小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


全て表示する >

[ibunko]アカシア少女探偵団 No.050

2005/05/23

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
┗━━━━━━━━━━━━┛

 大きな黒檀の机のむこうには、大津秀道氏が渋面ですわっていた。
「とにかく、これまで犯人側からはなんの連絡もないのです。どうにも動きようがない」
 部屋のまんなかで話しているのは、警察の人間のようだ。記者たちが、その男の話をせっせと書きとめていた。
「共産党の関与については?」
 だれかが質問した。
「現在のところ、その線が濃厚です。土曜日の夕方、この家の前で中国人が目撃されている」
「目撃したのは?」
「有島少尉の妹さんだ」
 みんなの目が、直武を見た。やがて視線は、直武がつれてはいってきた少女に移った。
 大人たちに注目されて、千勢はいたたまれない気持ちになった。
 劉生も千勢を見た。人々の視線が、ふたたび警察の男に戻ったとき、千勢は劉生に目配せをした。すんでのところで、劉生はそれに気づいた。
 千勢は、
「あ・と・で」
 という形に口をぱくぱくさせた。
 不思議そうな顔で、劉生は千勢を見つめ返したが、意味がわかったのか、かすかにうなずいた。
「千勢、おまえはこの部屋のそとで、待たせてもらいなさい」
 直武がささやいたので、千勢はうなずいて、そっと外へでた。きっと、新聞記者たちが帰ってから、直接大津氏と話をするのだろう。それまでは、千勢はお役御免というわけだった。
 廊下に、秀一郎が所在なさげに立っていた。
「大変なことになりましたね」
 しかたなく、千勢は声をかけた。
「まったくね。ちょくちょくひとりで出かけていたものだから、それほど気にはしてなかったんだが」
 秀一郎は、実際たいして気にしていない風で、そういった。
「秀子さんは、ほんとに誘拐されたんでしょうか」
 千勢はさぐりをいれてみた。秀一郎が秀子の男性関係を知っているかどうか、知りたかったのだ。
「そうでしょうね。大津洋行からなら、たんまり身代金をせしめられると思ったんでしょうよ」
 秀一郎はそういって、肩をすくめた。
「秀子のために、うちの財産をつかうことになるとはね」
「あのう……」
 失礼にあたるかしら、と千勢は考えたが、思いきってきいてみた。
「秀子さんは、腹違いの妹さん……ということですよね」
「そうですよ」
 頓着するでもなく、秀一郎はこたえた。

---------- 
※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
---------- 
■解除・登録⇒ http://ibunko.com/text/mbook/acacia.html 
□問い合わせ⇒ acacia@ibunko.com 
■制作・発行⇒ アイ文庫(有) http://ibunko.com

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。