小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


全て表示する >

[ibunko]アカシア少女探偵団 No.059

2005/06/03

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
┗━━━━━━━━━━━━┛

 中国語のレッスンを終えて外へでると、さわやかな風が頬をなでた。
 ゴドノフが大連にきて、一ヶ月以上がすぎていた。季節はすっかり春に衣を脱ぎかえていた。
 明日はもう天長節だ。
 あたたかい空気にさそわれて、ゴドノフは、まだいったことのないあたりを散策してみようと思いついた。
 到着した日に少し歩いただけですぐに活動にはいったため、繁華街と支那人街、そして、最下層の中国人労働者が多く住む、東のはずれの寺児溝へばかり通っていたのだ。
 ゴドノフは、街の南側へいってみることにした。そこには、南山とよばれる丘陵が広がっていた。
 この麓には、日本人の金持ちが住んでいるということだった。実業家や、満鉄のエリートサラリーマンたちだ。彼らもしょせんは資本主義の飼い犬にすぎん。ゴドノフは鼻をならした。どれ、飼い犬たちの顔をながめにいってやるか。
 大広場から南へむかうと、東洋一といわれる大連医院の威容があらわれた。まだ完成して二年ほどしかたっていない
 大連医院を過ぎると、女学校がみえた。まだ終業には早い時刻だったが、ひとりの女学生が門を出てくるのに、ゴドノフは気づいた。
 西洋人の少女――?
 改めて見直すと、やはり日本人の少女だった。が、髪の色が栗色で、日の光を浴びるとブルネットといってもいい色になった。遠目でよくわからないが、拳闘で鍛えたゴドノフの視力は、その少女の日本人ばなれした白い肌の色と、彫りの深い顔だちを見てとった。
 少女は、前にとまっていた黒塗りの自動車に乗りこんだ。車はすぐに発進し、ゴドノフの向かう方向へと走り去っていった。
 日本人でもあんな顔がいるのだな――ゴドノフは、日本でロシア語を教えていた生徒のひとりが西洋人の娘にのぼせあがっていたのを、ふと思い出した。
 イギリス人の母親とふたりで住んでいるということで、その生徒――たしか、椛島といった――が男手として、よく家内の修理などを手伝っているということだった。その少女を見たことはないが、日本名だったような覚えがある。西洋人なのに日本名をもつ少女、という記憶が、いまの女学生をみて浮かびあがってきたのだった。
 人なつこくゴドノフを慕ってきた椛島の顔が、思いだされた。お人好しで、御しやすい男だった……。
 頭をふって日本の思い出を頭から追いだすと、ゴドノフはふたたび歩きだした。

---------- 
※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
---------- 
■解除・登録⇒ http://ibunko.com/text/mbook/acacia.html 
□問い合わせ⇒ acacia@ibunko.com 
■制作・発行⇒ アイ文庫(有) http://ibunko.com

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。