小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


全て表示する >

[ibunko]アカシア少女探偵団 No.044

2005/05/13

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
┗━━━━━━━━━━━━┛

 雑踏にもぐりこむと、不思議と気持ちがおちついた。陳は酒屋を見つけると、空き瓶に白酒をいれてもらった。アルコール度数が高く、手っとり早く酔える酒だ。
 酒瓶を片手に、あおりながら市場をぶらついた。手元には、まだそば代ていどは残っていた。
 陶のところにいた男が、数メートル先の屋台で話しこんでいるのが見えた。陳はこそこそと路地をまがった。
 路地の奥は、小さな空き地になっていて、食べ物の屋台が店開きしていた。
 陳はそばを頼んで、すわる場所をさがした。
 すみの方に、なかなかの美人がすわっていた。ひかれるように、美人のそばの椅子に腰かけた。
 年のころ二十二、三といったところだろうか。あでやかな顔つきだが、意外と目つきが鋭い。そばをずるっとすすりこみながら、陳はちらちらと女の横顔を観賞した。
「おっさん、あたしの顔になにかついてるかい」
 突然、女がこちらを向いて、陳にいった。気づかれているとは思わなかった陳は、あやうく皿を取り落とすところだった。
「あ、いやいや、あんたをみていたつもりはないんだが……」
 女は、陳の頭から足までを、遠慮なくじろじろと眺めた。
「あんた、どこからきたんだい」
 女が自分に興味をもったらしいのを知って、陳はおどろくと同時に、いい気分になった。俺もまだまだ捨てたもんじゃない。
「なに、北京からついたばかりだ」
 都会人をアピールして、女の気をひこうとする。
「ふうん……もしかして、北京のお偉いさんかい?」
 わかるやつにはわかるんだ。陳はますますいい気分になった。
「わかるかね」
「まあね」
 女はくすっと笑った。それを好意とうけとって、陳はしゃべりだした。
「紫禁城で、皇帝さまにお仕えしていたのさ。大連へは、皇帝さまにお役目を仰せつかってやってきたところだ」
「それはそれは……もしかして、紫禁城の宝物をさがしにきたってのは、あんたかい」
 陳はぎょっとした。
「な、なんでそれを」
「なに、ちょっとそんな話を小耳にはさんだもんでね……」
 陳はあわてて、立ちあがった。
「ああ、用事を思いだした。すまんな、お嬢さん」
 おたおたとそういいおいて、陳は路地をとびだした。なんてこった、大連中の人間が俺のお宝を狙っている!
「お宝は俺のもんだ、誰にもわたすもんか」
 酒瓶を抱えると、雑踏から遠ざかろうとがむしゃらに走った。
 急に酔いがまわってきた。


---------- 
※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
---------- 
■解除・登録⇒ http://ibunko.com/text/mbook/acacia.html 
□問い合わせ⇒ acacia@ibunko.com 
■制作・発行⇒ アイ文庫(有) http://ibunko.com

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。