小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.058

2005/06/02

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 昼食後、マーシャはひとり、台所にいた。
 ゴドノフは中国語のレッスンにでかけて、いない。いつも、夜遅くにならないと帰らなかった。
 マーシャもはじめは、ゴドノフが情報収集や個別接触のために遅くなるのだと思っていた。
 だが、「熱心な」活動ぶりのわりに、成果はあがっていなかった。
 ウラノフスキーがいたころも、成果というほどのものがそれほどあったわけではない。だが、しょっちゅう誰かがウラノフスキーを訪ねてきて、話しこんだりしていたものだ。
 ゴドノフに代わってからは、誰も訪ねてくる者はいない。まだ新顔のため、警戒されているのかとも思った。また、用心深いゴドノフのことだから、ここへ人を近づけないようにしているのかもしれない、と思うようにもした。
 だが……なにか、変だった。
 港に迎えにいったとき、あれだけ堂々として見えたゴドノフが、ときどき、ひどく頼りなげに見える。威嚇的だった目の光も、弱くなっているような気がした。
 一ヶ月以上ともに暮らして、慣れたせいかもしれない。少し痩せてきたようだが、集会で見るゴドノフが、堂々とした熱烈な支持者であることは、疑いようもなかった。
 しかし――毎夜、遅くまで、ゴドノフはひとりで何をしているのか。
 ゴドノフは、活動資金のやりくりに頭を悩ませてはいるようだった。
「中国人は現実的だ。金がいる」
 しかし最近の出費は、この数年間で最大だった。いったいどこへ流れていくのか。マーシャがたずねると、ゴドノフはいった。
「俺のやり方はこれまでの連中とはちがうってことを、覚えておいてもらおう」
 こんなときだけ、あの射すくめるような目がよみがえる。マーシャはなにもいえなくなってしまう……。
 相談相手もおらず、マーシャは日ごと、いらだちをつのらせるしかなかった。
 ウラノフスキーは食堂でも新聞に読みふけって、ゴドノフと目をあわそうともしなかった。南京事件で延期されていた南京行きがようやく決まったときは、こちらが顰蹙するほど喜んだものだ。
 彼は、密かにゴドノフを恐れていたようだった。今のゴドノフのようすを知らせてみても、とても信じてくれないだろう。
 マーシャはため息をついた。きちんとこたえてくれないなら、自分で調べるほかないのではないか。
 長らく下宿屋のおかみ役におさまってはいたが、若い頃から党活動をしてきて、判断力はもっているつもりだった。
 彼女がこうして長く大連にいるのも、コミンテルンが彼女の価値を、ただのおかみ以上のものと考えているからにほかならない。
 だが、相手はゴドノフだ。あの拳で殴られたら死ぬかもしれない。死を恐れたくはないけれど――マーシャは長い長いため息をついて、もうしばらく待つことにした。
 仮にも同志だ。もう少し信じてあげてもいいわよね……。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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