている。
 もっとも、そのことは誰にもいっていない。弱みにつけこまれたくはない。
 いまもゴドノフは、通りに背をむける彼らとは逆に、雑踏をながめるように、その左手に腰をかけた。
 ぼそぼそと声が漏れてくる。
 左耳がつかえなくなってから、右耳の能力はあがっているようだった。
 さらに、ざわめきのなかからめざす声をききとることも、得意になっていた。雑踏のなかで情報を拾い集めることが、ゴドノフの仕事のひとつなのだ。
「お宝」
 ゴドノフの右耳が、するどく反応した。
 この一ヶ月、中国語にさらされるうち、聞き取りもだいぶうまくなっていた。まさか、ききまちがいではなかろう。
「最近やってきた西洋娘……大津……」
 さっきの立ち話とは、どうもレベルが違う。この男たちは、さらに深い話を知っているようだ。
「陳のはげおやじ」
「偽役人」
「紫禁城の」
 なにやら関係が理解できない単語も含まれていたが、ゴドノフは、ききとった単語を、頭のなかで並べてみた。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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