小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


全て表示する >

[ibunko]アカシア少女探偵団 No.056

2005/05/31

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
┗━━━━━━━━━━━━┛

「清朝の遺宝、というのが妥当な線だろうなあ」
 玉玲がぴゅうと口笛をふいた。
「二年半ほど前、清朝最後の皇帝溥儀が、紫禁城から退去させられたのは知ってるね」
 千勢と玉玲はうなずいた。
「その後、紫禁城に調査団がはいって、清朝の宝物をひとつひとつ書きだす作業にはいってるんだ。それと関係あるかな」
「調査のどさくさにまぎれて、宝物を持ちだしたのかしら」
 玉玲がきいた。
「いや、それはないだろう。それより、調査のおかげで、溥儀が退去前、弟の溥傑にいくつか宝物を紫禁城から持ちださせていたことがわかったんだよ」
「どうして……」
「紫禁城では、以前から宦官や官吏たちがこっそり宝物を盗みだしては、売り払っていたらしい。それで溥儀が調査しようとしたら、とたんに放火事件がおきた。盗みだしたやつが、発覚を恐れてやったんだろうといわれてる」
「まあ、ひどい」
 ふたりはあきれた。さもしい官吏たちに囲まれた溥儀が、気の毒にさえなった。
「それで、それ以上の被害を避けるために、弟に命じて宝物を一部避難させた」
「ねえ、宝物ってどんなもの? 宝石とか金の延べ棒とか?」
 千勢がきいた。劉生はくっくと笑って、
「いいや、大昔の書画の名品とか、そういったものだよ」
 とこたえた。
「なあんだ」
 千勢と玉玲が顔を見あわせて笑うと、劉生はまじめな顔で、
「なにいってんだい、これだから女の子は困る。貴重な文化財だぞ。それがどれほどの価値のあるものか、考えてごらん。王義之《おうぎし》の書なんて、値段もつけられないぜ」
 といった。
 恐縮したふたりを見て、劉生は満足したようだ。そのまましばらく考えにふけっていたが、ふと顔をあげた。
「そういえば、その溥傑が持ちだした宝物が天津の英国租界に預けられたらしい、という噂がある……そうか、なんとなく話がつながってきたぞ」
 劉生は突然、かがめていたからだを起こした。
「英国……秀子さん……もしかして、秀子さんは英国との関係から、宝物についてなんらかの情報をもっていると思われたのかもしれない」
 きょとんとするふたりをしり目に、劉生は興奮したおももちで台所を歩きまわった。やがて、
「ありがとう、ふたりとも! 北京のお宝については、俺が調べるよ。君らはひきつづき、秀子さんの逢い引き相手のほうを調べてみろよ」
 そういうと、はずんだ足どりで台所から駆けだしていってしまった。

---------- 
※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
---------- 
■解除・登録⇒ http://ibunko.com/text/mbook/acacia.html 
□問い合わせ⇒ acacia@ibunko.com 
■制作・発行⇒ アイ文庫(有) http://ibunko.com

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。