小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.060

2005/06/06

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 すぐに高級住宅街にはいった。
 整然とした美しい家並みが目をひく。しゃれたテラスや、手入れされた庭、温室をそなえた家もあった。どこからか、ピアノの音が聞こえてきた。
 こんな生活を手に入れたいと、願ったこともあった。試合成績が不振で、つい手を出したアルコールが、すべてをうばった。
 そしていま――。
 ゴドノフはいたたまれない気持ちになって、足早に北へむかって歩きだした。
 まっすぐ、繁華街へむかう。
 背をまるめて、人目を避けるように、ゴドノフは路地へと歩みいった。
 ぽっかりと口をあけている穴蔵。地獄への入り口が手招きしている。俺はそこに、自分からおりていくのだ。
 冷笑をうかべて、ゴドノフは階段をおりていった。
 慣れた足取りで、まっすぐ奥の個室へと進む。
 ゴドノフは煙盤を出させると、それをもって、煙榻《イエンタ》に横たわった。
 どんな雑踏より、温かいベッドより、いまはここがいちばん落ちつく。
 五寸(約十五センチ)ほどの細い針を、小さな壺の中にさしこんでから、ランプにかざす。
 それを繰り返し、だんだんと針の先の球が大きくなるのを、ゴドノフはじりじりしながら待った。
 あわてるな、もうすぐ至福がやってくる。自信に満ち、なにごとも――活動資金を阿片につぎこみ、返済のすべもなくうろたえていても――笑い飛ばせる、強い、本当の俺に出会えるのだ。

 ゴドノフは市場へむかって歩いていた。
 阿片窟で少し眠り、爽快な気分だった。
 腹はまったく空いていなかった。阿片を吸うと、食欲がなくなる。苦ではない。からだが軽くなったようで、気分がいい。
 だが、まだ帰るには早かった。マーシャが寝つくまでは、外にいたかった。
「一杯、ひっかけていくか……」
 もう、アルコールも恐くない。
 食べ物の屋台がたくさん集まった地帯にもぐりこみ、酒を出している店をさがした。
 昼はふつうの買い物客が中心だが、夜ともなるとうさんくさい連中が増えてくる。そういうひとびと相手のあやしげな屋台が、夕暮れどきになるとあちこちから湧いてくるのだった。
 立ったまま、点心をほおばる男たちがいた。なかば酔っているのか、大声で話したり、笑ったりしている。
「おめえ、知ってるか、お宝の話」
 ゴドノフは足をとめた。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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