小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


全て表示する >

[ibunko]アカシア少女探偵団 No.049

2005/05/20

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
┗━━━━━━━━━━━━┛

 父からまわされた車に乗って家に帰ると、家の前に軍の車がとまっていた。
 家にはいると、直武がいた。
「どうしたの、お兄さま、こんな時間に」
 千勢は驚いた。そういえば、昨夜兄は家に戻らなかったのだ。
「うん。妹が失踪した女学生と同級だといったら、今回の事件捜査の補佐をするよう命じられてね。おまえが帰るのをまってたんだ」
 軍が警察の補佐をするとは、よほどの重要事件と見られているのだ、と千勢は思った。
「お兄さまも、共産党の関係だと思ってらっしゃるの?」
 千勢がきくと、直武は、
「そうだね。千勢が見た男は中国人だったんだろう? そう聞いたとき、ぴんときたんだよ」
 あの男はちがうのよ……といいそうになって、千勢はあやうく口をつぐんだ。
 やっぱり、劉生さんには話しておこう。千勢はどうやって劉生に会うか、思案をめぐらせた。
「そうだわ、わたしをまってたって、どういうこと?」
 ふとさっきの兄のことばを思いだした。
「うん、いっしょに大津邸にいこうと思ってね」
 直武は、なにやら少しいいにくそうに、そういった。千勢のほうは、内心「やった!」と小躍りした。
「すぐいきましょうよ!」
「とにかく荷物をおいてきなさい」
 千勢は部屋に教科書をほうりこみ、急いで戻ってきた。
 千歳に見送られながら、待たせてあった車に乗りこみ、ふたりは大津邸に向かった。
 大津邸の前には、数台の車が止まっていた。軍、警察、新聞社などのものだ。
 劉生もいるかもしれない。千勢の心ははやった。
「おお、有島少尉」
 秀一郎が出迎えた。
「秀子さんの事件の補佐をするよう命じられましてね」
「そうですか、それは心強い。どうぞ、応接室のほうに。みなさん集まっておられますから」
 千勢は直武のあとについて、応接室に入った。紫煙がたちこめるなか、大勢の男たちが大きな黒檀の書斎机をとりかこんでいた。
「どうも、おまえは場違いだったな」
 しまった、という顔で直武がささやいた。
「いいのよ、お兄さま。わたし、すみっこでおとなしくしてるから」
 千勢は模範解答をして、ことばどおり部屋のすみに立った。大人ばかり集まって重要事件の話をしている、そんな場にいられる幸運を、千勢はひそかに兄に感謝した。
 男たちのなかに劉生の姿を見つけて、千勢はほくそえんだ。会いに行く手間がはぶけたわ。

---------- 
※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
---------- 
■解除・登録⇒ http://ibunko.com/text/mbook/acacia.html 
□問い合わせ⇒ acacia@ibunko.com 
■制作・発行⇒ アイ文庫(有) http://ibunko.com

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。